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プロローグ
山の上は、もう春が終わっているのかもしれない。
桜は咲かないし、
夜桜を見に来る人もいない。
代わりに、風と木の音だけがある。
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ときどき想像する。
深山さんが、あの山で暮らしている姿を。
朝、霧の中を歩いて。
川の音を聞きながら笑って。
あの人は山が好きだと言っていたから、
きっと困ってはいないと思う。
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隣には、あの声の人がいる。
静かな声で名前を呼ぶ人。
僕は一度しか聞いたことがない声。
それでも、
深山さんが笑った理由は分かる気がする。
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山の春は短いらしい。
でも、終わることはないのかもしれない。
桜が散らない春も、
きっとあるのだと思う。




