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第7話 迷惑なの?わがままなの?

「ねえ、あんなこと言っちゃって、今度、杏菜が狙われたらどうすんの」

 駅に着くと、すんごい冷静にタマちゃんが和真に言った。私はようやく和真が私から離れ、へなへなと座り込む寸前、なんとか、自分の傘を杖代わりにして立っていた。


 でも、自分がタコとかイカとか、軟体動物にでもなったかのような感覚だ。


「杏菜が?それはないだろ。あいつが好きになったのは、テニスをしている元気印のこいつだろ?」

 そう言いながら、和真が私の頭をこつんとこついた。

 なんか、またいつもと同じ扱いになったぞ。


「わかんないよ?だって、今日の今日まで、双子の存在を知らなかったじゃない」

「双子の片方がダメだったからって、もう片方に行くか?」

「そんなやつもいるかもしれないよ?」

 タマちゃんとポチで、そんなことを和真に言って責めている。


「だったら、どうしたらよかったんだよ。あきらめの悪そうな男だったんだから、ああ言うしかなかっただろ」

 和真が怒った?

「わ、私だったら大丈夫。前にもストーカーみたいなのがいて、なんとかサッカー部のみんなが守ってくれたから。今回もお願いしたら、家まで送ってくれると思う」


「ああ、そう。じゃあ、サッカー部の連中に送ってもらって?俺、さすがに二人もお守りできないし」

「う、うん。そうだよね」

 杏菜が、笑うこともなくそう答えた。あまりにも、和真の話し方が、クールすぎて。


 私も複雑な気持ちになった。お守りって…何?

 ああでも言わないと、あきらめつかないって、何?


 ううん。私、相合傘で腰まで抱かれちゃって、心臓バクバクになって、浮かれて、王子さまみたい、とかわけのわかんないこと考えて、バッカみたい。現実はこれだよ。単なる、お守り。


「帰っぞ」

 和真がそう言って、改札を抜けた。私と杏菜もその後ろから改札口を通った。

 杏菜、ずっと黙り込んでる。私も和真もなんとなく、気まずくって何も話せなかった。


 電車はたったの二駅。いつもなら、和真とバカ言ってふざけあって二駅なんてあっという間。

 家までの道も、いつもなら、どっかに寄っていくのに、今日は杏菜がいるからどこにも寄れない。


「か、和真君」

 あとわずかでうちまでっていうときに、杏菜が口を開いた。

「え?」

「和真君の家って、こっちだっけ?」

「いや。もう過ぎた」


「今日も家まで送ってくれるの?」

「一応。あの変な男が、こっそりつけてたら、やばいし」

 和真はそう言うと、少し私たちから離れ、来た道のほうに顔を向けた。

「まあ、そこまで危ないやつだとは思わないけど、念のためね」


「なんか、和真君にはいつも迷惑かけてるよね」

「え?俺、別に杏菜に迷惑かけられた覚えないけど」

「でも、柚葉のこと毎日送ってくれてるんだよね」

「部活があって遅くなったときにはね」


「中学のときにも、この辺に変質者が出るって言われてたときに、柚葉のこと送ってくれたよね?」

「そうだけど。それが?」

「優しいよね、和真君って」

 杏菜?!


 な、な、なんで、そういうことを直接和真に言うかな。変だよ。頼りになるとか、優しいとか、なんでそんなに和真のこと、持ち上げようとするの?


「俺、人一倍、優しくないと思うんだけど」

 和真は、すっごく冷めた口調でそう言った。


 ドキン。ドキン。まさか、杏菜、お母さんに言われたことを真に受けて、和真に付き合えるよ、なんて言い出すんじゃないよね。

 サッカー部の部長がダメだったからって、和真に乗り換えようと考えていたりしないよね?


 家に入り、

「ただいま」

と、二人して低いテンションでリビングに行った。


「あれ、珍しく一緒に帰ってきたの?」

 母は能天気。おせんべを食べながら、テレビを見ていた。

「うん。部活休みだから。また、和真君に送ってもらったの」

「相変わらず、優しいわよねえ。和真君は、昔から杏菜に優しいんだから、この際付き合ったらいいじゃない?杏菜」


 はあ?!

「でも、一回ふっちゃってるし。私からは言いづらいなあ。ねえ、柚葉」

「え?!そ、そんなこと、私にはわかんないよ。そ、それから、お母さん。和真は私のこともいつも送ってくれてるんだからね」


「悪いわよね。あんたも和真君にいつまでもわがまま言うのやめなさい」

 なんなの、杏菜と私のこの差は?

「わ、私だって、和真と付き合ってもおかしくなくない?同じテニス部だし」

「あんたが?男の子と付き合う?」

 今、思い切り馬鹿にした笑いをしなかった?


