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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【満たされた食卓】

最初にアナトール。次にカゾット。最後にシャミッソー。

館の住人だって三人と、ひとまず面通ししたフィリオとフィリアにアナトールが言うよ。

「では、とりあえずお客人と我々、双方揃ったところで、夕餉にするとしよう。特にフィリオとフィリアは空腹のはずだからね」

外の人間の基準で考えるとまた違うだろうが、少なくともこの館の三人の中ではアナトールは一等、気が利く人間だってことは館に来てまだわずかのふたりにもよく分かったね。

姿を含めても一番人間らしかったのもある。なにせカゾットは性格も性別も分からない。

さらにシャミッソーに至っちゃ、人間かどうかすら分からない。

それでもさ、どうにか頼れそうなのがひとりいたのはひとまず幸運と言っていいだろ?

「私たちも経験があるからね。森に向かわされる日は、朝から何も口にさせてもらえなかった。恐らく、君らもそうだろう。違うかい?」

また急にアナトールに見つめられてさ、そう聞かれたよ。

ただ、ふたりはアナトールについてはもうほとんど怖がらなくなってたね。

ひとつひとつは小さい積み重ねだったが、アナトールが(自分たちと同じ)だということをしきりに話していたのが効いてきたってわけさ。

特に(森へ向かう日は朝から何も口にさせてもらえない)ってのは、まさに村の人間しか知らないことだったからね。

ここまでの言葉が本当だったと、ふたりに思わせるには十分だったろうよ。

フィリアはこちらを向いたアナトールに、こっくりとうなずいた。

フィリオはこちらを向いたアナトールに、フィリアの後ろから小さくうなずいた。

で、アナトールもまた、ふたりにうなずいた。

「よし、では食事の時間だ。ドアは誰が開ける?」

「私が開けるよアナトール。さっきのお詫びに、とっておきのご馳走のある部屋へご案内しよう。フィリオ、フィリア、何か食べたいものはあるかい?」

子供はほんとに正直だよ。一旦、不信を抱くと、容易にまた口をきかなくなる。

しばらく黙ったままのふたりを見てから、

「こりゃ聞き出すのに一晩かかるかもしれないな。仕方ない。適当に見繕うとしようか」

そう言って、さっさとドアまでいくと、ふと間を置いてから、勢いよくドアを開いたよ。

するとさ、今度もふたりはたまげたね。

遠目とはいえ、しっかり開け放たれたドアの向こうはさ、それこそ見たことも無いようなご馳走が並んだでかい食卓が置かれた部屋だった。

冗談抜きに、ふたりには魔法か何かにでも見えたろうね。

開けられたドアからは、なんともうまそうな匂いがしてきて、ふたりの鼻をくすぐった。

腹の虫にこたえる匂いさ。

本当のところは、ついさっきまで不安や緊張のせいで、腹が減ってることすら忘れちまってたが、いざ目の前に食い物が出てくれば話は別だ。

「さ、早々に食事にしよう。ふたりとも遠慮せず、お腹いっぱい食べるといい」

言いながら、アナトールはふたりの後ろへ回るとさ、フィリオとフィリアの背中に優しく手をそえて、今まさに現れた夕餉の部屋へとふたりを進めていったよ。


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