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桜はさだめを知っている
何度目の春か、数えなくなっていた。
同じ新歓。
同じ夜桜。
同じ出会い。
違うのは、僕だけだった。
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貴船神社のバイトにも、
また同じように応募した。
同じ場所。
同じ石段。
同じ川の音。
時間だけが、静かに繰り返されている。
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ある日、休憩中に神社の人が昔話をしてくれた。
「昔な、山に恋した娘がおってな」
観光客向けの、よくある話だと思った。
「毎年春になると、山へ通い続けたらしい」
何気ない口調だった。
でも、なぜか続きを聞いてしまった。
「山の守護になった青年を、待っとったんやろな」
そこで話は終わった。
それ以上は語られなかった。
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その日の帰り道。
深山さんは珍しく黙っていた。
「夢を見るんです」
小さな声だった。
「山の夢」
前にも聞いた言葉だった。
でも、続きがあった。
「誰かを待ってる夢です」
足が止まった。
「ずっと待ってるんです」
それだけ言って、深山さんは笑った。
困ったような笑い方だった。
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その夜、初めて思った。
もしかしたら。
深山さんは、
この春を繰り返していないのかもしれない。
もっと前から、
ずっと同じ場所に立っているのかもしれない。




