3 〈Day.1〉佐藤 成生
私たちがビルの地下駐車場にたどり着いた時、白瀬はもう、なんというか、襲われる寸前であるように見えた。
どういう情景だったかというと、尻餅をついて、後ずさろうとしている白瀬と、方膝をついて、詰め寄ろうとしている、黒い服を着た男。しかも、その男の手には木刀。
怪しい。怪しすぎる。あの男。
取り敢えず、それが、その情景を目にして一秒で私とシンクの頭に浮かんだ感想だ。
「シンク、なんか、」
――変なヒトがいるね。
と続けようとしたが、その前にとうのシンクはその怪しい男に向かって、一目散に飛び掛かって行っていた。
私はその時に、何故か周囲に別の男三人が倒れ伏しているのを見つけたが、気にしてもしょうがない。
「その子から、離れろぉッ!!!」
「マジかよ!?」
シンクが素手の拳を振り上げて突撃していく。その男は、シンクの声より一瞬早くこちらを向いた。
その時の動きは、まるで、緊張した泥棒が、犯行中に誰かに見つかったことに気づいて、ビクッ、とそちらを向く動きのイメージに、そっくりだ。
やはり、ああいうことをするヤツらにも、多少は、イケないことをしている、という意識くらいはあるのだろうか。
しかし、その男のその後の反応は、少々非凡なものだった。
なんと、即座に立ち上がり、後ろに身を引きつつ、シンクの渾身の右フックを木刀でガードして見せたのだ。
あの不意打ちに対応したか。
でも、こちらのシンクもフックが避けられたからと言って、怯むようなヤツではない。
身を引いた男に、畳み掛けるように、次々と拳で攻撃を繰り出していく。
左、右、上から、斜め右下から。拳を打ち込んでいく。
だが届かない。敵もさるもの。次々とそれを避けるか、もしくは木刀でいなしていく。
シンクの攻撃の手が一瞬、ほんの、一瞬止まる。
男はその隙に更に後ろに、大きく跳躍して距離を作り、右手の木刀を胸のあたりに持ってきて構えの姿勢になった。
対してこれまで一方的に攻めていたシンクは、不意に距離を取られたせいでその一瞬で死に体を晒してしまう。
――ヤバい。
そう思ったのは私の本能だった。
次にあの男は、恐らく鋭い、重い一撃をシンクに放ってくる。そんな絶対の確信を私は抱いた。
男の目が、大きく見開かれ、二人の距離が一瞬で縮まる。男の手に持つ木刀が霞む。シンクも回避しようとするがまるで間に合わない。
その時だった。私の思う限り、もっとも意外な人物が二人の戦いを止めさせた。
「二人とも、待ってくださいッ!!」
静寂。
その、叫び声にも近かった大声は、この場に静寂をもたらした。シンクも、その男もピタリと、石のようにその動きを止めた。男の木刀は、シンクの首筋に叩き込まれる寸前で静止していた。
なんとその声の主は、白瀬だった。
まず、その男の外見について、言及しよう。
その男は、さっきも言ったように、黒い上着を着て、中に白いシャツ、カーキの長いズボンを着けていた。背中には灰色のカバン。全体として、黒を基調とする服装だった。身長はシンクより少し低い。だから、大体、170センチ前半位だろうか。顔は可もなく、不可もなく。黒髪で顔面偏差値50くらい? こちらはシンクには遠く及ばない。
「私は倉木 七瀬と言います。んで、コッチが、どうやら、勘違いだったみたいだけど、アナタに殴り掛かっていった、上屋 真久。そして、アナタが助けてくれた、その子が、白瀬 日菜です」
「さっきは、失礼しました」
シンクが低頭する。
騒ぎの後、白瀬はすぐに私たちにその男について説明をした。
なんと、その男は白瀬が、暴漢三人に襲われそうになっていたところを助けてくれたと言うのだ。なるほど、男が三人倒れていたのはそう言うことか。どうやら、彼は、かなり、ケンカができるようだ。 まぁ、不意打ちに近かったらしいけど。ちなみに、男たちは、気絶しているだけのようだ。
