2日目
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目が覚めたらそこは知らない場所だった。コンクリートのような無機質な天井だった。
まぁ、当たり前の話なんだけどね。ここは異世界なんだもの。自分が住んでいた部屋の天井なんかじゃなくて、見覚えない天井で当たり前だ。
でもね、こういった状況で一度はやってみたくなるもの。それだけじゃなくても、実際『あれ、ここどこだ』ってなるよ。
体を起こしてみれば、『クイーンスライム(幼)』のモモがこちらを見ていた。桃色のおかっぱ少女のモモの姿はかわいい。思わず頬ずりしたくなるほどのかわいさだった。実際膝の上に乗せてすりすりと頬ずりしましたよ。だってかわいいんだもの。大事なことなので2回言いました。僕が頬ずりしている間黙ってされるがままになってました。なんと愛らしいことやら。
モモと戯れた後、ダンジョンの現在状況を調べた。さてさて、僕が眠っている間にはたしてダンジョンに侵入者がいたんだろうか。
結果。侵入者1体。種族はアッシュウルフで、ぬるぬるの床に足を取られている間にスライムに喰われてご臨終だったそうだ。アッシュウルフは外の世界の野生動物で、あんまり強くないらしい。生態ピラミッドではだいたい真ん中らへんに位置する、中管理職のような立ち位置にいる。外の世界の人間たちが作る“冒険者”の初心者が主に狩るような、そんな弱い生き物だ。
だからこそ、うちのダンジョンに迷い込んで呆気なく死んでしまったようだ。死んだことでダンジョンに入った魔力も微々たるもの。アッシュウルフの肉塊は全部スライムの餌になって消えましたとさ。情報として頭に入っているものの、実際にアッシュウルフを見てみたかったな……どんなもふもふだったんだろ。いずれは手元に置いてみたいと思う。
とりあえずダンジョンのお仕事は侵入者が来るまでお休みして、空いた時間はモモに言葉を教えたりして時間を潰した。
モモはスライムなんだけれど、ちょうどとっている姿の見た目同様に5歳児並の知能技量を持っているようだ。言語は僕自身の母国語の日本語を教えている。意外と呑み込みが早くて教えるのが楽しかった。日本語は外国人からすると取得するのに難しいと聞くが、言語自体を持たない赤ん坊のようなモモからすればそんなことなかったのか。気が付けばモモも僕とちゃんと会話できるぐらいまでに日本語をマスターしていた。とはいえ、話し方は見た目同様に舌足らずなのだが。
「パパー、何書いているのー」
今も日記を書いている傍でモモがそう言ってすり寄ってくる。今すぐにでも日記を放り投げてモモと戯れたくなるが、あまりにかわいがりすぎるのもどうかと思うので自重する。今は日記を書く時間なのだ。モモをかわいがるのは後なんだ。
「ねぇーパパー」
モモは僕のことを『パパ』と呼ぶ。初めは名前を呼ばせようとしたのだが、呼びにくかったせいかぐずり、結局『パパ』で定着してしまった。たしかにモモを作り出したという意味では僕はモモのお父さんという認識でいいのだろうが、どこか釈然としない。この年齢で父になるなぞ元の世界ではありえなかったからなおさらだ。
「うぅー」
あーあ、モモがぐずりそうだ。あんまりかまってやらないのも逆に悪いのかもな。仕方ない、モモをかわいがってあげよう。
ほーら、おいで、モモ。
「わーい!」
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モモと遊び、モモに勉強を教え、時間が過ぎ、そしてその時がやって来た。
このダンジョンの侵入者だ。僕からすればはじめてのお客さんになる。
「パパー、お家にいっぱい狼さんやって来たよ」
モモがダンジョン内のスライム達からの情報を纏めて教えてくれる。僕は頭の中に入ってくるダンジョン情報と一緒に現状を把握していく。
このダンジョン内に入って来たのは、ハウンドウルフが20匹。どうやら夜中に侵入してきたアッシュウルフの匂いを辿ってここまで来たらしい。
むむ、忌々しい奴だ。ハウンドウルフとはアッシュウルフより狂暴な狼で、結構大きい。モモが手振り身振り体全身を使って教えてくれた。よーくわかった。
ただそれだけ大きいと、ただのスライム達では太刀打ちできないかもしれない。なにせ、相手は群れている狼だ。弱りかけのぼっち狼とは話が違う。進行速度が想定よりも速い。このままでは、入り口をあっという間に突破されて僕のいる場所まで着てしまう。
僕は新たな魔物を召喚することで手を打つことにした。召喚する魔物は『イータースライム』。これまでの攻撃力を持たないスライム達とは違い、コイツは生物を喰らうためにアクティブに動く。死体をむしゃむしゃ貪る今までのスライムとはそこが違うのだ。きっと狼たち相手に果敢に立ち向かい、周りのスライム達と連携して狼を排除できるに違いない。そう思って、『イータースライム』を召喚した。
目の前に現れたのは、1つの黄緑色の球体だった。ちょうど人の頭ぐらいの大きさの球体が目の前にぷかぷかと浮かんでいた。
「彼がー、イーターさんだよ。ほら、パパに挨拶はー?」
モモが通訳してくれると、目の前の球体はぷるぷると震えながら上下に浮き沈みした。これが挨拶なんだろうか。
僕は戸惑いながらも『イータースライム』に仕事内容を伝えると、ぷるぷると左右に揺れ動いた。モモが言うには「ありがたき幸せー」だそうだ。
『イータースライム』をダンジョン内に転送すると、早速仕事を始めてくれたらしい。『イータースライム』の目線から映し出された映像が僕の脳裏に描き出される。
ハウンドウルフに果敢に飛び掛かって、その毛皮を溶かし、いざハウンドウルフが反撃に出ようとするとささっと道端に避ける。そして、気を抜いた瞬間に再び飛び掛かり、その肉体に喰らい付いていく。まさしく『イータースライム』の名に相応しい働きを見せてくれている。さすがだ。召喚の際に消費した魔力は手痛かったけど、これでハウンドウルフ達を倒せばチャラになるどころかがっぽりお釣りがくるだろう。
そして、20分後。『イータースライム』を筆頭にスライム達の働きによってハウンドウルフ20匹を討伐できた。魔力はダンジョンへ、肉体はスライム達の食料となった。すると、スライムの中に変化が現れ、何体かのスライムが変化を始めた。その様子をじっと見ていると、先ほど見たハウンドウルフの姿へ似通ってきていることに気付いた。
ダンジョンの情報を呼び出すと、たしかに何体かの『コモンスライム』が進化して『ウルフスライム』になっていた。ハウンドウルフの肉を盛大に食べたからだろうな。ハウンドウルフよろしく素早い動きが可能になったようだ。なんか面白い。スライムってこうやって強くなっていくんだな。
僕は新たに得た魔力を使ってダンジョンの設備を整えながら、次の侵入者に思いを馳せた。
次はどんな侵入者がやって来るんだろう。




