【小さな森】
村には口減らしのために、不思議な風習がある。
ふたりの子供を森へ向かわせる。
迷いの森か何かかって? いやいや、別にそんな大層なものじゃないよ。
村の東に広がるのは小さな森。子供たちでも迷いやしない。
ただね、森に入った子供たちは、なぜかひとりしか戻ってこない。
それがなぜか。帰ってきた子供に聞けば済むことだろうと思うだろうね。
でも駄目なんだよ。
森から帰った子供たちは皆、口をつぐんで話やしない。
大人になってもそれは変わらず。
結局、森に入ったふたりの子供が、ひとりになって戻ってくるのはなぜなのか、
知らないか。しゃべらないか。どちらかの人間しかいないんだ。
とはいえ、どっちみちどうでもいいことさ。
村にとって、家にとって、大切なのは口減らし。子供さえいなくなるなら、それでいい。
ふたりの子供がひとりになる。なんとも簡単なことだよ。
だからそうさ、今日も子供が森へ入る。
フィリオとフィリア。
仲のいい姉弟だったね。
とはいえ、どっちみちどうでもでもいいことさ。
この子たちが森に入れば、帰ってくるのはひとりだけ。
たったそれだけ。なんとも簡単なことだよ。
だからそうさ、森へお入り子供たち。
ふたりの子供がひとりになるよ。