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桜の上にいる人
それから、春は普通に終わった。
巻き戻ることもなかった。
同じ春は、もう来なかった。
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貴船のバイトも終わった。
サークルにも行かなくなった。
深山さんの話をする人はいなかった。
最初からいなかったみたいに、
静かに時間が進んでいった。
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数年後の春。
円山公園に来たのは、
理由があったわけじゃない。
ただ、桜を見たくなった。
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夜の桜は、あの頃と同じだった。
提灯の光。
屋台の煙。
笑い声。
何も変わっていない。
変わったのは、僕だけだった。
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桜を見上げた。
風が吹いた。
花びらが舞った。
その時、木の上に影が見えた気がした。
二つの影。
寄り添うように座っている影。
一瞬だった。
次の瞬間には、もう何もなかった。
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風だけが吹いていた。
花びらが落ちていた。
春は、静かに終わった。




