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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
19/74

【そして今の三人】

アナトールが最終的に弟を館から出すって選択をしたことに対して、まだ後悔の念を引きずってたある日のことだったよ。ふたりが館に来たのはね。

カゾットとシャルロット。

明るいと言えば聞こえはいいが、なんとも軽い性格の兄をしっかり者の妹がたしなめる。

そんな兄妹だったよ。

カゾットはこの時、十歳。館を訪れたときのアナトールと同い年。

青みがかった綺麗な黒髪してね。暗い茶色い目をしてた。

シャルロットはひとつ違いで九つ。そのくせ、兄よりよっぽどしっかりしてたね。

こげ茶色の長い髪を三つ編みにして、真っ黒い、大きな瞳したかわいい子だったよ。

無粋だがまた言い足しとくよ。この時点でカゾットはまだ黒髪。銀の髪なんかじゃない。

ましてや、目隠しみたいな布きれなんぞ、顔に巻いちゃいなかったよ。

さて、年の近いアナトールと、面倒見のいいシャミッソーのおかげだろうかね。

ふたりは幸運にも、この館でこれといった怖い思いはしなかったように思うよ。

ただまあ、このふたりの決断の早さの原因がもしそれだったとしたら、考えようによってはある意味じゃ不幸だったかもしれないね。

カゾットが館に残る決断をしたのは、館に来てからわずかに二か月後だ。

ちょうど館での(変化)について、すべてを聞き終えたあとだったよ。

(変化)に対しては、普段はしっかりしてたシャルロットのほうが明らかに動揺してた。

ま、これも当然さね。

姿かたちがさて、これからどう変わってしまうのか。さらに、その先にはどうなるか。

自分が自分でなくなることに何の恐怖も感じない人間なんて、そうはいないさ。

だからこそ、カゾットは決めたんだ。

九年間一緒にいて、一度も見せたことのない妹のおびえた様子に、彼もまた(兄としてのプライドに負けた)のかもしれないね。

それに、心のどこかで思ってたんだよ。

こんな自分が家に戻るより、ちゃんとした妹が館を出たほうが有益だろうって。

しかしさ、皮肉なもんだよ。

実際はそう考えてる時点で、カゾットもほんとはしっかり者なんだ。

見た目や態度は別にしてね。

だからって、この選択が間違ってたなんて言うつもりはないよ?

加えて言うなら、正しいとも思わないがね。

しかし、ちょっと決めるのが早すぎたんじゃないか。そんな風に感じるだけさ。

こういうのを老婆心て言うのかい?

と、まあいろいろあったがね。最終的には館は三人に落ち着いた。

アナトール。カゾット。シャミッソー。

それから四年。館は彼らに何を与え、何を奪ったか。さあ、ようやくに本題だ。

すまないね。とんだ長話につき合わせちまって。まったく、これでようやく本題なんだ。

悪いけど、お茶でも飲んでゆっくりしておくれ。

あんたにゃ気の毒だが、話はまだまだ終わらないからさ。


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