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第4話 もしかして、やばいんじゃない?

 好きだって言ったとき、びっくりしたような、青ざめているような顔を見て、やばいって思った。

 ごめんなさいと言われ、頭が冷静になり、やっちまったって思って、その場から逃げ出した。


 夏休みになっても、部活で柚葉に会うのに、これからもずっと柚葉に会うのに、コクってふられて、すげえ気まずい。そう気づいたのは、慌てて走り去って鞄持って、家に向かってからだった。


 夏休み、部活で顔を合わせるのに、どういう顔をしたらいいんだ。そればっかりを考え、憂鬱になりながら学校に行った。


 ふられたショックもあったけど、今までみたいに柚葉とふざけあったり、一緒に帰ったりできなくなるかもって思うと、胸が痛かった。告白はなかったことにしてくれ、と言いたいくらいだった。


 でも、夏休みの部活初日、朝からあいつはいつもと変わらない顔で、

「おはよう。ねえ、和真、杏菜にコクって、ふられたんだって?」

とひょうひょうと聞いてきた。


 一瞬、何を言われているのかわからなくなった。でも、必死で頭の中フル回転させた。

 杏菜って誰だ?誰だかわかんないけど、俺は柚葉じゃない誰かに間違ってコクってふられたようだ。


 間違ったことを知られるのもやばいって思ったし、こいつにふられたわけじゃないと思うと、ちょっとほっともした。

「誰にも言うな」

とか、もっともらしいことを言ってから、俺は慌ててテニス部の柚葉と同じクラスの男子をつかまえに行った。


「杏菜って、誰だか知ってる?」

「え?南郷杏菜?同じクラスだよ。柚葉とは双子」

「双子?!」

「でも、杏菜ちゃんのほうが女の子らしくって、絶対に可愛いんだ。男子からも人気あってさ、俺も絶対杏菜ちゃん派だ」


 初めて柚葉に双子がいることを知った。柚葉のクラスは9組。俺は1組。中学はマンモス校で南棟と北棟があって分かれていたから、双子がいることなんかまったく知らなかった。


 そいつがまだ、杏菜のほうの話をグダグダしている間に、俺はとりあえず、間違えてコクったことは黙っておこうと決心した。それなら、今までどおり、柚葉とはテニス部の仲間でいられると思ったからだ。


 俺が杏菜にふられたと思っている柚葉は、俺にからかうように、

「ださ~~い」

とバカにした。つまり、俺が誰を好きだろうか、あいつには関係ないことなんだってわかった。その時点で、コクってもふられるのは目に見えていた。


 だったら、友達でいいじゃないか。このまま、ずっととなりにいられたら、それでいいじゃないか。


 中学3年のとき、テニス部の連中でどこの学校を受験するかという話になり、柚葉の志望校がわかった。どうやら、家から一番近く、杏菜もそこの高校を受けるらしく、親がそこに絶対に行けと強制されたらしい。


 硬式テニス部は強くはないが、コートも整備されているし、学校自体も新しいほうで綺麗だったし、成績も俺よりよかった柚葉はその高校に志望校を絞った。

 俺にとっては、模試の判定でぎりぎりのライン。でも、一緒の高校に行きたいがために、夏休み、夏期講習に通い、かなり頑張った。


 無事、合格して晴れて同じテニス部に入り、まんまと部長にもなり、こうやって、ほとんど毎日を一緒に過ごしている。


 満足してた。今までは。あいつにコクってくるやつは、みんな杏菜と間違えていただけだったし、誰も、柚葉を彼女にしたいなんて思っていないみたいだったし。

 この俺ですら、なんでこいつなんだって、自分を疑うときもあるくらいだ。横に並んでみると、どう見ても、誰が見ても、杏菜のほうが女の子らしく見える。


 だけど、俺には柚葉なんだ。あの笑顔じゃないとダメなんだ。大口開けて、あははって笑って、肉まんもアイスも平気で俺の前でかじりついて、大股で、それもガニマタで歩いちゃって、テニスコートを走り回って、汗いっぱいかいているあいつじゃないと。


 太陽の下にいるのが似合ってて、青空がバックだと、さらに笑顔が可愛く見えちゃう、そんな柚葉じゃないと。


 なのに、なんだって、他の男が、太陽が似合うとか、勝手にそんなことを言ってるんだよっ!

