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第6話 絶対、見分けがつくんだよ。

「ああ、朝っぱらから生徒総会ってめんどうくせ~」

 そう言いながら、ポチと教室を出た。

「城野って、いっつも顔が冷めてるし、そういうことばっかり言ってるから、女子が声をかけてこないんだろうね」


「俺?」

「見た目、冷めてて、とっつきにくそうだし」

「ああ、そう?」

 でも、他の女なんかどうでもいい。柚葉だけで手いっぱいだ。


 渡り廊下から体育館に向かった。体育館に入ると、ごちゃごちゃっと入り口に人がたまっていた。

「あ、南郷じゃん」

 ポチがそんなかたまりのに方に指をさした。


 俺もポチが指をさしたほうを見たが、柚葉じゃないからスルーした。

「え?声とかかけないの?城野」

「なんで、声かけないとならないわけ?」

「いとしの柚葉ちゃんだよ?会えて嬉しくないわけ?」


 はあ?なんか、ムカつくことを言うよなあ。だいいち、柚葉じゃないし。

「柚葉じゃないよ。あれは、杏菜のほう」

「え~~?南郷だろ?ポニーテールだし」

「違うって」


 たたずまいが違ってるだろ。きちんと足をそろえて立ってるし、それも一人で大人しく。柚葉だったら、大笑いしてるか、仁王立ちになってるよ。


「絶対に南郷だよ。おーい、南郷!」

 ポチがそう呼びながら手を振った。杏菜がこっちを見た。そしてポチを見ながら、困った表情をしている。


「あれ?」

「ほら、違うだろ。あ、ポチ、柚葉ならあっちだ」

 俺は体育館の奥、舞台の近くにいる柚葉を見つけた。ほら、やっぱり、仁王立ちをして、大あくびをしている。そのあと、両手を挙げて伸びまでしてやがる。


「どこ?どこだよ」

「だから、あの一番前のあたりにいるだろ」

「え~~~?わっかんねえよ。俺、そんなに目、よくないし」

「視力いくつ?」


「1.0」

 十分だろ。

「俺も1.0だ」

「よく見えるな~~、お前。さすが、好きな子ともなるとわかるんだな」


 うっせ~。そんなはずいことを真顔で言うな。

「あ、柚葉の横にタマもいるよ」

「え?まじで?どこ?あ!わかった!いっちゃん前にいた~~~。タマちゃん、今日も可愛い」

「お前も、好きな子だと見つけられるんだな」


 にんまりと笑いながらそう言うと、ポチは、

「そういうもんなんだな~~」

と、素直に頷いた。おい、俺はからかったのに、素直に受け止めるなよ。


 かったるい生徒総会も終わり、体育館から出ようとすると、後ろから、

「和真君」

と声をかけられた。振り返ると杏菜だ。

「なに?」


「さっきは、何の用だったのかな?」

 杏菜は、俺のとなりにいるポチを見ながらそう聞いてきた。

「あ、ごめん。テニス部の南郷と間違っちゃった」

 ポチが慌ててそう謝ると、

「あ、そうなんだ。気にしないで。よく、間違われるの」

と、そう杏菜は手を軽く顔の前で左右に振りながら笑った。


 こういうしぐさもまったく違うだろ。柚葉だったら、もっとでっかく手を左右に振る。それに、きっとわははと声を出して笑ってる。


「へえ。南郷さんも間違えられることあるんだ。南郷は、あ、テニス部のほうのね?よく間違ってコクられるとか、言ってたっけなあ。なあ?城野」

「え?あ、ああ」

 そういう話を俺にふるなよ。だいたい、中1のときに俺が杏菜にコクって(間違ってだけど)、でも、杏菜は俺のことをふったって思っているからか、俺に対して、どっか距離を置いているんだからさ。


「でも、昨日は他校の生徒に交際申し込まれたって、柚葉、喜んでいたけどなあ」

 柚葉、杏菜に話したんだな。ん?喜んでいた…だと?

「まじで?え?そんなことあったの?それも、南郷さんと間違えられたんじゃないの?」


「え~~?そうなのかな」

「ちげえよ。テニスしている姿を見てって言っていたから」

 俺は、ポチになんとなく真実を言いたくなってそう言うと、

「わあ、物好き」

とポチが笑った。


 ポチッ。お前、そういうことを言うか?俺の前で。


「そんなことないよ。テニスをしているときの柚葉、輝いているもん」

 おや?杏菜にしてはめずらしく、しっかりとそう言い返したぞ。

「あ、ごめん。双子の悪口言ったら、やっぱり気を悪くするよね?ごめん」

 ポチが慌てて謝った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 生徒総会が終わり、体育館から教室に戻ろうとしていたら、和真が杏菜と話しているのを見つけた。

