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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【寝室にベッドがふたつ】

用意された寝室に入って、後ろのドアがパタリと閉じるとさ、フィリオもフィリアも同時に大きな溜め息ついて、壁に寄りかかっちまったよ。考えてみれば、おかしな話さ。

ふたりが森を抜けて館に着くまでの時間。ふたりが森を抜けて館に着いてからの時間。

どう考えたって館で過ごした時間のほうが短いんだ。

それなのに、どっちの時間がよりくたびれたかって言われたら、ふたりは迷わず、館での時間と言うだろうね。

体の疲れよりも心の疲れのほうが人はつらく感じる。その典型的な例だね、こりゃ。

「なんか……疲れたね」

「……うん」

「だけど、思ってたより……」

「……うん」

なんだか久しぶりにふたりきりなったような気分でさ、フィリオとフィリアは少し言葉を交わしたよ。

(思ってたより)の次に来る言葉があんまり分かりきってるから、フィリオは普通に返事してたね。

(思ってたより、怖くなかった)

ふたりの考えは双子みたいにおんなじだったよ。

「……アナトールさんは、いい人だったね」

「……うん」

「カゾットさんは……うーん……」

「……悪い人では……無いと思う……」

さて、館の住人たちについて話をしてみるとさ、ここでは逆に意見が少々食い違ったね。

フィリアは正直、アナトールは信用してたが、カゾットについてはちょいと不信感を拭えないといった感想。

フィリオはアナトールがいい人だってとこまではフィリアと同意見だったが、カゾットについても信用を崩していない。

まあね、印象ってのは人それぞれだからね。差が出るのは当然なんだよ。

フィリアはカゾットの気ままな態度が嫌い。フィリオはカゾットの気楽な雰囲気が好き。

ここだけでも差がある。

しかもさ、フィリオはカゾットのちょっとしたことがすごくうれしかったんだよ。

ミルクをこぼした時さ。確かにカゾットはそれ見て大笑いしたけどね。

でも、彼はまるで当たり前のことみたいにナプキンをよこしてくれた。

それがうれしかったのさ。

とまあ、こんな具合で意見が分かれたところもあったが、最後はピタリと噛み合ったよ。

「……シャミッソー……さんて……」

「……よく分かんない……」

ここについては完全に一致だ。

と、さ。いろいろふたりとも思うところはあったけど、結局この日に関してはこれで話は終わりと相成ったよ。

なにせもうくたくただ。体はなにより、心がね。ベッドが恋しくなるのは当然だろうよ。

でさ、フィリオは右のベッドへ行って、置かれた寝巻きに着替えた。

フィリアは左のベッドへ行って、同じく置かれた寝巻きに着替えた。

特にフィリオは服がミルクでべたついてたからね。着替えてさぞ、すっきりしたろうさ。

それで、ふたりは各自のベッドに入ったよ。

想像以上だったね。ほんとに上等のベッドさ。枕もベッドも雲みたいに柔らかくて。

それこそほんとに天にも昇る心持ちっていうやつだ。

そう、普通ならそのまんま、ぐっすり眠っちまう。普通なら。

けどさ、ベッドに入ってどれくらいした時かね。恐らく一分と経たなかったと思うけど、急にフィリアは、自分のベッドの横に気配を感じてね。ふと首を回して見てみたよ。

するとさ、自分のベッドの横に立ってるんだよ。フィリオが。自分の枕を抱いてさ。

不安そうな目ぇして、じっとフィリアのほう見たまんま、ベッドの横に突っ立ってんだ。

そうだね。間が、少しあったかもしれないね。

ちょっとしたらさ、フィリアは自分の布団めくって、こう言ったよ。

「一緒に寝よう」ってね。

結局、ふたつ用意されたベッドは、ひとつは用無しだ。

フィリオとフィリア。仲良く抱き合って眠ったよ。

怖いだろうね。不安だろうね。でも仕方ないのさ。

世の中ってのは誰に対しても平等に優しくない。

男だろうが女だろうが、子供だろうが年寄りだろうが、残酷なのは平等だ。

たださ、少なくとも今、静かな寝息を立てて眠るふたりの子供がさ、

不幸にはならないで欲しいと願うのは、間違ったことかね?


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