 ムカつく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 なんか、帰り道、ずっと和真は静かだった。玄関の前で、ありがとうと言っても、むすっとしたままだった。なんでかな。


「ただいま」

「おかえり」

 家に入るとすでに杏菜がいた。リビングでテレビを見ながら、膝に我が家の飼い猫のポン吉を抱っこしている。その様子は、ちょっと寂しげに見えた。


「ポン吉、ただいま~~」

 ポン吉は杏菜の膝から降りてきて、私の足に擦り寄ってきた。

「にゃ~~~~ご」

 ひょいと抱っこをしたが、なかなか重くなって、抱っこをするのも大変だ。


「杏菜、早かったね」

「うん。今日はミーティングだけだったから」

「ふうん」

 杏菜のとなりに座り、今度は私が膝の上にポン吉を乗せた。部長のこと聞いてみようかな。でも、どう切り出していいかわかんないな。


「今日ね、知らない男に告白されちゃった」

 ポン吉の喉をくすぐりながらそう言ってみた。ポン吉がごろごろと喉を鳴らしている。

「うちの学校の?」


「ううん。他行の生徒」

「わあ、やる~~~」

「怖かったんだよ。友達でいいからってしつこくて。でも、和真が間に入ってくれて、これからも守ってくれるって」


「和真君って、本当に優しいよね。お母さんも言ってたよ。ああいう男と付き合いなさいねって」

「え?!」

 何、それ。


「私、昔、ふっちゃったんだ~~ってお母さんに言ったら、もったいないことをしたわねえって、笑ってた」

「も、もったいない?」

「今からでも、付き合えますって言えば、付き合えるんじゃない~~?なんてお母さん言ってたけど、もう、無理だよね?」


 杏菜。なんで、そんなこと私に聞くの?

「う、うん。きっとね。なんか和真、付き合うとかそういうの興味ないみたいだしさ」

「テニス頑張っているんだもんね。大変だよね、部長って」

「うん、そうなの。私も和真も大変なの。恋愛どころじゃないなあ、きっと」


 私の頭の中はパニックだ。でも、必死に冷静を装ってそう言ってから、静かにポン吉を膝からおろしてソファを立ち、

「先にお風呂入っちゃおう」

と言って2階に駆け上がった。


 待ってよ。なんで、お母さん、そんなこと言うわけ?

 なんで、杏菜に勧めるのよ。和真がうちに来たのだって数回だし、私を送ってくれたときに雨が降っちゃって傘を貸したとか、それを返しにきてくれたとか、私が熱出したときに、お見舞いに来たとか、そういうときでしょ。


 だったら、私に勧めるべきだよ。なんで、杏菜なのよ!

  

 お父さんはテニスの試合見に来てくれて、和真と話もしたし、体育祭も応援に来てくれて、そこでも和真と話をしてた。だから、お父さんは和真のことをもっとよく知っているし、私が和真を好きなんだってことも前から知ってる。


 ああ!そうだった。お母さんや杏菜には内緒ねって言ってたんだった。こんなことなら、私が和真を好きなんだって、言っておけばよかった。


 どうしよう。どうしよう。杏菜、もしかしてサッカー部の部長なんて、もうどうでもいいんじゃないの?

 すでに、和真のほうに気持ちが傾いていたってことはない?!

 それ、超やばくない?!!


 なんか、いきなり、私と和真の間に、いろんなことが起きてきちゃってる気がしてきた。


 お風呂に急いで入り、また自分の部屋に行ってすぐさまタマちゃんにラインした。電話だと、となりで杏菜が聞いている可能性もある。


 タマちゃんからは、だから、早くに和真に付き合おうって言えばいいじゃん。とラインが来た。

>どうやって?

>ラインでもメールでもいいじゃん

>え?そんな簡単に?


>そのくらい簡単なほうが、あっちも重くならず、いいよってあっさりokするんじゃない?

>ええ?そんなもんなの?

 まじで?


 でも、そっちのほうがいいかもしれない。顔見たら、言い出せなくなりそうだし、電話でも無理だ。

 ここは、簡単に、簡単に、軽く、「付き合っちゃう~~?」みたいに。


「……」

 ドキドキドキドキ。手が震える。ああ、やっぱり、

「無理~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 バッタリとベッドに横たえた。


 すると、和真からラインが来た。

「うわ、なんで?」

 和真からは、

>何?

としか書いていない。


 わあ、私、和真に、

>つき

って書いて送ってた。


 どど、どうしよう。付き合ってって言う?いやいや、なんとか誤魔化さないと。

>月が綺麗

と書いて、慌てて窓を開けて空を見た。思い切り曇っていた。


 消してから、

>つきあってくださいなんて、初めてでびっくりした

と書いて送った。そのくらいにしか、誤魔化せなかった。


>やっぱ、少しは嬉しいもん?それとも、怖いだけ?

 和真はちょっとしてから、そう書いてよこした。

>これが、好きな人だったら嬉しいだろうけど

>へえ、好きなやつなんているわけ?


