表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
figlio figlia  作者: 花街ナズナ
PR
25/74

【生じ始める亀裂】

カゾットに連れられて入った部屋は、つい数時間前に朝食をとったあの部屋だったよ。

もうかれこれ何時間って経ってるっていうのに、アナトールは相変わらず、椅子に座ったまんまで鹿爪らしい顔をテーブルに落としてた。

「アナトール。ちょいと話があるんだが、大丈夫かい?」

わざとらしく大きめの声で話しかけたカゾットに、アナトールはツバメみたいな勢いで頭を振り上げると、カゾットとその後ろについてきたふたりに素早く目を向けたね。

「なんだ……君たちか」

何を期待してたか、もしくは何を想定してたか、そこはアナトールにしか分からないが、少なくともカゾットやフィリオ、フィリアの登場以外を考えてたのは確かだろうね。

いつもの黒メガネ越しにでも、その感情の落差は十分伝わってきた。

まあ、想像はつくさ。

シャミッソーが戻ってくることでも期待したんだろう。

でも悪いがアナトール。それはさすがに虫がいいってもんだ。

この館に入ったが最後、幸運なんて望んじゃいけないよ。

そんなもの、望むだけ逆に自分を苦しめるだけさ。

一度はきちんと覚悟を決めたことだろう?

だったら、最後までしっかりおしよ。

そら、お客さんがお待ちかねだ。

「それにしても、今朝からずっとそのいかめしい顔は何事だい。何があった?」

「……シャミッソーが、今朝からもう、言葉すら理解できなくなったんだ……」

「……へえ」

さて、ここで異常事態発生だよ。何が起きたか?

大丈夫。そいつはフィリオとフィリアがいやってほど説明してくれる。

なにせもろにとばっちりを食ったからね。

ああ、そりゃもう気が気じゃなかったろうさ。

背中からすら伝わってくるんだよ。とてつもない機嫌の悪さがね。

カゾットの後ろで待機してたふたりにゃ、ちょっとした幻覚が見えたほどさ。

水色のはずのカゾットのコートが濃紺みたいに見えるほど影を纏ってく。

そんな幻覚だ。

「そいつは大ごとだ。ふむ、そりゃそんな顔にもなるだろうさ。だが面白いね。私はそんな話、今朝からこれっぱかりも聞いちゃいない気がするんだけど、これは何かな。私の記憶力がどうかしちまったのかね?」

ふざけた調子も、下らない嫌味も、まさにカゾットさ。

でも全然違うんだよ。

その底の部分に渦巻いてるもんがね。

聞こえ方こそ明るい口調のように思えたが、その違和感たるや半端じゃなかった。

表情も見えない。口調も明るい。

でも確実に伝わってくるんだよ。

カゾットのすさまじい怒りがね。

「いやいや、この子たちの気持ちがまったくよく分かるよ。ああ、ほんとさ。無理にでも聞かなきゃ、何も話そうとしやしない。いつもそうだ。アナトール、お前さんときたら、ほんとにいい性格してるよ」

「カゾット……違うんだ。別にシャミッソーのことを黙ってたわけじゃない。ただ、話すタイミングが今朝から無かっただけで……」

「無ければただ、だんまりか!!」

フィリオとフィリアにとっちゃ、こりゃ完全に考えの外だったろう。

まさか突然、カゾットが怒鳴り声上げるなんてさ。

しかもこうなっちまったら、ふたりには打つ手無しだ。

何と言っても話が見えない。

かろうじて、アナトールがカゾットにシャミッソーのことを話さなかったことが原因だろうことは分かったが、それ以外はさっぱりさ。

相変わらず、カゾットの逆鱗がどこにあるやら分からぬままだよ。

とてもうかつに口をはさめやしない。

「いつもこれだ、お決まりだよな! お前もシャミッソーも、必要なことは何ひとつ話しやしない! いいさ、お好きにどうぞだよ! 勝手に変わって、勝手に消えろ!! どうせみんな末路は一緒なんだ! 私だけ仲間外れにして、仲良くさっさと消えちまえ!!」

「……いい加減にしろカゾット、ふたりが怖がる。それに、(変化)については君だってとうの昔に覚悟していたはずだろう。今さらこれくらいのことで取り乱すんじゃない」

「私はこんな(変化)なんぞ、お前らから聞かされちゃいない!!」

そう叫んだ瞬間さ。

カゾットは引きちぎるみたいに目隠しを取り払った。

怒りに歪んだ顔が現れるもんだと誰もが思ったろうね。

でも実際はそうじゃなかった。

泣いてたよ。

銀色の瞳から真珠みたいな涙落として。

真っ白な頬を紅潮させて。

しばらく黙って泣いてたよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