男はすぐに木刀を収め、状況の説明を求めてきた。そこで、私はまず、自己紹介をしたのだ。
対する、男の反応も良識を備えた者のそれだった。
「そうですか。あ、オレは成生です。佐藤 成生。こちらこそ、さっきは本当にすいませんでした」
佐藤 成生。彼の反応は、好ましいものであったが、私の目には、むしろ、少々意外なものとして移った。
先ほどの、この男の、最後の一撃を繰り出そうとしたときの表情。あの、合わせるだけでこちらが射殺されてしまいそうな目。
あのような一面を持つなど、今の彼の顔だけを見れば想像も付かない。
「それで、えっと、白瀬さんと、お二人はどういう関係で?」
「大学の先輩、後輩の関係です。」
「大学?」
「はい、A大学です。」
ここで、シンクが口を挟んだ。
「あ、すいません、佐藤さん、もしかして……」
佐藤さんはどうやら、シンクの言わんとするところを察したようで、頷いて見せた。
「はい。オレもA大学の人間です。や~、奇遇ですね」
「あ、やっぱり、そうでしたか。どこかで見た顔だなぁ、と思ってたら」
シンクの言葉に佐藤さんは少し笑顔になった。
「あ、じゃあ、皆さん、学部と学年は? あ、オレは、経済の二年です」
最初に私から答えた。
「私も教育の二年なんです。同じですね」
次にシンク。
「医学部の二年です」
「へ? 医学部? ぱねぇ……」
佐藤さんが称賛を口にした。私たちが、同い年くらいと知ったためだろうか、彼の発言はフランクな色合いを帯びた。
「それで、白瀬さんは……?」
「あたしも、倉木先輩と同じ、教育で、一年です」
なんだか、白瀬がしおらしい。疲れているからか、初対面の人間に清楚系妹系を売っていきたいのか、それとも、私以外の人間がいるせいで、猫を被っているからか。おそらくどっちもだろう。
ここで、佐藤さんが、何か意を決した様子で提案をしてきた。
「あの~、お互い、タメでいきませんか? あ、馴れ馴れしいのが嫌いでしたら、いいんですけど。」
彼が、少し下を向いて、上目遣いでこちらを見た。何故か、少々、縮こまっているように見える。
答えたのは、シンクだった。
「そうですね。僕たち、同じ大学で、年もほとんど、同じな訳だし」
佐藤さんは、その言葉に破顔した。
「良かった。じゃ、オレのことは、ナルキでいいよ」
私は、彼を尊重して、それに合わせることにした。
「じゃ、私もナナセで、呼び捨てでいいよ」
「うん、僕もシンクでいいかな」
「えっと、じゃ、白瀬さんは······」
「私は、どんな風でも良いですよ」
なんか、早く帰りたいオーラ全開の白瀬。
「えっと、じゃ、白瀬さん、で」
「わかりました。私は、センパイにしときます」
「んで、白瀬さんは、どうして、あんな事に······?」
ナルキの質問には、白瀬は、自分で事の経緯を話した。
一通り聞いて、ナルキも、シンクがそうなったのと同様に少し呆れ顔になる。
「……白瀬さんって、結構、見掛けによらず、大胆なのな」
「そうですね。反省してます。」
白瀬が素直だ!! なんだ、この差は! 私にあんな様子、見せたことないぞ!
「先ほどは、ありがとうございました。センパイ」
白瀬がペコリとナルキに頭を下げた。
「ところで、あたし、ちょっと、もう疲れてて。そろそろ帰りたいのですが」
その言葉にシンクは苦笑して言った。
「そうだね。白瀬さん、お疲れのようだし。取り敢えず、皆で白瀬さんを送ろう。」
現在、8時50分。
白瀬を無事、寮に送り届けて彼女と別れた私たち三人は、そこから、公道に出ることにした。
確かに、もう、『近道』エリアを脱したとは言え、まだ、周りは、街灯も少なく、車や人影もほとんど無い。『近道』ほどでないにせよ危険である。
その道中。
「いや~、どうしようかな、何を奢って貰おうかなぁ。やっぱ、滅多にお目にかかれない、あの駅前の店のチョコレートケーキかな······。」
