たくや、バスケしようぜ
「おい起きろよたくや、今日の昼休みバスケ勝負な。」
授業終わりのチャイムが鳴るのが早かったか大輝の言葉が早かったか、眠っていたたくやに昼休みの合図が訪れた。どうやら授業は早めに終わっていたらしい。読みにくい筆記体の英文が羅列された黒板を日直がもう半分は消し終わっている。
英語の授業は嫌いだった。外国の言葉なんてどうして勉強する必要があるんだ、日本語が話せればそれで十分だろ、、、
というのは言い訳に過ぎず、たくやは、何故が英語のテキストと黒板に書かれる文字を見ると同時に襲ってくる眠気にいつも勝てないでいるのだった。
「お前、他の成績はいいのに英語の授業だけはいっつも最初から最後まで寝てるよな。こないだなんて赤点だったし」
体育館で手頃なバスケットボールを探しながら大輝はそういった。
「お前に言われる筋合いはないけどなあ、、英語以外全部赤点のだ、い、き、くん?」
たくやは大輝よりも先に見つけた手頃なボールを投げ渡しながらそういった。ボールが程よく手にかかり綺麗なバックスピンがかかっていた。
「まあ、優等生のお前にはわかんねえよ。俺だって授業はちゃんと聞いてるんだぜ?現国のハゲ頭に何本の髪の毛があるのか、数学のメガネの度数が最近増えたとか。お前知らないだろ?」
……それは授業を聞いてるとは言わない。
そんなことを抜かしながら、ボールを手に取るとウズウズしてしょうがないらしく焦れったいように大輝はいった。
「昼休みにまで授業の話をするのはここら辺にして、さっさと始めようぜ。今何勝何敗だ?」
「俺の150勝0敗だ」
「うわ、たくやくん何ですか自慢ですか」
「お前が言わせたんだろうが。。」
「まあまあ。でも今日は勝つからな。よし、始めるぞ、いつも通りの10本勝負。超能力の使用は無し、な?」
「お前が超能力を使っても俺は勝てるけどな」
「うるせえ。それはフェアじゃねえだろ」
「150回も負けてよくそれが言えるな。まあいい、来いよ。」
俺たちの過ごす学校は少し特殊だった。この学校は、街全体を経営する大きな孤児院の中にある学校で、通う生徒達は皆、みなしごだ。俺も大輝も、両親がいないため、孤児院の寮に住みこの学校に通っている。
街全体を孤児院が経営しているというのは変に聞こえるが、この孤児院の院長は同時に街を運営しており、学校を抜けた先のコンビニも孤児院の裏の病院も全て、昔に院長が孤児院の中で何不自由なく過ごせるように作ったのだという。
事実、不自由を感じることはなかった。物心つく前から孤児院で過ごしていたたくやと大輝も街から出たことはなかったが困ったことはなかった。
この学校において特別なのはみなしごだというだけじゃない。この学校で過ごす子供たちは何故か全員、多かれ少なかれ超能力を持っている。それは大輝も俺も例外ではなかった。
超能力を持つがゆえに怖がられ、親から捨てられたかわいそうな子供たちの行き先が、この孤児院とこの学校、と俺たちは考えている。ただ……
いつもの通り10本全てで圧勝したたくやは、数学の授業の時間にもの思いにふけっていた。
ここは確かにみなしごの集まる孤児院だが、特別なのはそれだけじゃない。
「…俺だけしか知らないと、誰にも話せないよなあ。どうしたものか。」
たくやは板書を写し終えると、小さな声でそう呟いた。
この孤児院は、学校でも街でも何でもない。
ここは「刑務所」だ。