1日目
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つまらない。
その感想が零れ落ちる。
こんな平和で、窮屈な世界なんか壊してしまいたい。
諍い、喧嘩、争い。どれも等しく好ましい。世界には必要不可欠な要素だ。
世界は本来争いから成り立つ競争によって成長し続ける。競争が無くなればその先に待ち受けるのは緩やかな滅びだ。それだけは避けなければならない。
奴は外道な手段でこの世界を滅亡へ導こうとしている。
異世界からの勇者召喚。大して劣性にも陥っていない屑どもの言うことを真に受けて馬鹿な真似をしたものだ。おかげで私の大事な子達が滅ぼされそうになっている。
ふざけるな、私はそう叫びたい。
争いあっての世界だというのに。
なぜ争いを無くそうとするのか。
もっとも争いを無くすために新たな争いを起こしているのだが、それでもいつかは争いが途絶えるだろう。
だから、私は決断した。
あの愚妹が仕出かしたことを私もやってやろうと。
さぁ、始めよう。
この世界の均衡を保つゲームを。
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どうしてこうなった。
あの時、教室にいた誰もがそう思っただろう。いきなり頭の中に声が響き、その瞬間目の前が真っ暗になって、気が付いたら陰気くさい小部屋に一人きりで閉じ込められたのだから。かく言う僕もその中の一人だ。
僕は今、一畳ほどのコンクリートのような灰色の小部屋の中で一人ぽつんと佇んでいた。天井は僕よりちょっと高いくらい、正直息苦しい感じを覚える部屋だ。
学生服に身を包んだ僕に与えられたのはただ一つの正四面体の宝石。アクアマリンのような透き通った青色をした宝石。それが僕の手の中に転がっているだけだった。
何が起きたのだろう。
たしか今日は、いつものように目覚ましに叩き起こされるようにして起床し、楽しい学校生活を思い浮かべながら目の前に広がる退屈な学校生活に身を投じ、尚更退屈な午後の古文の授業を受けていた、はずだった。
「ぅえーっと、この“愛敬ありてことば”とは“かわいげがあって”ということですぅね」
ちょうど徒然草をやっていた時だった。古文のおじいちゃん先生の眠くなるような声を聞きながら、教科書に書かれた文章を漫然と眺めていた、その時だった。
『……きこえますか……きこえますか……3年A組のみなさん……3年A組のみなさん……
私は神です……いま…あなたたちの心に……直接…語りかけています……
きこえますか……いまからあなたたちは…異世界へ行き…ダンジョンを運営するのです……
拒否権はありません……諦めて、素晴らしいダンジョンを作り上げるのです……
素晴らしいダンジョンを…作り上げた暁には……一つだけ…何でも願い事を…叶えてあげましょう……
詳しい話は…向こうで…お教えします……
さぁ…ダンジョンを作り…運営するのです……です……す……』
こんな声が聞こえたんだ。
気が付けば、こんな場所に押し込められていたわけで。
「はぁ」
異世界へ飛ばされたって、マジなの?
ダンジョンを作って運営しなければいけないって、本当?
だとしたら、
それって最高だなって。
退屈な日常から逃れ、刺激的な毎日が目の前にあるだなんてなんて素晴らしいことだろう。
この素晴らしい運命に祝福あれっ!
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ネフィロスト。地球世界とは異なる時空に存在する世界。
そこは天神を崇める人間と邪神を崇める魔人が戦いを繰り広げる世界。
ある時、この不毛な戦いに終止符を打つべく天神であるアマリリィは異世界である地球世界から勇者を召喚した。全ては邪神との戦いを終わらせるため。例えそれが世界の禁忌だとしてもアマリリィは戦いを終わらせるためならと決断した。
地球世界から召喚された勇者は天神アマリリィから力を貰い、ネフィロストに降り立った。人間の希望となるべく、魔人との戦いに身を投じた。
駆逐されていく魔人とその配下の魔物。劣勢に立たされた邪神はお返しとばかりに天神アマリリィがしたのと同じように地球世界から自らの僕を召喚する。しかし、そのことを天神アマリリィが知ることはなかった。ただ勇者を投入しても戦いが終わらないことに疑問を感じながら。
戦いは終わらない。
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ある程度自己完結させたところで、僕は早速目の前の謎に手を出した。この部屋の中で唯一謎なのが、手の中に転がる正四面体の宝石だった。これがいわゆるダンジョン運営に必要なアイテムに違いない。ラノベやネット小説にあるダンジョンもののセオリーに従えば、きっとこれがダンジョンコアとかいう重要なアイテムなのだろう。
しかし、どうやれば動くのかな。
まず叩いてみた。しかし反応はなかった。
次に動けと言葉に出してみた。しかし反応はなかった。
その次に心で動けと念じてみた。それでも反応はなかった。
あれれ? こういう時、仮想の物語の中ではあっさりチュートリアルに入るというのに。
いきなりハードモードなのか!? 僕のダンジョンマスター人生ハードモード?