ナルキが幸せそうな顔で言う。彼は白瀬との別れ際に、彼女から、後日お礼をするという申し出を受けたのだ。ナルキはそれに対して『じゃあ、何か奢ってよ』と答え、今その時に何を奢って貰うかを考えているようだ。
それにしても、あのチョコレートケーキは、チョイスとしては、なかなか容赦の無い代物だったりする。何せ、小さなショートケーキの分際で、一個、850円もするのだ。
やりくりに常に苦労を強いられる学生には、結構、手厳しいものだ。
そう思った私はそのまま、その思ったことを口にした。
「さと……じゃなく、ナルキって結構、容赦無いね」
おっとっとっと、佐藤くん、と言いそうになった。
ナルキはこれにあっけらかんと答えた。
「あぁ、でも、下手に安い物を奢らせて、白瀬さんに借りが出来たって、思わせても悪いなと思って。ホラ、こうして知り合ったわけだし。そういうの無いほうがいいと思うでしょ?」
「フム。なるほどね。ま、でも、白瀬さんはすでに、そんなのじゃ返せない借りを作ったと思うけど」
これはシンクの言。
「そーかな。ま、そうでも、そのケーキで手打ちでいいんじゃないかな」
わー、やっさしー。
などという、ナルキへの感想は、次の言葉でブチ壊しになった。
「それに、こうすることで、漢の株もアップするはずだぜ」
おー、キミは、そんなことを考えていたのかー。しかも、真顔で言ってるし。
私は、この男から、白瀬と同じ何かを感じた。
「確かに、そういう手法もあるな。」
「おぉ、分かる?シンク?」
「まぁ、同じ男として。」
二人とも、こと、あの白瀬に限っては、大事なことを見落としている。
アイツ、そんな殊勝なヤツじゃねー。恩など、3日で忘れるようなヤツだ。
しかし、私はそのことは口には出さない。ナルキの苦々しい顔をみるのにも興味がある。
「しかも、あんな、カワイイ子からメアドをゲットしたし。今日は、ツイてるな。あれ、ナナセ、なんかビミョーな顔してるけど、どうした? 気分でも悪いのか?」
「あ、ううん。何でもないよ。えと、良かったね。」
良かったね。白瀬。佐藤成生くんは、まんまとアンタに騙されたみたいよ。
ちなみに、私とシンクも、ナルキとメアドを交換した。
「ふむ。ナルキの女性の好みは白瀬さんみたいな人なのか。」
シンクの言葉に、しかし、ナルキは少し難しい顔をした。
「うーん、そうなのかなぁ。ま、彼女、カワイイとは思うけど、好みか、と言われると、わかんないかな。ホラ、自分のことって、案外とわかんないじゃないか」
「そうかな」
「そうかな」
私とシンクは一緒に首を傾げた。
意外に、この佐藤成生という男は、自分探しってやつをしている人間なのかもしれない。
ここで、シンクはさっきから、私も気になっていた、ある質問を投げ掛けた。
「そういえば、ナルキはどうして、あんなとこにいたの? 白瀬さんも、白瀬さんだけど、ナルキも結構、危ないよね。」
そう言われて、ナルキは、いきなりその場に立ち止まった。その顔には、何か、自分のミスを思い出したかのような表情。
「わ、ヤッベ。そうだった。忘れてた。オレ、探し物してたんだった。すっかり忘れてた」
そう言うと、彼は踵を返して、もと来た道に向き直った。
「あの、オレ、ちょっと、探し物しなきゃいけないんで。と言うわけで、今日はこれで。ありがとね」
「あ、待って、もう今日は······」
――危ないでしょう。
と言う前に彼は走って向こうの角を曲がって消えていった。
「僕たちは帰ろっか。七瀬」
「いや、でも、ナルキが……」
「彼は大丈夫だよ。さっき見た通り、暴漢三人を1人で撃退できるような人間なんだし。滅多なことではどうにかなったりしないでしょ。」
それより、とシンクは続けた。
「むしろ、危ないのは僕たちだ。冷静になって考えてくれ。僕たちは、彼ほどケンカ上手じゃないし、さっきの暴漢たちみたいな類いの人たちの標的に、今度は七瀬がなるかもしれない。」
