悪役令嬢(仮)は初恋を語る
主人公ちゃんの語りのみです。
あれは、そう、私が6歳の頃でした。
仲良くするんだよと、お父様が1つ年上の婚約者様を紹介してくれたのです。
婚約者様は、素っ気なく、「よろしく」とだけ挨拶し、私を置いて侍女に書庫の場所を聞き、移動してしまいましたの。
私は慌てて、婚約者様の後を追いましたわ。
当時の私は侯爵家の令嬢という事で、幼いながらまわりに取り巻きもおりましたし、チヤホヤされ慣れておりましたから、私に素っ気なくする婚約者様が、気になってしまったのです。
私を褒める言葉を言わない、寧ろ、私と目を合わそうとしない。
私を無視して、本を読みに行くなんて、信じられなかったのです。
そうです、当時の私は思い上がってたのですわ。
「私、偉い。私、可愛い。」
って…残念なお子様だったのです。
え?今も別の意味で残念で可愛い?
ちょっと、言ってる意味がわかりませんわ。
もう、話を進めますわよ。
すぐに、書庫にいる婚約者様の元にたどり着きましたわ。
勝手知ったる我が家ですが、あまり書庫には入った事がありませんでした。
当時の私は、お勉強があまり好きではなく、あ、失礼、今も…ですわね。
訂正しますわ。
今も、ですが、当時はもっとお勉強が嫌いでしたから、書庫なんて、寄り付かなかったのです。
本がいっぱいで、本を守るために、厚いカーテンを引いてある薄暗い場所なんて、好き好んで入る人なんて、居ないと思ってましたの。
あ、お兄様は別ですわ。
お兄様は、薄暗い所がどうやらお好きらしいの。
よく新人の侍女を連れて行ってるらしいのですが、何をしているのか、わかりませんわね。
あぁ、と遠い目しないでくださいな。
いっておきますけど、お兄様はとても凄い人なのですよ。
所謂、完璧な人「perfecthuman」なのですわ。
自慢の兄なのです。
偶に、ちょっと、行動が色々とアレな感じですが。
あぁ、脱線してしまいましたね。
続けてよろしいですか?
そんな場所で、婚約者様は、目を輝かせて本を見つめてました。
そして、後から入ってきた私に向かって、とても嬉しそうに笑ったのです。
「凄いね、流石博識と評判高い侯爵様の書庫だ。見た事がない本がいっぱいあるね。」
その、とても綺麗な笑顔に、一目惚れしてしまったのです。
本ではなく、私に向かって、その笑顔を見せて欲しい。
そう、思ったのです。
幼いながらに、周りはみんな、表面だけのやり取りを行なってましたから。
婚約者様の、純粋な、好きなものに対して向ける笑顔。
それが、私のこの小さな胸を掴んで離さなかったのですわ。
あ、やめて下さい。「どれどれ?」って胸に触らないで下さいな。
話をやめますわよ。
そう、わかればいいのです。では、続けますわよ?
それから、私は婚約者様のお側に居られるよう、私も本をなるべく読むようにして、キチンと婚約者様とお話出来るよう努力したのです。
話題についていけないと、視界にも入れてもらえない状態でしたからね、あの頃の婚約者様は。
その目に写して貰えるよう、努力した私は、偉いと思いますわ。
あら、今も努力している姿は可愛いですって?
そうでしょうか?だとしたら、嬉しいですわ。
ありがとうございます。
これが、私と婚約者様の馴れ初め。
私の初恋ですわ。
え?エピソードとしては、弱い?
なにか、もっと盛り上がる話を期待していた?
そんな事言われましても…。
では、これではどうでしょう。
…魔王があの世に降臨して、婚約者様が勇者に選ばれ、私が魔王に攫われ、そこを勇者である婚約者様が…。
え、もういいのですか?
これからが婚約者様の活躍の場なのですが。
うふふ、私の初恋のお話を聞いて下さって、ありがとうございます。
私も当時の気持ちを思い出せて、楽しかったですわ。
本日は、ここまで。
お付き合いくださり、ありがとうございました。