5/11
何度目かの桜の春
最初は、夢だと思った。
清水寺のことは現実感がなかった。
落ちた音も、叫びも、全部が遠かった。
でも数日過ごして分かった。
この春は、前にも一度過ごしている。
同じ新歓。
同じ会話。
同じ帰り道。
深山さんだけが、何も覚えていない。
⸻
今度は守ろうと思った。
清水寺には行かなかった。
別の場所へ誘った。
春は静かに進んだ。
何も起きなかった。
大丈夫だと思った。
⸻
大雨の日だった。
帰り道、川が増水していた。
普段より水の音が大きかった。
嫌な予感がした。
深山さんは立ち止まって、川を見ていた。
「きれいですね」
前にも聞いた声だった。
次の瞬間、
足元の地面が崩れた。
手を伸ばした。
また届かなかった。
⸻
次の春もやってきた。
今度は祇園だった。
京都を離れようと思った。
最後の思い出を作ろうと思った。
夜の街。人の声。
少し酔った男が絡んできた。
深山さんが前に出た。
刃物が光った。
また間に合わなかった。
⸻
春が、また始まった。
円山公園の夜桜。
深山さんの横顔。
首元の痣が、少し広がっていた。
紅葉みたいだと思った。
春なのに。