シンクの意見は真っ当だ。それは分かる。
「だけど……」
「……」
「でも、やっぱり私、彼が心配。せっかく、友達になったんだし。もし何かあれば、私たちにできることもあるでしょ」
「いや、でも……」
シンクが心底困った顔をする。もう一押しだ。私はここで、出来ることをしなかったばかりに、後悔するようなことにはしたくない。まして、今は、未遂だったとは言え、白瀬があんな目に遭った後だ。そういう気持ちにもなる。
あまり使いたくない手だが、あと一押しのためだ。
「今は、シンクもいるでしょ? シンクが私を守ってよ。ね? できるでしょ?」
シンクが、うっ、という顔になる。シンクは、『守ってよ』とか、そういう台詞に弱いのだ。
はぁ。なんだかんだ、私も白瀬のことを性格悪いって言えないな。
「あぁ、もう、分かったよ。でも今回だけだよ? 危ないと思ったら逃げて。お人好しは良いし、七瀬の美点の一つだけど、でも過ぎるのは良くない」
今まで、もう何回、『今回だけ』があったかは知らないが、取り敢えず、私と来てくれるようだ。
「はぁ。じゃ、ホラ、走ろう」
私たちは、ナルキが消えていった角を曲がった。
さっきも通ったので知っているが、そこからは、太めの道が一本続いて、それに細い道が枝分かれしている感じだ。まず、私たちは道なりに、その太めの道を進んでいくことにした。
注意深く、周囲を見回しながら進むが、それらしい人影は無い。
しばらく、そのままその道を進み、角に差し掛かった時だった。右の方から微かに木材で肉を打つような鈍い音がしたかと思うと人が突然飛び出してきた。
「わ、ぁぶな……」
なんと件のナルキが片足でたたらを踏みつつ飛び出してきたのだ。
すぐにナルキは体勢を立て直し、切羽詰まった顔をこっちに向けてきた。
「お二人、なんでこんなとこに!? 取りあえず、マジ危ないから離れて—―ヤバ……」
言葉を途中で切って彼は飛び出してきた方向に駆け出していく。
一瞬後にまたも木材で肉を打つような鈍い音。
私は角を曲がってナルキの様子を確認しようとした、が。
先に進んだシンクが、私が進んでいこうとするのをその手で制した。
「どうしたの?」
「手を出しちゃダメだ。ホラ、よく見て。アレは『シャドウ』だよ」
「ウソ!?」
シャドウ。最近、聞いていなかった言葉だ。
シャドウとは、言うなれば、魔物だ。どうして、どのように、存在するのかは分かっていない。分かっているのは、その魔物は黒い身体で大きさは様々だが、どれも人の形を取り、常に黒い煙を纏っている、という外見的特徴を持つ。一般人では、彼らを見ることが出来ないが、自分たちを認知する人間に襲いかかってくること、そのほとんどは夜にだけ活動し、朝になると消えて日光のあるうちは姿を現さないということだ。彼らは人がいなくて、光も少ないところで跋扈するらしい。
「多分、ナルキは専門家だ」
シンクにそう言われると、私にも見えてきた。ナルキと、彼の向こう側にある赤く爛々光る二つの小さな点。アレはおそらくシャドウの目だ。さらに目を凝らすと微かに見えた。彼と対峙しているシャドウの輪郭。やはり普通の人間と同じような体の形と同程度の大きさだ。
どうやら先ほどは、シャドウの攻撃を受けてその威力を殺しきれずにこちらに突っ込んできてしまったようだった。
ナルキは、その両の手に短めの—―短刀を模した木刀を一本ずつ持っており、それらを力強く握り直した。
その脚が地面を強く蹴る。
シャドウがナルキに向かって右手を突き出した。それを、左手の木刀でいなし、そのまま敵の懐に踏み込む。そして右手の木刀を、目にもとまらぬ速さで、斜めに降り下ろした。
シャドウの左腕がゴロンと地に落ちる。。
なに? あの木刀、物を切れるの? どうなってんの?
