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一之瀬香織

この小説はフィクションであり、実在する人物名、団体名、その他の名称とは、一切関係ありません。

 ここで少し、一之瀬 香織について、話しておこう。


 一之瀬 香織が幼馴染で、隣の家に住んでいることは、説明した。ただし、隣の家と言うには、多少規模が違い過ぎる。一之瀬 香織の家は、お寺なのだ。もちろんお寺の中に住んでいるわけではなく、境内の敷地の中に家が建っていて、そこに住んでいるわけだ。お寺の名前は蓮明寺という。賢明な読者は、それが日蓮宗の寺であると見抜くだろう。日蓮宗は、仏教の中の法華経を流布することを宗旨としている。もちろん、歴史のあるお寺で、檀家も多い。熱心な信者の寄進もあって、仏閣は立派なものだ。ただ、この寺には、闇の隠れた部分があるらしい。自分の両親が夜中にひそひそと話しているのを盗み聞きしたことを覚えている。


「香織ちゃんって、今までの系譜からも、特別らしいのよ。」


 その時はなにが特別なのか、分かりもしなかった。しかし、畏怖めいた雰囲気は、はっきり覚えている。


 日蓮宗の宗祖、日蓮には、今で言う超能力的な逸話が絶えない。立正安国論をあらわし、蒙古の来襲を予言したとか、処刑が決まって、首を切られようとしたときに、雷光が走って処刑役が恐れをなして切れなかったとか・・・。そんな話を、子供心には、凄いなぁ、とも思っていたけど、高校生ともなれば、見方が変わってくる。ましてや今や俺は科学部の部長だ。超能力があると言うが、日蓮は外国の情勢や気象に詳しくて、来襲の時期や、雷が発生することを予想できたのではないか?もっと科学的な根拠があるはずだ。そう考えるようになった。


 その一方で、もしかしたら、本当に超能力をたずさえていたのではないか、と思うことがある。そう思うのは、一之瀬 香織のせいだ。家が隣同志である上、自分の家も日蓮宗の檀家になっているので、交流は普通以上のものがあった。家族ともども良く一緒に食事をし、寝起きも週の半分くらいは一緒に過ごした。また、読経とお題目(南無妙法蓮華経)は、朝晩、30分くらい唱えることもしてきた。「南無妙法蓮華経」と一心に唱えている香織を見て、人間の存在を超えた崇高さを放っていたことを、子供心にも感じ取っていた。たまにだが、香織の周りがぼうと輝いているのを見たことを覚えている。その時は、自分の目がおかしいのだと思うことにしていた。


 そう言えば、と、来栖は思う。香織には良く変なことが起きた。例えば、袋小路の方に角を曲がったと思ってついて行くと、姿を消していたりする。確かに曲がったはずなのに、そこにはいない。首をひねりながら香織の家に遊びに行くと、そこに香織がいた。


 また、朝、小学校に出かけようと、香織を誘いに行くと、天気予報が一日中晴れなのにもかかわらず、


「徹兄、今日は夕立ちで雷も来るから、レインコートを持って行った方がいいわよ」


と、無理やり持たされた。誰もレインコートなど持っていないので、恥ずかしい思いをしながら学校に行った記憶がある。しかし、下校時刻の頃に突然、黒い雲とともに夕立ちが来て、物凄い雷雨になったのであった。


 そんな事が度々あり、両親の深夜のひそひそ話もあって、香織には超能力があるのだと思うようになった。科学部に半強制的に入部させたのも、その謎を解き明かしたいと思ったからである。


 香織にどんな超能力があるか、本人に問いただしてみても、


「そのうち、わかるから・・・」


 とはぐらかせられてしまうが、それは語るに落ちており、本人も超能力を持っていることを肯定しているのだ。


「おーい、徹ぅ~。帰るぞう!」


 そこへ渡瀬が部活を終えてやってきた。いつの間にか外は薄闇に包まれかけていた。


「とりあえず、人数が多い方がいいわね。」


 香織は渡瀬の方を振り返りながら言った。


「ん?どうしたんだ?」


 渡瀬は、園児を囲むようにしている我々をいぶかしんだ。


「おれが聞きてぇくらいだ。」


 来栖は肩をすぼめて見せた。


「それじゃ、今から皆んなで行くから、私の周りに集まってちょうだい。坊やと登紀姉、守さん、充さん、徹兄、準備はいい?」


 中学1年生のグループは既に帰っていた。訳も分からぬまま、全員が香織の周りに集まった。香織は数珠を取り出して握りしめ、何事かを呟き祈り始めた。


「お、おい、いったい何が・・・!」


 来栖が叫んだが、周りが輝き始め、目が開けてられなくなった。


「ぐうぉぉぉぉ!!!」


「きゃーーーー!!!」


 言葉にならない言葉が各々から発せられた。


・・・な、なんなんだこりゃ?・・・

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