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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【朝食】

「アナトール、ふたりを連れてきたよ」

着替えを終えたフィリオとフィリアを連れてカゾットがくぐったドアの向こうは、アナトールの待つ食卓だったよ。

「ああ、すまないカゾット。手間を取らせたね」

先に食卓に着いていたアナトールは椅子に座ったまんま、そうカゾットに礼を言った。

どうもひどく疲れた様子でね。

「さあ、それじゃあ朝食にするとしよう。フィリオ、フィリア、それにカゾット。各自、好きな席に着きなさい」

「……悪いがアナトール、私は今日の朝食は辞退させてもらうよ」

このカゾットの物言いにはフィリオもフィリアも、さっきのことを引きずっているのかと考えてそれぞれ違う意味で気分を害したが、申し訳ないけどここはふたりの気分なんぞを気にする場面じゃなかったよ。カゾットが食事をしないと言った途端さ。

ぐったりとして椅子に座ってたアナトールが突然、跳ねるように椅子から立ち上がると、早くも部屋から出ようとしてたカゾットに向かって大声張り上げたよ。

「カゾット、まさかもう!!」

相変わらずでかい色メガネのせいで表情ははっきりしなかったけど、明らかにアナトールの顔色が青ざめてるのだけは見て取れたね。

するとさ、カゾットは天井を見上げてひとつ大きなため息つくと、こう言ったよ。

「心配しなさんな。別に食欲が無いわけじゃない。むしろ腹ペコだよ。ただ、今は気分の問題でちょいとメシを食う気になれないだけさ」

ふたりの会話は、フィリオとフィリアにはまるでちんぷんかんぷんだったよ。

とはいえ、少なくとも何かしら重要なことを話してるってことだけは伝わってきた。

何と言っても、アナトールの緊張感がただ事じゃなかったからね。

だがカゾットが付け加えた言葉で多少は安心したのか、アナトールはゆっくり椅子に座りなおしたよ。

「食欲は……ちゃんとあるんだな?」

「ああ、大丈夫だよ。そんなに慌てなくても。まだ私は(時期)じゃない」

「……そうか、それならいい。だが、昼食はちゃんと取れよ」

「はいよ、お父さん。仰せのままに」

そう言い残して、カゾットは部屋を出てった。

パタリとドアが閉じてさ、カゾットの姿が消えると、アナトールは疲れた顔をさらにしかめて大きく息を吐くと、そのまま下向いて固まっちまったよ。なんともいやな空気さね。

事情が分からないからなおのことだが、こういうのは場の空気が邪魔して、せめて確認したいその事情ってやつを聞き出すのにもひと苦労だ。

ま、それは特に気の回る人間に限るがね。

そう、こういう状況ってのは逆に空気の読めないやつのほうが都合がいい場合もある。

「アナトールさん、なにかあったの?」

フィリオが普通に疑問を口にしたのはそのすぐあとだったよ。

無論、フィリアはぎょっとしたがね。

こいつはよくもまあこの空気の中で、そんな質問を平気でできるもんだと、半ば呆れ顔してフィリオを見てたけど、その実、内心では自分の聞きたかった質問をしてくれたフィリオをありがたくも感じてたんだ。

で、フィリオが質問してみるとさ。

アナトールはゆっくり顔あげてふたりのほうを向くと、重たそうに口を開いたよ。

「シャミッソーが……」

言って、いったん言葉を切ってさ。少しして、ようやく絞りだすみたいにこう言った。

「……シャミッソーが意思の疎通もできなくなった……」

そう話した。けどね、悪いがこれじゃあフィリオとフィリアには圧倒的に言葉足らずだ。

はっきり言って、なんのことかさっぱり分からないね。

実際、話が分からないって顔したふたりを見て、アナトールは苦しそうに話を続けたよ。

「……今日は、少し細かい話が必要か……ふたりとも、とりあえず座っておくれ」

さて、それからアナトールの長い話が始まった。暖かい朝食を目の前にしてね。でもさ、

分かるだろうけど、フィリオとフィリアは今は食事よりも彼の話に興味津々だったよ。


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