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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【今はいないふたり】

今から四年前。ふたりの子供がここに来た。

アナトールとマルセル。男の子ふたりの兄弟さ。

アナトールはまだ十歳だったが、長男らしくしっかりした子でね。短く刈ったブロンドの髪と、落ち着いた青い瞳が印象的な子だったよ。

対して弟のマルセルはまだ六つ。館に入ってからもずっとわがままばかり言ってる聞かん坊でね。アナトールより長い赤髪に、いつも鳶色の目を不満そうに光らせてる子だった。

そう、この時点では。分かるかい?

今でこそ黒髪だが、少なくともこの時まではまだアナトールの髪は黒くなかったんだよ。

理由までは聞かないでおくれ。それは今、私が話すことじゃないからね。

ふたりを迎えた館の住人もまたふたり。

シャミッソーとボスコ。奇妙な姿した館の住人。

ただね、シャミッソーもまた、この時と今とではかなり姿が違ったよ。

身長はおおよそ今のアナトールとおんなじ程度。馬鹿でかいってほどじゃなかった。

燕尾服についてはそのまんま。

しかしね、手袋は無し。黒い靴も今と変わらないが、最大の違いは顔さ。

彼は麻袋の代わりに黒い山高帽を被って、真っ黒な長い前髪で目元を完全に隠してた。

そしてボスコ。四年前アナトールを心底怖がらせ、弟のマルセルを大泣きさせた人物さ。

まあ、想像してもらおうか。

身の丈が下手な家の屋根には届きそうな高さで、その体を濃紺の馬鹿でかいジャケットとパンツに無理やり押し込めて、革製の茶色い手袋。足には葦毛の毛皮のブーツ。

で、ご想像通りのお顔だよ。

頭から首元まですっぽり隠すように麻袋を被ってた。

ああ、まるで今のシャミッソーとそっくりな姿だったね。口がきけなかったのもご同様。

この時のシャミッソーは、そんなボスコにおびえるアナトールとマルセルを、困った顔しながら、優しくなだめてくれてたんだ。

家に帰りたいって言ってだだをこねるマルセルに手を焼いてたアナトールを助けてくれたのもシャミッソー。館で生きてゆく方法を教えてくれたのもシャミッソー。

変な話、まだ年若かった当時のアナトールにとっちゃ、こりゃ比喩でもなんでもなくシャミッソーは(お父さん)そのものだったわけだよ。

だけどさ、フィリオとフィリアがアナトールの年齢聞いてびっくりしたのとおんなじで、アナトールもシャミッソーの年聞いた時には自分の耳を疑ったよ。

この時、つまりは四年前だ。その時点でシャミッソーはまだ十五だった。

三十前後の姿した十五歳。ま、今となってはそんなことは些細なことだがね。

気にかけるべきは事実だけ。それだけだよ。大切なのはさ。

館でその後、一年を過ごしたアナトールとマルセルは、結果的にアナトールが残り、マルセルが館を出た。

アナトールが自身で言った、(兄としてのプライドに負けた)結果というやつだ。

付け加えて、この少し以前にボスコも姿を消した。どこにかって?

心配しなくても、それは後になってシャミッソーが教えてくれたよ。

アナトールに現実を受け入れる覚悟ができた様子を見計らってね。

だからこそ、アナトールは今、心の底から苦しいのさ。

教えられた現実をひとりで抱える苦痛だ。

フィリオとフィリアには、残念ながらまだ話すには早い。

自然、ひとりで抱え込むしかない。

ふむ? おっと、うっかりしてたね。

勝手にアナトールをひとりぼっちにしちまった。

気をしっかり持ちなよアナトール。まだあんたはひとりじゃないだろ?

そうだよ。まだひとり、お前さんと苦しみを分かち合える相手がいるだろ?

カゾット。マルセルとボスコがいなくなってからまもなく館にやってきた。

そりゃあ決まってるよ。ふたりでやってきた。

そして、残ったのはカゾット。

言うまでも無いとはまさにこのことだね。


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