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7日目

 ■■■


 次の日。

 いつものようにダンジョンの状態を確かめ、設備を整える。今日の侵入者はアッシュウルフの群れだった。大体10匹くらいの群れで、集団の中に一匹だけ一際大きな個体がいた。おそらくリーダーなのだろう。リーダーに統率された群れは正直数の問題じゃない。たかが10匹だろうが、リーダーがいるだけでその群れは2倍にも3倍にも戦力が跳ね上がる。しかし、うちのスライム達の敵ではなかった。そもそもうちは『クイーンスライム(幼)』のモモという強力なリーダーがいるし、僕が何もしなくてもあっという間に制圧してしまった。スライムって凄いね。ゲームによっては最弱扱いなのに、こうして見るとスライム最強だと思う。魔法使い相手だと勝てないけど。


 今日はまだ冒険者は来ない。きっとサトウ達のパーティのように迷い込んでくるぐらいしかこのダンジョンに来ることはないんだろうな。放逐したサトウに潜り込ませたスライムからも特に目ぼしい情報はない。こういうのはゆっくり構えていればいいのはわかっているが、なんとなくそわそわしてしまう。きっと今日みたいに何事もない日が続けば慣れることだろう。




 今日も仕事が終わり、そろそろ寝ようかと思っていた頃。

 いつもなら何も言わず自分から抱き枕になってくれるモモが、今日は何かを決心した表情で俺をじっと見据えていた。


 何かな、と聞けば、昨日言った大事な話です、と答えが返って来た。たしか昨日の夜大事な話があると言っていたなと思い出し、どんな話かと思いを馳せる。


 ダンジョンの設備に関してなのか、それとも配下の魔物に関してなのか。

 苗床にしたエリスについてなのか、それとも魔物化準備中のミリンについてなのか。


 しばらくもじもじしていたモモは、ようやく話を切り出した。





 それは、クラスアップについてだった。


 クラスアップとは、魔物が上位の存在になることで、魔物の種類によってそれぞれ設定されている。経験値を溜めたり、特定のアイテムを捧げたり、とその魔物によって千差万別なクラスアップの方法がある。以前スライムが『ウルフスライム』に進化したのもこのランクアップの一つの形らしい。

 もちろん魔物ではない人間にも似たようなことはあり、それはジョブアップという。人間ならば必ず何かしらかの職業ジョブに就いていて、前にも言った通り僕は『ダンジョンマスター』だ。『ダンジョンマスター』にもジョブアップはあるのだが、条件はまだわからない。なんでもある時ジョブアップないしクラスアップの方法が頭の中に閃くらしい。


 それはさておき、モモのクラスアップだ。

 モモの種族『クイーンスライム(幼)』のクラスアップ先は『クイーンスライム(見習い)』というらしい。というより最初も思ったけど『クイーンスライム(幼)』の『(幼)』って何? そもそもクラスアップして()が取れるかと思ったら取れずに中身が『(見習い)』って? ちょっとこの世界を設定した神様に問い詰めたい気分になる。


「それで……クラスアップの条件が……」


 顔を赤らめながら言い詰まるモモ。何か条件が難しいのだろうか。僕に言うのがためらわれるような内容なのかな。それでも僕は出来る限りその条件を達成させたい。やっぱりモモのことは戦力として外せないものだし、何より娘のように大事に思う。だからモモの言い分は出来る限り聞き入れたい。


 それで何、と聞けばモモは俯いたまま切れ切れに教えてくれた。


「……伴侶となる……方から……精気を……もらうんです。……つまり、パパに……えっちを……してもらいたい……というか」



 一体全体、どこをどう間違ったら娘にも等しい子と大人の営みをしなければいけない話があるというのだ。





 ■■■


 正直、モモと愛の営みをするなんてありえない。それはモモがスライム娘だから、という訳ではなく僕の中ではモモは娘であり、性的対象という意味の女として見ていないからだ。人によっては娘でも関係なしに性的に迫る男はいるらしいが、僕はそんな男じゃない。


 いくらなんでも、そんな状態で僕はモモとえっちすることはできない。そこのところをモモに伝えてみた。


 モモは僕の言うことを黙って聞いた。聞いている最中のモモの表情は何も写らぬ虚ろなだったのが気にかかるが、僕はそれにくじけずに思いを告げた。僕の十何年かの人生の中で女の子に自分の考えや思いを告げるなんてことは一度もなかったから辛い。内向的な僕になんて仕打ちなんだろうと思う。それでも伝えなければわかってもらえない。


「……つまり、パパは私のことを女として見れないってことなんですね」


 僕の話を黙って聞きしばらく考え込んだ後の台詞だった。相変わらずモモに表情の色はなかった。


「パパの意見は尊重します。ですので、とりあえず今は精気だけください。精気をもらうだけならそうえっちなことはしなくて済みますから。だけど、いつかパパには私を求めてもらえるようにします……」


 そう嘯くモモの背後にはゴゴゴと燃え上る炎が幻視できた。僕はいったい間違ったことを言ってしまったというのか。脱童貞というチャンスに喜び浮かれればよかったというのか。……いや、僕は間違っていないはずだ。





 ちなみにモモのいう精気の調達は自家発電によるものだった。正直虚しい。だけど、これは僕の選んだ結果だ。モモの強化のためならば仕方ない。


 にしても、モモの言う僕を振り向かせる方法というのはどんなものなのだろうか。


 僕は精気を貰って満足げにしているモモを抱き枕にして眠りについた。



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