 やば~~~~。なんか、変な方向に行ってる。どうする?いるよって答えてみる?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 いるのかよ。

 既読になったのに、返事がない。なんでだ。いるのか。


 バクバクしてる。柚葉は、恋の話なんかいっさいしてこなかったのに。だから、ずっと安心してた。

 おい、いるのかよ。なんだって、返事してこないんだよ。


>いないよ。私にいるわけないじゃん。

 そうか。ああ~~~~~、思いっきりほっとした。


>和真は?

 え?!俺?!


 まいったな。なんて答えりゃいいんだよ。柚葉だよ、なんていきなりコクれるわけないじゃん。


>俺もいない。

 そう送ってみた。


>そうなんだ。いないんだ。

 柚葉の返事、どういう意味だ?バカにしてる?

 いや、もしかして、俺に好きな子がいないって知って、俺みたいにほっとしていたりとか。


 いやいや、やめよう。そういう自分に都合良いような妄想。


 しばらく俺から返事もしなかった。柚葉からも返事がないから、そのまんま、放置した。


「は~~~あ」

 ため息が思わず出た。頬杖をつき、机の上に広げた教科書とノートをぼけ~っと眺めた。


 勉強する気が一気に失せたな。


 ポチにはああ言ったけど、柚葉にコクってくる男が現れたら、こんなに動揺してる。

 あの男のことを柚葉は気味悪がっていたからいいけど、喜んだり、付き合いたいとか言い出していたら、まじ、やばかった。


「あ~~~~、くっそ~~」

 机にうつっぷせた。

 コクってみるか。


 いや、ふられるよな。笑われるかもな。何を馬鹿なこと言ってるの?和真。頭おかしいんじゃない?とか。 

 じゃなかったら、和真のことなんか、恋愛対象に入っていないつ~の。とか。

 じゃなかったら、テニスしか興味ない。彼氏なんかいらないから。とか。


 そんな落ち込むような返事しか思いつかないな。


 私も和真のことが好きだったの。

 なんて、あいつが言うか?ないない。100パーセントありえない。絶対にない。


「焦るよ。まじで、他の男が柚葉を好きになったりしたら焦る。でも、だからって、どうしたらいいんだよ。どうすることもできねえじゃん」

 そう呟いてから、

「あ~~~~~~~っ。くっそ~~~~~~!」

とでっかい声を上げた。


「うるさい、和真!」

 となりの姉貴の部屋から、壁をドンっと足で蹴飛ばす音が聞こえた。うっせ~のはどっちだ。大学生になっても彼氏の一人も出来ない、2次元オタクのくせに。


 机から離れ、ドスンとベッドに寝転がった。

 そして、スマホを開き、柚葉とのツーショットの写真を見た。中学のときの修学旅行の写真だ。柚葉とは自由行動のときの班が一緒で、その場のノリでツーショットを撮った。


 いつもは、変に意識をしてしまって、一緒に写真を撮るなんてできなかった。あいつも、一緒に写真を撮ろうなんて言ってこなかったし。でも、こんときは、清水寺の舞台に立って、

「景色いいし、絶景をバックに写真撮るよ、和真」

と柚葉から言ってきたんだよな。


「おう」

 俺も断る理由もないし、っていうか、内心「やった」と喜んでいたんだけど、一緒に写真を撮った。柚葉のスマホで撮って、柚葉が俺に送ってくれた写真だ。


 超可愛い笑顔で柚葉は写っている。俺は、わざと口をへの字にしてカメラのほうも向いていない。多分、にやけそうになって、こんな顔をわざとしたんだよな。


 だって、すぐ横に柚葉がいたし、まじ、相当嬉しかったし。

「柚葉、嬉しそうに笑ってるよなあ」

 俺とのツーショットが嬉しいから?とかいうのは、やっぱり俺の勝手な妄想だ。


 柚葉も俺のことが好きなんじゃないの?って、何回もそう思ったことがある。でも、それは俺の都合のいい思い込みだって、そう否定した。


 もっと、決定打があればいいんだ。柚葉も俺が好きだっていう、決定打。

 って、そういうのが確信できないとコクる勇気もない自分が、情けないよなあ。


「くそ!」

 今度は枕に顔をうずめてそう言った。そして、どうにもならない焦燥感に、もやもやしながら眠りこけた。


 翌朝、5時に目が覚めた。

「うわ、あのまんま寝ちまった」

 慌ててシャワーを浴び、牛乳をコップ1杯飲み干し、また自分の部屋に入って勉強をした。


 今日、英語の小テストあるもんな。

「かったりい」

 外は雨だ。今日もテニス部は休みだな。あ~~あ、梅雨って嫌いだ。柚葉の元気にテニスをする姿も見れないし、どうも気分がめいる。


「は~~あ」

 なんとか、元気取り戻して学校に行くとするかな。と、朝からスマホに入っている柚葉の元気な笑顔を見てみた。


「ちぇー。可愛く笑ってるなよ」

 写真に話しかけてる俺って、かなりやばいよなあ。





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