【ふたりの子供】
フィリオは今年で九つになる。男の子のくせにおとなしい子でね。
親としては手のかからない、いい子だったと言ってたよ。
フィリアは今年で十一になる。女の子のくせにおてんばな子でね。
けがのひとつもしやしないかと、いつもひやひやしてたと言ってたよ。
だけどさ、家は決して恵まれてたわけじゃない。
親父さんがいたころはよかったが、急な病であの世に行った。それからがいけない。
なにせこのご時世さ、おふくろさんひとりで子供をふたり。養えるはずが無かったよ。
だからさ、家は決して恵まれてたわけじゃない。
おふくろさんだって、子供が憎いはずも無い。仕方が無かったさ。
考えようによっちゃあ、森は便利なところだよ。
だってそうだろう? ふたりの子供のうちひとりを選べと言われて、はいじゃあこっちの子にしますなんて、そんなことを血の繋がった親がやるとしたら、そりゃあ酷な話だよ。
人任せにしたいことなんて山ほどある。口減らしもそのひとつだね。
そう思えば、森は優しいもんだ。何も言わずに子供を減らす。
ふたりの子供がひとりになる。ただそれだけ。
子供たちも分かって森に向かう。子供を舐めちゃいけないよ。
年は若くても、なんとなく気付くものさ。
そうでなくても、小さなころから聞かされて育つ。
意味が分かるかどうかは子供によるだろうが、たいていは察しのいい子ばかりだよ。
ベッドに入って、寝つきの悪い子に歌って聞かせる子守唄。
森へお入り子供たち。聞いたことのない子などいやしない。誰もが聞いて育ったもんさ。
フィリオも分かって森に向かった。フィリアも分かって森に向かった。
仲良く手をつないでね。夕暮れまではまだ時はある。
だけど、ふたりはもう戻ってこないよ。
ひとりになって帰ってくるさ。
それだけは間違いないことなんだ。