諦めきれずにあれこれ弄ってみて、体感30分ほど。
ようやくわかりました。
答 口の中に飲み込む
僕の脳内には『テレレレッレッテッテー』と特徴的な音が鳴った気がする。
思わず両手を掲げてドヤ顔してしまった。
それにしてもこれをわかれという方が間違っている気がする。
で、ダンジョンコア(結局そうらしい)を飲み込んだ結果、いろんな知識が頭の中に詰め込まれた。
それを簡略に説明するとこうなる。
・僕はダンジョンマスターとなってダンジョンを作り、運営していくのが目的だということ。ダンジョンとは魔力で作り上げられ魔物が徘徊する迷宮で、中心部であるダンジョンコア、つまり僕自身が侵入者によって壊されないように迷宮を形造りながら、その上侵入者から魔力を吸い上げていくものだということ。
・この異世界ネフィロストはいわゆる中世の世界観で、今までいた世界とは違い魔法という未知の力があるということ。魔法についての説明はあまりなかったが、ゲームやラノベにあるような魔法という認識でいいらしい。
・ダンジョンマスターの目的は、ダンジョンの運営とその成長であり、侵入者を捕えるないしは殺すことによって魔力を吸収し成長するそうだ。ダンジョンが成長することで召喚できる魔物が増えるそうだ。
・そして、重要なポイントとして、僕以外にも僕のクラスメートたちがこの異世界に飛ばされ僕と同じようにダンジョンマスターとなり、それぞれがダンジョンを作ることになっているということ。近くのダンジョンの存在は感知することができて、近くまで部屋を作ればそこから侵入できるとのこと。相手のダンジョンに侵入した場合、ダンジョン同士の戦争となり互いのダンジョンマスターを倒すまでダンジョンは閉鎖されるそうだ。ちなみに相手のダンジョンマスターを倒すと、そのダンジョンは自分のものとなりどのように扱ってもいいそうだ。
簡単に述べるとこんな感じだ。
御託はこれくらいにしてさっさとダンジョンを作ろう。ダンジョンマスターはご飯を食べなくても生きていけるそうだが、魔力が枯渇すると死んでしまう。魔力を補充するにはダンジョンを作り、侵入者を招き入れ、その上で魔力を吸収するしかない。
えっと、僕が作れるダンジョンは……うむ、いろんなタイプが作れるのか。
まずダンジョンを作る時に初めに設定するのは、そのダンジョンの性質だ。炎に塗れた火口でもいいし、水に満たされた湖でもいいみたいだ。一度設定するとそれ以降変えることはできず、改装を重ねてもその性質通りのダンジョンしかできないようだ。一応その性質にも幅があって自由にできるみたい。その自由度がどこまでなのかはちょっと試してみないとわからないけど。
えっと、じゃあ僕は、じめじめっとした洞窟にしよう。湿っていて、それでいて暗闇に満たされた洞窟を。やっぱりこういう洞窟ってなんか落ち着くんだよね。あんまり過激的なのは住みにくいし、太陽に晒されるのもなんか嫌だし。ダンジョンって言えばこんな感じじゃないっていうと、こういう洞窟になるよね。
性質を決めたら、今度は形状か。今は魔力が少なくて1階層しか作れないけど、成長していけば2階層3階層とどんどん深く高く作っていけるらしい。まぁ今は関係ないけど。洞窟だから天井の高さはちょうど頭すれすれぐらいにして、それで道をくねくねって捻じ曲げながら分かれ道なんか作っちゃったりして。小さい頃未知の洞窟を探検する話を自分で作って遊んでいたことあったな。あんな感じでなんか楽しい。あぁ、成り行きでこんな状態になったけど、今最高な気分だよ。
じっくりと時間を掛けてダンジョンの内装を整えたら今度は罠と召喚する魔物だ。罠というのはその名の通り、やって来る冒険者を嵌めるためのもので、召喚する魔物と合わせてぴったりのものを選ばないとな。罠の種類によって消費する魔力は変わるからあんまりぜいたくは言えない。使いすぎるとダンジョン開く前に僕死んじゃうしね。召喚する魔物にしたって、あんまり強力なのは消費する魔力が半端ない。ここは考えどころだね。
うーんと。僕は考えるに考えて、ぬるぬるでべとべとなものをチョイスした。
召喚する魔物はスライムで、罠はローションマットに落とし穴にしておいた。なんか僕の性に合っているもの。
スライムは某竜探究よろしく最弱の魔物というタイプと、物理攻撃無効できるタイプと二つある。僕が召喚するのはどちらもで、ぷにっとして中のコアが簡単に摘まめてしまえる『コモンスライム』をたくさんと、麻痺毒を持つ『ナムドスライム』をそこそこに、切られてもすぐに再生できて弱点であるコアを隠すほどの知能を持った『ソフトスライム』を少々、そしてそれらのスライムたちを統率する『クイーンスライム(幼)』1体だった。『クイーンスライム(幼)』の(幼)とは、まだ僕では完全体を召喚することはできず生まれたばかりで幼稚なのしか召喚できなかった。
僕は彼らに『クイーンスライム(幼)』を通じてどのようにダンジョンで待機してもらうのか伝えた。ダンジョンマスターの特権として、どんな召喚した魔物でも命令できるのだが、こうして『クイーンスライム(幼)』を通じて話すとよくわかってもらえる気がした。
スライムたちがそれぞれの持ち場に去っていき、僕の手元には『クイーンスライム(幼)』だけが残った。スライムなのだが、人型を取ることのできる『クイーンスライム(幼)』は、ちょうど5歳くらいのあどけない表情を浮かべるおかっぱの少女の姿をしていて、ピンク色のぷにぷにとした体がなんとも可愛らしかった。僕はなんとなくその子に『モモ』と名前を付け、床に横たわった。今日はなんだか疲れた。明日から頑張ろう。
目下の問題は、スライムだらけの軍団に火力がないということなんだよな。どうやっていこうかな。
……異世界来てダンジョン運営するのは楽しいな。
自称神様に感謝しておかないと。




