とある日の『Marionette』
「いらっしゃいませ、ようこそ『Marionette』へ」
そう言った笑顔の少女は、男に向かって軽くお辞儀をする。
「あんたがアリスか?」
男がそう言い放つと少女は顔を上げる。
「はい、私がアリスですわ」
その言葉を聞いた男はアリスの顔をジロリと睨むと
「……あんたが寄越した手紙を見て来たんだが……」
そう言って男はズボンのポケットから一通の手紙をとりだす。
そこには少し歪んだ字で『貴方が望んでいる能力を差し上げます。興味がおありならこの住所まで〈アリス〉より』と住所を添えて書いてあった。
「あんた、手の込んだイタズラをしてくれるよな?俺はそれの文句を言いに来たんだ!」
男はイライラとした口調でそう言うと、顔をしかめた。
しかし、それに対してアリスは未だに崩れることのない笑顔で
「イタズラ?ふふふふ、違いますわ。その手紙に書いてあることは本当でしてよ?」
と言い、首を傾ける。
「あぁん?なめてんのかお前は?ぶち殺すぞ」
「………殺されたくはありませんが、確かに信じられないのも仕方ありませんわね…ですが、少しでも信じたからこそ此処に来たのではありませんの?」
「は?信じる?この電波な手紙をか?んな訳ねぇだろ!」
男は近くにあったテーブルを手のひらで、バンッと叩く。
普通はこんな風に威嚇されたなら、動揺して表情が変わるであろう。ましてや相手は少女である。
しかし、アリスの笑顔は崩れない。
「ふふふふ、では能力を見せて差し上げましょうか?」
「あ?あんたまだふざけた事抜かすのか?人を馬鹿にするのもいい加減に……」
その時であった、目の前にいた筈のアリスが突如として男の視界から消える。
「は⁈どこ行きやがった⁈」
「………ここでしてよ?」
男の背後から声が聞こえる。
「う、うわぁぁぁ」
後ろを向き、いきなり背後から現れたアリスに気がつくと、男は驚き、間抜けな声を上げながら床に尻餅をつく。
「……ふふふふ」
「あ、あんた!何をした⁈」
男が動揺しながら声を上げるとアリスは再び、男の目の前から消える。
「……これが能力ですわ?」
「…ひ⁈ひぃぃ」
またも、背後から聞こえる声に、男は振り返ることなく前に倒れこむ。
その身体は小刻みに震えている。
「お分かりいただけまして?もし、貴方もこのような能力が欲しいのであれば、ご注文をどうぞ……何せここは喫茶店ですから」
崩れない笑顔で言うアリス。振り返り、その笑顔をチラリと見た男は
「ひぃぃぃぃぃ‼︎」
と悲鳴を上げながら外へと出ていってしまった。
「あらあら、お早いお帰りですこと…」
そう言うと、アリスは右手人差し指を唇に当てながら
「またのご来店をお待ちしております」
と言って軽くお辞儀をしたーー。
次回から物語が進んでいくこととなります。
連作短編小説なので短い区切りで完結し、また新たな形で物語が始まっていきます。
これからどうぞよろしくお願い致します。