「私だって、杏菜と同じ高校2年なんだからね。お母さん、いっつも私のこと馬鹿にしすぎだよ!」

「馬鹿にしたわけじゃないけど、あんたには恋愛なんてまだ早い」

「馬鹿にしてるじゃん!!!もう、いいよ!」

 

 母親の癖して!くそ~~~。グレてやろうかな。

 私は階段をダンダン!と大きな音を立てながら2階に上がった。

「うるさいわよ、壊れるでしょ」

 母が1階から怒鳴ってきた。誰のせいだと思っているんだ。ちきしょうめ。


「柚葉、入るね」

 着替えを済ませた杏菜が、勝手にドアを開け入ってきた。私はまだ制服で、ふてくされながらベッドに横になっていた。


「気分悪いの?」

「別に」

 起き上がって、制服を脱いで、Tシャツとジーンズになった。


「お母さんのこと、悪く思わないであげて」

「は?何で杏菜がそんな弁解しているの?」

「まだ、お母さんには、柚葉が子供に見えるんだよ」

「杏菜と変わんない!もう高校2年だけど?」


「でも、私のほうがお姉さんだもん」

「一緒の日に生まれたんだよ?!」

「……柚葉のほうが可愛いんだよ。手がかかる、いつまでも子供って思いたいんだよ」

 はあ?可愛いのは杏菜のほうでしょ。いつでも、なんでも、杏菜優先じゃん。


 昔は、まったく同じ服を着せられていた。靴もカバンも全部が一緒のピンクだった。でも、幼稚園にあがるとき、幼稚園グッズを手作りにしないとならなくて、母は、ピンクと黄色の布地を買ってきた。ピンクは杏菜で、黄色は私だった。


 杏菜のお弁当の袋や、コップを入れる袋には、可愛らしくピンクのフェルトで、杏をモチーフにしたアップリケを縫い、私のは柚のアップリケだ。黄色のフェルトで作ってあった。


 それ以来、ずっと、私の髪留めやシュシュ、カチューシャ、服、タオル、ポーチ、全部が黄色メインのもの。杏菜はピンクだった。いまだに、私のパジャマは黄色だし、スリッパ、タオル、コップ、茶碗、家で使うものは黄色だ。


 おかげで、和真は、私は黄色が好きなんだと思っている。私が一番好きな色はピンク。本当はピンクなの!

 それをずっと我慢してきているのに。


「和真君のことなんだけど」

 ドキ。な、何よ。

「私も、和真君の優しさにずっと甘え続けるのはどうかと思うよ」


「は?」

「あの、他校の生徒にだって、やっぱりちゃんと柚葉が付き合えないって断らなきゃいけなかったと思うし」

「なんで?杏菜だって、変なストーカーから、守ってもらってたんでしょ?サッカー部の部長とかにさ」

「それは…」

 杏菜が黙り込んだ。そして、くるっと後ろを向いた。


「わ、私のことはいいから、別にあの人、ストーカーってわけじゃないんだし、きちんと柚葉が断るべきだよ。彼氏の代わりになんてさせたら、和真君に悪いよ」

 杏菜はそこまで言うと、タタタっと部屋を出て行った。


 なんなの、なんなの、なんなの、それはっ!


 なんで、私が悪者なんだよ~~~~~~。


 そりゃね、私だって、はっきりと好きな人がいるって断るよ。ちゃんと、断りますよ。でも、初の告白で、わけわかんなくなって、何をどうして良いかもわかんなかったんじゃない。何度もコクられてる杏菜とは違うもん。


 だいたい、なんで和真君の優しさに甘えちゃダメみたいなこと言うわけ?お母さんも、迷惑かけてとか言ってるし。なのに、杏菜だと、彼氏にしたらって、勧めるし。わけわかんないっ!!!


 悔しいよ~~~。


 翌朝、見事に晴れた。また、母は部屋のドアをガンガンたたきに来たが、

「起きてるよ!」

と部屋の中から叫び、着替えをした。


 1階に下りて、すぐに洗面所に行って顔を洗っていると、

「おや、ご飯は食べないのかい?」

と、父がやってきてにこにこしながら聞いてきた。


「今、ストライキ中」

「お母さんに反抗しているのかい?」

「お母さん、ひどいんだもん。和真を杏菜の彼氏にいいわよって勧めて、私には和真にあんまりわがまま言うなって怒って。わけわかんない」


「う~~~ん。確かにねえ。和真君は、柚葉だよねえ」

「だよね?!」

 お父さんはわかってくれてる!

「でも、ストライキはないよ。ちゃんと朝食食べなさい、柚葉」

「いいの!私、怒ってるんだから」


「柚葉、早く食べなさい。片付かないでしょ」

「うっさい!いらないから。行ってきます」

 私はさっさと家を出た。お弁当も持たないで。


 そして、坂道をダ~~~っと下っていき、和真の背中を見つけて、バチンとたたいた。

 あれ?反応ない。和真は黙ったまま、前を向いている。


「お、おはよう、和真」

 怒った?どうした?なんで、反応ないの?