「あれ?珍しい組み合わせだ」

 そうとなりでタマちゃんも言った。

「あれって、まさか、杏菜と柚葉を間違えて話してるってことはないよね」


「え?間違ってるのかな」

「ポチまでいるからさ。あ、でも、ポチの鼻の下が伸びているから、それはないか」

 伸びてる?そうかな。でも、なんとなく私と話すポチと違う感じもするな。


「じゃあさ、和真は?鼻の下伸ばしてる?」

「え~~~?和真は、いつもと同じ、つまんなさそうな顔をしているけど」

「そうだよね?」

 よかった。


「そこで安心しないの、柚葉」

「え?」

「和真って、表情をわざと隠すところもあるし。思っていること隠すようなところもあるじゃん?いっつもむすっとつまんなさそうにしてて、内側を見せようとしないっていうの?」


 そうかな。けっこう見せるけどな。意地悪そうに笑ったり、にやつくこともあるし、怒ったり、たまにすねてみたり。


「本当は、鼻の下伸ばしたいけど、ぐっと我慢しているのかもよ?」

「え?ど、どういうこと?」

「まあ、頑張れってこと」

 タマちゃんはそう言うと、私より先に渡り廊下を歩き出した。


「た、タマちゃ~~~ん。お願いだから、私、けっこうギリギリなんだから、意地悪言わないで」

「ギリギリ?」

「やっぱり、自信ないよ。いざとなったら、杏菜に勝てそうもない」

「わあ。いつも強気の癖に、なんで弱気になってんの?言ったでしょ?取られたくなかったら、早くに捕まえな」


 タマちゃんって、他人事だから、そんな強気なこと言うの?自分はどうなの?好きな人いないの?

「タマちゃんって、誰か好きな人いないの?」

 教室に戻ってから、となりの席のタマちゃんに聞いてみた。

「いる」


「え?初耳!」

「だって、最近、自分でも気がついたし」

「コクった?まさか、もうすでに」

「まだだよ」


「なんだ~~。いっつも、強気だから、早々にコクったのかと思った」

「まさか。私は自分からコクんないよ」

「え?何それ!私にはさんざん、ハッパかけといて」

「私はいいの。向こうからしかけるように、仕向けていくから」


「何それ!なんなの、その自信。どこから来るの?ねえ」

「だって、私を好きなの丸わかりなんだもん。ちょっと、笑えるくらい」

「は?」

「私からコクったりしたら、悔しいから、向こうから言わせるの。それまでは、じらして遊んでみたり?」


 性格、わる~~~~。

「もしかしてさあ、その相手って、ポチ?」

「うん」

 あ~~~。そうか~~~。そりゃ、ポチがタマちゃん好きなの、丸わかりだけどさあ。いっつも、タマ、タマ、タマって、タマちゃんのこと追い掛け回しているし。


 でも、タマちゃん、ポチのことうざがっているかと思っていたのに。

「最近、気がついたって言ったよね?何がきっかけで気がついたの?」

「杏菜のこと、可愛いって言ってたことがあって、頭にきたの。嫉妬しちゃったから、こりゃ、私もポチが好きなんだろうなあって」


「……。じゃあ、ポチだって、杏菜を好きになっちゃう可能性あるじゃん」

「ない。っていうか、そんなことさせない。ポチの分際で私以外の女を好きになるなんて、許すわけないじゃん」

 は?


「ちゃんと、私に繋ぎとめるように、手を打つから」

「どうやって?!」

「いろいろと?飴とムチ使って?」

 うわ。怖い。タマちゃん、めっちゃ怖い。


「そんな駆け引き、タマちゃんはできるんだ。私には絶対に無理」

「だろうね。だから言ってるじゃん。早くに取られないよう、コクれって」

「……」

 う~~~。簡単に言うなよ~~~。それが、無理だから悩んでいるんじゃない。


 うちのクラス、彼氏もちの女子、意外といるんだよね。

 どうやって、ゲットするのかな。どうしたら、そんなに簡単に付き合えるんだろう。私には不思議でならないよ。


 放課後になり、私はタマちゃんと昇降口に行った。そこには、すでにポチと和真がいた。

「お待たせ」

「おう、帰るぞ」

「今日は、ポチとラーメン屋に行ったりしない?」


「しない。まっすぐ帰るぞ」

 よかった~~~。嬉しい~~~。と、にやけるのを抑えながら靴に履き替えていると、

「柚葉、一緒に帰ろう」

と、そこに杏菜がやってきてしまった。


「杏菜?あれ?サッカー部は?」

「雨だもん。練習は中止だよ」

 そうなの?でも、今まで雨でも一緒に帰ることなかったじゃん。

「サッカー部の連中は?今まで送ってくれていたんでしょ?」


「……。今までは、部長がよく家まで送ってくれてたけど」

 あ、そうだったんだ。知らなかった。

「部長、塾なんだって」

 杏菜は、ちょっと俯き加減でそう言った。だから、表情が見えなかった。


「和真君もいいよね?」

「え?あ、ああ」


 駅までは、タマちゃんとポチも一緒だ。ポチの横にタマちゃんがいて、ポチに話しかけ、ポチは喜んでタマちゃんと話をしている。尻尾がはえてたら、絶対にブルンブルン振っているだろうなあっていうくらい、喜んでしゃべっているのは丸わかりだ。


