獣王の森。
「これがいったいどういうことなのか分かるか?」
淡々とした口調であったが、滲み寄る脅威は殺伐としていた。
私は竦み上がり、ただ上目遣いで機嫌を窺うしかない。
「さぁ、お前の答えを聞かせてみよ」
相も変わらず厳しい目付きで睨み付けてくる。
つい、その雰囲気に圧倒されてしまい俯せてしまった。
「……それは……やりたかったから……」
答えてしまった矢先、後悔の念が後を立たない。
決して「食べたかったから」ワケではなく、ただ本能に委せて矮小なる命を刈り取ってしまったからなのだ。
目の前で横たわるそれには最早生気は無く、唯の肉塊でしかない。
その姿は誰の目にも映し出されないというのに、存在だけが規則であると。
王様であるということだけが全てであった。
しでかしてしまった行為に反省し項垂れるも、つい口を滑らしてしまったのは私の性分なのだろう。
「だって……すごく面白そうで……可愛かったんですよ!!」
端から視ていた者達は皆、あまりにも可哀想な目付きで私を見下していた。
いや、見下していたというのは私の主観だ。
ここ、密林に於いては決められた掟がある。
それは食欲にどうしても我慢出来なかった時にだけ赦される。
況してや、興味本意やちょっとした衝動に唆されてはならないのは極当然の事なのだ。
不満が無いとは言い切れないが……
次期、獣王として期待されていた私としてはあまりにも不名誉。
まさか、たった一匹のネズミを噛み殺しただけでこうも追及されようとは。
だが、油断などしてはならない。
たとえ一匹ではあろうとも、反撃された箇所に於いては致命的なのは必須。
窮鼠猫を噛むとはよくいったもので、面持ちなら無いのが現状なのだ。
ならば、悔い無く殺してしまえば禍根は残らないのではないだろうか。
傲慢かもしれないが……言い分に強ち間違いは無いと思う。
私が正しいのかどうかを公正に審判に委ねた後に突き付けられたのは……。
追放という、非情な裁決だった。
「意義なし」「意義なし」「意義なし」
そう唱えた彼等に対して不満は募るも、やらかしてしまったのは事実であり、だがそれでも憤怒は溜まり尽くしていった。
いつか、報復してやる ──……。
獅子が虎に敵うのかどうかは分からないが、下剋上な世の中だけは変わらない。
獣王の森は
今宵も会議で騒がしい。