「柚葉」

「うん」


「昨日のことだけど」

「え?う、うん」

「タマはあんなふうに言ってたけど、でも、まだ、あのやろうが柚葉にちょっかい出してくるかもしれないし」


「う、うん」

「俺、彼氏のふり、続けてやるからな?」

 ドキン!

 

 そう和真は私のほうを向かずに、前を向いたまま話した。

「わ、わかった。ありがと」

 嬉しくなりながら、テレながらもお礼を言ってから、母の言葉を思い出した。それから、杏菜の言葉も。


「あのさあ、私、甘えすぎてるかな」

「何を?」

 やっと和真がこっちを向いた。

「和真に、いろいろと甘えすぎてるかな」


「………。よく言ってる意味がわかんないっすけど?」

「だから、その。彼氏のふりとかしてもらったり、帰りにいっつも送ってもらったり」

「そんなの、気にすんなよ」

「そうだけど」


「……変なの。そんなこと気にするキャラじゃないだろ、お前」

 コツンと頭を軽くたたかれた。

 ドキ。いつもと変わらない和真だ。


「どんなキャラよ、私って」

 にやけそうになるのを抑え、わざとムッとしながら言い返す。

「元気印で、テニスばっかしているテニスバカ」

「ひ、ひどい、それ」

「でも、あたりだろ?」


「あたってない。全然あたってない」

 それは、かなり嬉しくないよ。いろいろと悩むことも多くって、テニスばっかりしているわけじゃないんだから。

 現に今だってこうやって、和真のことで悩んでいるのに。


 グ~~~。駅までの道、お腹が鳴った。昼まで持つのかな、私。

「どうした?元気なくない?」

 う、気づかれた。

「朝、抜いてきたの」


「寝坊?」

「ううん。ストライキ中」

「まだ、そんな子供じみたことやってんの?中学のときにもしてたよね」

「よく覚えているね」


「なんだったっけ?お小遣いの金額をあげさせようとして、しばらく朝食抜きにしていたんだっけ?」

「今度は昼も」

「え?!大食いのくせに、何言ってんだよ。倒れるよ?」

「お弁当を持ってこないことにしたの。ちゃんと、学食で食べるよ」


「わあ。ガキくせ。また、お小遣いアップでもねだってるわけ?」

「そうじゃないよ」

「じゃ、なんだよ」

「い、言えない」


 言えるわけないじゃん。和真のことで怒っているだなんて。

「弁当、せっかく朝早く起きて作ってくれてるんだから、それは食ってやったら?」

「和真までが、私を悪者にする」

「……、悪者にされたの?」


「……」

 和真が、なんか、優しい声を出した。ドキュンって、なっちゃったよ。


 電車に乗り込むときに、つい、人ごみの中に行くのを忘れてしまった。心臓がどきゅんってなっちゃって、電車に乗ることも忘れてしまっていた。和真が私の背中をぐいっと引っ張り、

「なんで、電車に乗んないんだよ。ドア、閉まるぞ」

と私を電車に乗せた。


「ご、ごめん!」

 うっぎゃあ。和真の手がまだ私の背中に。そのまま、ぎゅうぎゅう詰めの中に入り込んじゃったよ。


 バン!和真がドアに手を当てた。


 こ、これは、この図はまさに、壁ドンだよね?

 私の背中の後ろにはドア。まん前には和真。和真の片手はまだ私の背中。(多分、手を離すタイミングがなくなったんだと思う。)そして、もう片方の手はドアに当て、かろうじて、私と和真の隙間を5センチくらい保っているって感じた。


 う、うわ。うわわ。やばいってば。顔、近い。和真が顔を横に向けてくれているからいいけど、近すぎるってば。


 なんか、和真からいい匂いがする。なんだろう。汗を拭いたりするやつかな。多分、シトラス系。

 

「あ、あ、あのね、あのね」

 二駅と持ちそうもなくて、私の口が動いた。

「え?」

「お母さんも杏菜も、私が和真に迷惑かけてるとか、わがまま言ってるとか言うんだよね」


「わがまま?」

 ドキ。和真の顔がこっちに向いた。

 うわ。おでこに息がかかった。


 やばすぎ。心臓が~~~~~~~~~~~~~~。


「え?それで?」

 心臓ばくばくなのに、和真が聞いてきた。

「そそ、それでねっ。わがままをあんまり言うなとか、迷惑かけるなとか言うから、そんなことないって私が切れて、なんていうか、その…」


「それで、喧嘩?」

「喧嘩ってわけじゃないけど、その…。頭にきちゃって」

「なんだ、それ」

 あ、呆れた。


 ふうってため息を和真がした。その息がかかった。何気にミントの香りがした。歯磨き粉?それとも、ミントの飴でも食べてた?


「そんなことで、ストなんてすんなよ。朝抜くなんて、お前昼までもつの?」

「もたないかも」

「だろ?」

「……」


 それより今、駅まで心臓が持つかが心配だよ。


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