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学園

この小説はフィクションであり、実在する人物名、団体名、その他の名称とは、一切関係ありません。


 じりじりするような夏の日差しが、アスファルトの道路を溶かしていた。立ち昇る陽炎は逃げ水と言われる鏡になり、彼方を走っている車の姿を写し出していた。それでも、学園の周りに沿って植えてある桜の木の下にいると、幾分かは涼しさを味わえる。ここは、東京から少し離れた郊外にある中高一貫の私立学園だ。校庭では、暑さをものともしない学生達が、大声を掛け合いながら授業のサッカーに興じている。校舎は最近建築し直したらしく真新しい。講堂も東京ドームのように卵型をしている斬新的な造りになっている。もちろん校舎内は冷暖房完備で、屋外のむし暑さとは裏腹に涼しく、勉学に集中するには最適な環境を維持するようになっている。


 ・・・いて!!・・・


「こらー、来栖くるす!授業中に寝てるんじゃない!」


 怒鳴っているのは、我が担任の末永先生だ。教科書の角で叩かれた頭が痛い。おっと、自己紹介をしておく。俺は、来栖 徹。ごく普通の私立学園の高校3年生だ。平和主義者で科学をこよなく愛している。座右の銘は「自分の未来は自分で切り開け」だ。


「お前は、体育会系じゃないだろ。しっかり勉強せんとあかんぞ!」


 頭の後ろにコツンとノートの紙を丸めたものが当たった。後ろを振り向くと、親友の大野が目配せをして、俺の斜め後ろを指していた。そこには、大きないびきをかいて寝ている渡瀬が居た。渡瀬も親友である。悪友と言った方が良いかもしれない。かく、いつも三人でつるんで遊んでいた。大野は日和見で打算的な奴だ。俺達以外のグループと付き合うとき、必ずしゃしゃり出て話をまとめてきたりする。商売人になったら絶対成功する奴だと俺は見ている。渡瀬は喧嘩っ早く、力で物事を解決しようとする豪傑だ。時々暴走するので、2人で止めるのに一苦労する。


「ま、あいつはしょうがない。なにせ、もうすぐ大会予選だからな」


 そう、渡瀬は野球部の4番ピッチャーで主将もこなしているバリバリの体育会系だ。俺の学校は私立なので、体育会系の生徒が授業中に寝ているのは当然のようになっている。特に甲子園をも目指せる県内ベスト8常連校とあっては、授業中の居眠りは見逃されているのだった。


「ちぇっ、なんかずっりーなぁ。理科系だって、徹夜で調べたりすることもあるのにさっ!。」


 ノーベル賞でも取ったら、自由に寝させてあげらぁ、と、末永先生から高笑いと一緒に言葉を投げられたとき、授業終了のベルがなった。


「おっと、もう終わりか・・・。15ページから30ページまで、期末テストで出すから、例題や問題を復習しておけよ!」


 言い終わらないうちに、俺はさっさと帰り支度をしている。我が学園は、いわゆるホームルームがない。親への重要な伝達事項は、パソコンで連絡されるようになっている。ちなみに掃除をすることもない。学園側は、道徳的な教育はもう諦めていて、掃除は清掃業者を雇って昼間でも掃除をしている。どんなに学園生が廊下を汚しても、その日のうちに奇麗に清掃されてしまう。もちろん授業料もその為に普通より高い。中学受験のために訪問にやってくる親達は、奇麗に行き届いた校舎を見てコロリと騙されてしまう。中高一貫校なので、中学に合格できれば、よほどの理由がない限り高校まで進学することができる。逆にいえば、高校を卒業するまで、親達はお金をしぼり取られる訳だ。


 渡瀬は、欠伸(あくびひとつして、両手で頬をぴしゃっと叩いて気合を入れ、おもむろに教室から出て行った。授業と称して、一日中練習している私立高もあるが、我が校はとりあえず授業は出るように指導している。どっちにしろ、形式的なものだから、練習させてあげればいいのにと俺は思う。まあ、大人の都合ってやつか。さて、俺も自分の部室に向かおう。


 教室から出て行こうとすると、引き返してきた渡瀬にぶつかりそうになった。


「お、徹!部活終わったら、ラーメンでも一緒に食いに行こうぜ!」


 おぅ、と返事を返すと、渡瀬は、またな、と言って駆け出していった。


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