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訪問者

明日こそは気絶しないと願った翌日、朝食を食べ終わった俺とシープは一緒に片付けをしていた。


これがまた河童はよく食べるのだ。俺の食べる量の倍はある量をシープはもりもりと食べていた。


つまりは片付ける量が多い。


俺が嘆息して片付けていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「あー、今手が離せないので岸さんでてもらえませんか?押し売りとかはスルーで」


シープはそう言い終わると片付けを再開した。


「了解」


と言って、俺はまだノック音を出している扉に向かった。


「はーい、いますよーどちら様ですか~?」


扉の前で話しかけるが、


コンコンコンコンコンコン


と扉を叩く音が聞こえるだけだ。


「おーい、いるよー?」


コンコンコンコンコンコン


「ねえってば……」


コンコンコンコンコンコン


「…………………」


コンコンコンコンコンコン


「いるって言っているだろうがーー!!」


堪忍袋の緒が切れたので勢いよく玄関の扉を開くと、


「おいーーーす!!おっはよーシープ!!」


という機嫌のいい挨拶とともに俺は女の子に押し倒され、抱きつかれた。


「どうしたんだよー?二日近くもひきこもってー?相撲しようぜ!相撲!」


こいつは俺がシープじゃないとまだ気づいてない。とにかく離れてもらわなければ、と思っていたが上からすごい力で押さえつけられる。


やっぱり河童は力持ちのようだ。などと冷静に考えている状況ではないということは事態が起こってから気づいた。


「メ、メリーさんじゃないですか?!な、何しているのですか?!」


驚愕した表情を見せるシープ。それに対してメリーと言われた女の子は、


「ん~~?あれ?なんでシープが二人も……ってこいつ違うじゃん!!」


数回俺とシープを見て、俺から体を離した。


安堵するのもつかの間でシープがずいっと俺に顔を寄せる。


「岸さん?さっきのあれはどういうことでしょうか?」


天使のような優しい笑顔が怖い。その笑顔は好きな奴にでも向けてやってくれ。


「いや、あの、シープさん?これは不可抗力というもので……」

「許しませんよぉ…岸さんだからといって許しませんからね………」


河童界にて三回目の気絶を覚悟した俺だったが、俺とシープの間に割って入る声が聞こえた。

俺をこんな事態に巻き込んだ張本人のメリーと呼ばれる女の子の声が。


「あー、シープ?こいつを押し倒したのは私なんだから責めるなら私を責めろよー」


かっこいいな、メリー。惚れちまうぜ。


「む、メリーさんが言うのなら仕方がないですね……。わかりました。この件は不問にしましょう」


シープは不承する。というか友達にはやさしいんだな。


「ありがとう。助かった。ええと……メリー?でいいのか?」

「ああ、問題ないよ」


彼女が手を差し出してきたので、俺もそれに応じ手を出し握手をする。


「それで?この子とは一体どんな関係なんだ?」


長方形の形をした机に俺とシープは並んで座り、俺の目の前にメリーが座っている。


「それは私が聞きたいね。お前さん人間だろ?」


俺はその言葉に一瞬戸惑ったが軽く頷く。


「そっかー。だから二日間も外に出なかったのか~。なんか勘違いしちゃったなー」

「「なっ!」」


声が重なるシープと俺。


「あれあれ?その反応は行くとこまで行っちゃったってこと?」

「ち、違う!俺たちそんな邪な気持ちは微塵もない!!ってなんでシープは残念そうな顔をするんだ?!」

「し、してません!私そんな顔はしてません!!」


顔を赤らめるシープ。


「はいはい。仲がよろしくていいですね~。それよりシープ」


会話を打ち切るメリー。その呼びかけにシープが応答するとメリーは言った。


「お前、親にばれたらまずいんじゃないのか?」

「…………はい」


数秒黙っていたがやがて辛辣な表情を浮かべながら答えるシープ。そしてメリーの言葉を聞いたとき、ある疑問が俺の頭をよぎった。


「なんで親にばれたら不味いんだ?この世界 (河童界)の一人暮らしってのは今みたいな状況を作るためだろ?」

「あ、いやなんでもない。人間のあんたは忘れてくれ」


まるで俺の存在を忘れていたかのように、メリーはばつが悪い顔をして言った。


「まあ、俺が首を突っ込むべき問題かどうかは解らない訳だしな。分かった、忘れるようにするよ」

「いや、あんたは多分首を突っ込むべき話題にはなるよ。今ではないけどね」

「そうかい。あとあんたって呼ぶな。俺は岸航太だ」

「分かったよ。コーちゃん」


こいつ…、俺の小さいころのあだ名を躊躇せず言いやがった……。もう呼ばれることはないと思っていたが、まさか河童に呼ばれるとは………。


「ま、その時はお前らでどうにかすればいいとして……。シープ、どうなんだ人間って?やっぱりエロい?」


お前らの人間に対する評価が分からなくなってきたよ、俺は。


「そりゃあもう!実はですね、ごにょごにょごにょ…………」


高らかに肯定するシープ。俺何かした?確かに相撲の時は手が胸に当たったけど、あれは不可抗力じゃないか?

シープの話を聞き終わると大爆笑するメリー。その笑いが収まるまで何分かかかった。


「いやー、さすが人間だな~~。面白いことするねえ~~~」

「いや、何を聞いたんだ。お前は」

「ふふっ、本人から直接聞けばいいだろう?」


メリーがそう言うので俺は視線をシープに向けたが、シープは素早く顔を背けてしまった。


「ま、彼女は怒っているわけでもないんだ。運が良かったら証拠品は見つかるよ」


証拠品?う~ん、見当がつかん。ま、気長に探すか。


「頑張るよ。で、ずっと聞きたかったんだが二人はどういう関係なんだ?」


俺は二人に視線を配る。


「まあ腐れ縁って説明するのが手っ取り早いんだろうな。こいつ小っちゃい頃からこんなんだったからなあ」

「へへーメリーさんには小っちゃい頃からお世話になってますね。」


にへらと笑うシープ。笑うとかわいいな。


「ふつつかな子だけどこいつをよろしく頼むぜ、コーちゃん」

「いつそんな話題になった?!」


そんなメリーは冗談は置いといてと言ってから、


「コーちゃんよ、あたしの家はシープのすぐ近くにあるから暇があったら訪ねな。村を案内するぜ?」


最期俺にそう言ってシープには頑張れよ(何かはわからないが)と言って家から出て行った。


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