 杏菜は和真の右隣にいる。私は和真の左側。傘をさしているから、3人で歩くには道は狭すぎる。だから、歩く速度が遅い杏菜がどうしても後ろになり、

「待って、和真君」

と、和真に声をかけ、和真を引き止めてばっかりいる。


 なんか、私のほうがお邪魔虫みたい。もう、なんだって一緒に帰ろうとか言ってくるのかな。

 あ、そうか。部長と一緒に帰れないからか。でも、だったら、他のサッカー部男子に声をかけなよ。絶対誰でも喜んで送ってくれたよ。


「こんにちは!柚葉ちゃん」

 突如、どこからともなく現れた、あの変な野郎に道をふさがれた。

「どこから沸いて出た」

 和真が怖い声でそう言った。私は思わず和真の後ろに隠れようとしたが、

「柚葉ちゃん、僕も一緒に駅までいいかな」

と、私ではなく、和真の右側にいた杏菜にその男が声をかけた。


 あ、杏菜を私だと思っているんだ。

「え?あの、私、違います。柚葉の双子の片割れです」

 杏菜が和真の後ろに隠れながら、そう小さい声で答えた。


「え?双子?!あ、もしかして、杏菜ちゃん?なんか、昨日言ってた…」

「そうです、杏菜のほうです」

 杏菜はもっと和真の後ろに隠れ、その変な男のほうに背中を向けながら答えた。


 待って。私の隠れるところがなくなっちゃったじゃない。

「あ!ごめん、柚葉ちゃん。間違っちゃった」

 うわ。ほら、傘で顔を隠してたけど、見つかった。


「柚葉はお前と友達にもならないって言ってるから、もう帰れよ。っていうか、まとわりつくなよ」

 私の前に和真は移動しながら、そう言ってくれた。

「君って、昨日もいたけど、なんなの?同じ部ってだけだよね?柚葉ちゃん、彼氏もいないんだし、友だちになってもいいじゃん」


 いやだよ。なんで、あんたとなんか、友達にならないといけないわけ?それに昨日よりも口調がやけに、なれなれしくなってない?


 和真の後ろに隠れながら、私はそんなことを思っていると、和真が突然、

「付き合ってる!俺が柚葉の彼氏だ」

とでっかい声を上げた。


 え?今、なんて言った?和真。


「え?昨日はそんなこと言ってなかったじゃないか」

「昨日は言わなかっただけで、付き合ってるんだよ。だから、友達でもダメだ。柚葉のそばに他の男は近づけさせないから」


 きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!

 きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

 

 今、柚葉の彼氏って言った?


 うわ。

 心臓が、壊れそう。


 わ、わかってる。嘘だってわかってる。この変な男にあきらめさせるためについた嘘だってわかってるけど、でも、嬉しい。


 それに、和真、かっこいい。正義のヒーローか、王子様みたいだ~~~。


 やばい。嬉しすぎて、倒れそう。貧血起こしそう。いや、鼻血出しそう。


 クラクラしながら必死で立っていると、

「柚葉、傘かせ」

と、和真はなぜか自分の傘を閉じて、私の傘を持った。そして、私と相合傘をして歩き出した。


「ま、待ってよ。柚葉ちゃん、本当にそいつと付き合ってんの?」

「う、うん。そう。だから、悪いけど、友達も無理」

「なんで?なんで、友達もって」

「そりゃ、決まってんだろ。俺が許さないからだよ」


 和真はそう言い放ち、右手に傘を持ち替え、左手は私の腰に当て歩き出した。

 

 うっぎゃあ!私の腰に手!手、当たってる!それも、けっこう力はいってる!だから、和真のほうに体がくっついちゃう。ビトッてくっついちゃってるってば!!!


 腰が~~。脈打ってる。どっくんどっくんって。顔、熱い~~~~。


 くるっと、和真が後ろを振り返った。

「杏菜も、早く来いよ」

「う、うん。待って、和真君」

 あ、忘れてた。杏菜もいたんだ。


 もう、杏菜のことも、あの変な男のことも一気に頭からぶっ飛んだ。私の全神経、腰に集中してる。いや、和真に引っ付いている箇所、全部の神経がいつもの何倍も敏感なってる。


 和真が、近すぎ。近すぎ。近すぎ。心臓、壊れる。



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