「愛することはない」が流行っているそうなので、取引終了をお伝えします
お久しぶりですね。
王都から三日もかけてのご訪問、どうされましたか?
なぜ敬語で話すのか、ですか?
卒業以来初めて会うのですから、ただの知人ですよね。綿花の取引はしておりますが、こちらまで来るのは使用人でしたから。
王都に社交に来ればいい……ですか。弟に跡継ぎが変更されましたので、私が行く意味がないですね。
あの、私のことは結構ですので、本題に入っていただけますか。こんな田舎ですが、私も暇ではないので。
息子さんが初夜に花嫁にむかって「お前を愛することはない」と言って、離婚の危機だと。
はあ、王都ではそういう言葉が流行しているのですか。甥にはそんな馬鹿なことを言わないよう、注意した方がいいかな。
え、会ったこともない息子さんに親身になれと言われましても……。
離婚するしかないんじゃないですか?
お嫁さんの実家の方が爵位は上なんですよね? 資金援助をしてもらうから、機嫌を損ねるわけにいかない状況なんですよね?
結婚までこぎ着けた理由は、お嫁さんの一目惚れなんでしょう? 頼みの綱をブツリと切ってしまった。それも最悪のタイミングで。
修復するのは、どう考えても無理じゃないですか。
そもそも、そんな恋愛話を、なぜ中年男の私に相談するんです?
私と妻はお見合いですよ。爵位を継承しないので、妻の実家は裕福な平民ですし。
は? 学生時代にちょっとした諍いがあったけれど、仲直りできた? だから機嫌を直す助言ができるはずだと?
ちょっと待ってください。
仲直り? 誰と誰が?
――あなたと私が?
…………。
いえ、ちょっと、認識のズレがひどくて、目眩がしただけです。
ふう。
私の認識では、あなたの行為はイジメです。
最初の試験で、あなたより良い成績を取ってしまった。爵位が下の田舎者なのに。
そこから文具を隠されたり壊されたり、悪口を広められたりしましたね。とても辛い学生生活になりました。窃盗と名誉毀損です。
……ああ、それに暴行もありましたね。あなたの家の方が爵位は上ですし、父に反撃はするなと言い含められていました。体の痛みと悔しさで、うつむいて歩いた王都の道――嫌な思い出しかありません。
話が逸れましたね。
おかげ様で結婚相手を探すどころではありませんでした。
あそこまで評判が地に落ちたら、卒業後の社交活動も難しいでしょう。仕方なく弟に跡継ぎの座を譲り、私には領地で弟の補佐をする将来が決定しました。
あなたの頭の出来が良くなかったばかりに……実に理不尽な話ですよね。
弟にも、私の悪い評判のせいで苦労をかけました。ただでさえ田舎の男爵家ですから、相手にしてくれる令嬢が少ないというのに。
今さら反省されても、何も変わりません。
綿をそちらに卸していたのは、父があなたの父君に恩義があったからです。息子の名誉より自分の受けた恩義を優先する、ご立派な父です。
来年、父が弟に家督を譲ります。
弟は、綿の取引先を私が決めていいと言ってくれているんですよ。ですから、そちらに納めるのは今年が最後かもしれません。
専属契約? いいえ、一昨年の契約更新のときから、ただの「契約」になっています。帰ったら、よくご確認ください。
ふふふ、うっかりミスで失点するのは相変わらずですね。
三年かけて次の取引先を吟味しましたから、来年以降が楽しみで仕方ありませんよ。
ああ、恨みがあるといっても、最後まで仕事に手は抜きませんのでご安心ください。
……花嫁に謝罪するのではなく、往復六日間もかけてここへ来る。それって、どうなんでしょうね。
ラストをちょっと修正。(2026年5月26日)