しかし、私がそう思ったのも束の間。
シャドウは、切り落とされた左腕には目もくれず、すぐにナルキとの距離を取った。そして、再度、右手を突き出し、猛烈な勢いで、突進を仕掛ける。
ナルキは動かない。ただじっと、敵を見据えている。
魔物がナルキの目の前に迫る。交錯する その刹那。
ナルキの右腕が霞むようなスピードで動いた。
次の瞬間。
飛んだ。頭が飛んだ。シャドウの頭が飛んだ。
途端に勢いの無くなったシャドウの胴体は、前方につんのめって倒れる。
ナルキは、シャドウを斬った時の姿勢から、直立姿勢に戻って、シャドウの死骸に目を落とした。
私は彼のもとに駆け寄ろうとした、が、また、シンクがそれを手で制してきた。
「どうして?」
「まだだ。あのシャドウ、まだ生きてる」
「へ?」
見てみると、確かにまだ、力無くではあるが、動いている。なんというか、立とうとしているような動きをしている。
そんなシャドウに対し、ナルキは腰を屈めてシャドウに木刀を突き刺した。
動かなくなるシャドウ。直後、その体は、灰のような粉になって消えた。
ナルキは、立ち上がると、こちらの方向を向いた。
彼と私たちの視線がぶつかる。
その瞬間の彼は、印象的なまでに無表情だった。だが、そんな顔はすぐに、いかにも、『アチャ~』と言わんばかりの雰囲気に雲隠れする。
「今の……見てた……よね?」
私たちは彼の質問に、二人で頷いた。
「えー……っと、どういう風に見えた?なんつーか、こう·……一人で、その、イタイことしてるように見えてた?」
どうやら、彼は、一般人にはシャドウが見えない、ということを前提に踏まえて言ったようだ。私は、一瞬だけ、『うん』と言おうかと思ったが、その前に、シンクが答えた。
「いや、僕も、七瀬も、ちゃんと見えていたよ。全部。シャドウっていうんだよね。」
「あ、知ってたのか。じゃ、もしかして、二人は、『代行者』? それとも、『体質者』?」
「僕も七瀬も『体質者』の方だよ。」
『体質者』。すなわち、『シャドウへの干渉が可能な体質の者』という意味だ。『体質者』は、一般人と違い、シャドウを見ることも、触れることも出来る。『体質者』には、二種類あり、先天性のものと、後天性のものがある。ちなみに、私は先天性、シンクは後天性だ。
「へ~、『体質者』か。初めて見たな。オレは『代行者』だよ。ま、つってもニヶ月前くらいからだけど」
『代行者』、とは、『体質者』と同じく、シャドウに干渉ができる人間らしいが、詳しいことは、私は知らない。今度、教えてもらおう。
「あ、もしかして、『組織』の人?」
今度はシンクが質問した。
「あ、そうそう。そんなことも知ってんのか。ま、オレは、末端のバイトみたいなもんだけど」
『組織』とは、この地域での、『体質者』と、『代行者』たちを、束ねている集団のことで、その正式名や、存在意義は秘匿されている。そのため、仮称として、『組織』。しかし、束ねている、といっても、その繋がりは緩いもので、その構成員の生活は、ほとんど一般人と変わるわけではない。何か、集まりが有るわけでもなく、義務を要求されることも無い。
私がなぜ、こんなことを知っているか、というと、
「まぁ、僕も一応、『組織』に加入してるからね」
「あ、そうだったのか。本当に『組織』の人って意外なところにいるんだな」
成生は感心したように言った。
「さっきの、バイトって?」
これは私の質問。
「あぁ、これは、『代行者』にしかできないんだけど、オレたちは、シャドウが持ってる何か、詳しくは知らねーけど、一種のエネルギーを、回収することができるんだ。それを『組織』の設備で電気エネルギーに変えてもらって売電してもらうんだ。そしたら、その電気量に応じてバイト代が支給されると。ま、今のヤツは、そんなに高い金額は期待出来そうにないけど。」
「ふ~ん。そんなのがあるんだ。シンク、知ってた?」
「いや。『組織』には秘密が多いから。それに、『代行者』にしか出来ないって言ってたし。余計なことは教えてないんでしょ。」
「なるほどね」
ここで、ナルキは、私たちに、最初の目的を思い出させてくれる質問をしてきた。
「んで、二人は、どうしてここに……?」
「あ、そうそう、そうよ。ナルキ、あんな急に走って、こんな危ない場所に戻られたら、心配するでしょ?」
「はぁ……また、なんつーか、そりゃ、親切に、どーも」
イマイチ、ナルキは、こちらの心境が分かっていないようだ。それを察してか、シンクが注釈を入れた。
「七瀬は、結構人情深いところがあるんだ。余計なお世話なことでも、してしまったりとか。それに、今は白瀬さんの件の直後だし、いくらナルキが強くても、そういう気にもなるよ。」
「そっか。いや~、ありがと。心配してくれて。なんか、悪いな」
言われても、あまり、理解できなかったのだろう。そう言う割りに感情が籠ってない。
「それで……これが、ナルキの言ってた、探しもの?」
「ああ。そう言うこと。アレを追いかけてたら、白瀬さんの現場に行き逢ったってわけ。ま、そんなことはいいからさ、取り敢えず······」
ナルキは、1度、周辺を見回してから言った。
「もう帰ろう。今日は、遅いし、ここ危ないし。」
「そうだね」
現在、9時10分。
このあと、私たちは途中の、まだ賑わいのある、大きな公道まで、三人で行き、そこから各々の家路についた。
長い一日だった。
今のところ、宣言通りに投稿できてます。
誤字脱字が有れば、すいません。もし良ければ、ご指摘お願いします。
あと、できれば、レビューとかも······