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闇の中の3人

この小説はフィクションであり、実在する人物名、団体名、その他の名称とは、一切関係ありません。

「くそっ!あいつはどこに行ったんだ!」


「・・・・・・・」


「このばばぁ、つけあがるんじゃねぇぞ!」


 思わず、手を挙げそうになるのを、両脇で必死に止めようとする男が二人。苛立ち気に振り向くと、止めに入った従者を睨みつけた。二人は一瞬縮み上がったが、これ以上とばっちりは受けたくないとばかりに、必死に説得に努めた。


「まあまあ、そう気を荒げずに、行ってしまった者はもうどうしようもありません。」


「そうですそうです。とりあえず、今後のことを考えましょう。」


「・・・ちっ、わかった、・・・もう落ち着いたよ。安心しな。とりあえず冷静に考えていこう。」


「そうですとも、こいつは私の檻に閉じ込めておりますので、逃げようもありません。」


「わたしも、このあたり一帯に結界を張りましたから、怪しい者が近づけばすぐわかります。」


「よし、ちょっと休む。何かあったら起こしてくれ。」


(二人)「御意に御座ります!!」



 喜楽は、徹達が住んでいる町の中心街から少し離れた所にあった。ただ、学校から住宅密集地への帰り道の途中にあるので、部活を終えた学生の溜まり場にもなっていた。もちろん、それは町が発展し、徹達が高校に上がる頃からの話であり、今は細々と営業しているに過ぎない。


「あっれ~、喜楽の周りって、こんなに田圃があったっけ?」


 大野が周りをきょろきょろしながら喜楽の暖簾のれんを、分けて入って行った。へい、いらっしゃいっ、と言う、店主の声が聞こえた。2卓を6人で占有し、座ったところで、女将さんが注文を聞きに来た。各々が食べたいものを注文すると、厨房に向って威勢良く注文を読み返した。


「餃子5人前、炒飯3人前、ひとつ大盛、広東麺に、坦々麺・・・!」


 あいよ、と頷く店主がカウンター越しに見えた。


「お、おい、徹、徹!」

 

 大野が徹にヒソヒソと話しかけた。


「店の親父さん見たかよ!頭に髪の毛があるぜ!」


 うん?と、目をやると、角刈りにした、店主の頭が見えた。


「ほんとだ、いつも見る、禿頭の親父さんじゃねぇな。」


 ほんの十数年間で、禿頭になっちゃうのか。俺はどうなんだろう、と徹は少し髪を手でいて見せた。年は取りたくないなぁ、うん、若い頃に好きなことしておかないとな、と考えに耽っているところに、注文の品がどんどん運ばれてきた。


「おお、腹減った~、いっただっきあーす!」


 大野の威勢の良い声が響いた。それを合図に来栖たちは料理を食べ始めた。


「ほほる、ほほろで、ほはへ、はへひへはらへんは?」


「ほほる、ほへひゃほははははいほ」


 食べ物を口に一杯頬張ったままでしゃべっていては、何をいっているのか分からない。


「先輩達、食べるかしゃべるか、どっちかにしたら?」


 白川が聞くに堪えかねて口を出した。徹ももっともだと頷いて、頬張っていた食べ物を飲み込んだ。


「・・んんっ、ぐっ、ふう、そうだな。とおるちゃん、ところで、どこで、襲われたんだ?」


 と徹がとおるに聞いた。


「ふんほへ、ほうひへんほっ、ほははほ。」


 とおるも、食べ物を頬一杯に詰め込んでしゃべっている。この癖は昔からのようだ。徹は、諦めて、とおるの食事が済むのを待つことにした。


「お、徹!餃子残してるなら、もらっちゃうぞ!」


 大野が、徹の餃子に箸を伸ばした。


「おい、自分のがあるだろ!」


 と言って、自分の箸で餃子を防御した。


「充、餃子食べないなら、とるぞ」


 思わぬ方向から、攻め手がやってきて、大野は自分の餃子を防ごうとしたが、渡瀬の箸捌はしさばきが早く、餃子を2つ取られてしまった。


「守ぅ~、てめ~、取るんじゃねぇよ。」


 と言って、渡瀬の餃子を1個奪還した。


「来栖先輩、わたしの餃子たべます?」


 と言って、白川が皿ごと、徹に差し出した。


「おっ、ときちゃ~ん、俺が食べるよ~ん。」


 充が猫なで声で答える。


「お前に言ってるんじゃねぇだろ!」


 何とも賑やかな一団だ。香織は、ほほ笑みながら、この光景を見つめていた。本当に仲がいいのである。そうこうしているうちに、とおるも食べ終わっていた。


「おいしかった~。お兄ちゃん、ご馳走様~。」


「お、徹が払ってくれるのか。ご馳走様~!!」


「充、勝手なこと言ってんじゃねぇよ。自腹だ。自分が食った分は、自分で払え!」


 ちっ、しょうがねぇなぁ、と肩をすぼめる。当たり前だろと言う顔つきで徹は充を睨みつけた。さて、質問だ。


「とおるちゃん、もう一度聞くけど、どこで襲われたんだ?」


「幼稚園の先に、竹藪があって、その奥にゴミの山があるの知ってる?」


 そこは、徹も知っていた。色んなものが捨ててあって、機械いじりが好きな徹にとっては、宝の山であった。っと言うか本人が知っているのだから当たり前だ。徹は頷いた。


「そこで遊んでいたら、急に奥の暗がりの中から3人の大人が出てきたんだ。凄く怖い顔をしてた。そしたら僕に近づいてきて、首を捕まえられて、『おまえ、もしかして徹か?』って聞かれたんだ。凄く怖くなって、泣き出しちゃったんだ。そしたら、誰かが突き飛ばしてくれて、地面に転げ落ちたんだ。突き飛ばしたのは、小母さんだった。で、すぐ抱きかかえられて、『いい?一之瀬 香織と言う高校生に助けを呼びに行って。青葉学園に行けば分かるから』と言われたんだ。そしたら、まぶしい光が出て、気がついたら、街の中に居て、小母さんに言われた通りに青葉学園に一之瀬 香織を探しに行ったんだよ。」


 そこまでしゃべると、ガラっと店の扉が開いて、家族連れが2組入ってきた。それを見たとおるは顔をしかめた。


「僕、あいつら嫌いなんだ。」


 視線に目をやると、とおると同じ幼稚園児が2人椅子に座ろうとしていた。


「ねぇ、もう、お店出ようよ。」


 とおるに促され、しかたなく、徹達は、店を出ようとした。と、そこへ、声が降ってきた。


「おっ、とおるじゃん。もう食べ終わったのか?そんなに急いで帰ることたぁねぇだろ?」


「健司、やめとけ、あんまりからかうと、泣いちゃうからな、こいつ」


「誠~、いいじゃねぇかよ。おれ、こいつを可愛がるのが好きなんだよ。」


 その声を無視しようと、とおるは外に出ようとした。


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