表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/25

酒場の乱闘


町外れの酒場は、いつもと同じように賑わっていた。

暖かな橙色のランプが吊られ、樽の酒と木材の匂いが混ざる。

人々の喧噪の中、グレンはいつもと変わらぬ姿勢でカウンターに肘をつき、

安酒をゆっくりと楽しんでいた。


その後ろで、酔っ払いの声が響いた。


「──なぁ、オッサン。どこ見てんだよ」


振り返れば、私服の男が5人。

どれもこの酒場には似つかわしくない妙に整った軍靴、そして慣れた帯剣。


「おーいオッサン、人生も顔もくたびれてんぞ。酒ばっか飲んでるからそんな腐った目になるんだよ」


冒険者ではない。

そして──この街の兵でもない。


グレンは一瞥しただけで無視した。

安酒をまた一口。


だが、隣でそれを聞いていたカイルは眉をひそめた。


「……グレンさんを侮辱するのは、さすがに聞き過ごせません」


立ち上がろうとするカイルをグレンが制する。

「やめておけ」

いつもの気怠げな調子とは違う、真剣な顔。


それからグレンの視線は男達の腰の剣に向いていた──白い翼の装飾──

どこの騎士団かを判別したように、ほんのわずか眼が細くなる。


その気配にカイルは息を飲み、黙って座り直した。



「見ろよ。一丁前に剣持ってやがる!どうせ使えねえくせによ」


「ぎゃははは!間違いねえ!そこらへんのガキの方がマシだろうな!」


男達はグレンの反応が無いことが面白くないらしく、聞こえるように罵倒を続ける。



椅子をがたんと倒し、血の気の引いた顔でそれでも前に進み、震える声を張り上げる者がいた。


「て、撤回しろ!

 その人は、オレの尊敬する……!誰よりも強くて......優しい人だ!」


少し離れた席に座っていたリデルが男達の前に歩み出ていた。

グレンの眉が、僅かに動く。


「なぁ……リデル、お前、そんなタイプじゃなかっただろ……」


片手で顔を覆い、困ったように嘆くグレン。


「よく言ったリデル! ああ、撤回してもらおうじゃないか!」


隣で大人しく座っていたはずのカイルが、いつの間にかリデルの横に立っている。

やはり我慢ならなかった様子で、気迫は満ち、完全に戦う気だ。


「……なんでお前ぇらは、人の話を聞かねえんだ……」


両手で頭を抱え込むグレン。

だが先刻までの鋭い表情とは違い、その表情には苦味ではなく、普段のグレンの柔らかい色が宿っていた。





男たちはリデルとカイルを見て、嘲笑した。


「その冴えないオッサンが強いって? 本気で言ってんのかよ!」


「こんな田舎に強いのがいるかよ! しかもオッサンが!」


「まぁいい。生意気な田舎者に、ちょっと騎士様が教育してやるよ!」


一人がリデルに拳を振り下ろした、その瞬間──。


乾いた音がした。

殴りかかった男の腕は、途中で吸い込まれるように止まり、

ねじ伏せられていた。


やったのは、グレンだ。

ねじ伏せた男の肩に力を入れる。

ごきんと鈍い音を立て男が苦痛で気絶する。


「なっ──!」


別の男が怒号をあげ殴りかかる。

しかしグレンは半身で拳を受け流し、その勢いで崩れた男の腕を取り、

迷いなく膝を鳩尾へ突き上げる。


「がっ……あ……!」


数秒間のうちに2人が床へ沈み、たじろいた男達は剣を抜いた。


周囲の客たちが一斉に後退した。

酒場の床板を橙色のランプが照らし、剣が鈍く光る。


──残りは3人。

グレンは鋭い眼差しで男達の立ち位置、重心、

剣の構えを一瞬のうちに観察する。


面倒そうにため息をつき、後ろのカイルとリデルに告げた。


「はぁ……お前ら絶対に手を出すな。面倒になるから」


床板をつま先で強引に蹴り上げる。

乾いた破裂音とともに木片が宙を舞い、その破片は矢のように飛び、

男の腕を弾き、足を打ち、構えを崩す。


「なん──!」


崩れたところに迷いなく踏み込み、1人を床へ沈める。


「てめえ──!」

背後から男が切り掛かってくる。

先ほど蹴り上げた割れた床板で剣を受け剣筋をそらし、男に足払いをかける。

倒れ込んできた男の腹に拳を突き上げ意識を刈り取る。


そして最後の1人。

亜然と立ち尽くしている男の剣を、

グレンは放った木片で弾き飛ばす。


男が怯んだ隙に距離を詰め勢いのまま

相手の襟元を掴んでテーブルに叩きつけ──叩きつけずに寸止めし、


「はぁ。こういうの嫌いなんだよ。

 仲間を起こして帰ってくれるか?」


と男に告げた。


男は必死で首を縦に振り了承する。



静寂。

酒場のざわめきが戻るのには、一呼吸の間が必要だった。


グレンはよろよろと起き上がる男たちを見て、淡々と呟いた。


「......剣抜くまでもねぇよ」


痛みに顔をゆがめた男たちは、仲間を抱えて逃げるように店を飛び出していった。


その後ろ姿を見送ると、グレンは肩をすくめてカウンターに戻る。


「ほら、飲み直そうぜ」


酒場の女がくすくす笑いながら酒を注ぐ。


「グレンさん、お疲れさま。かっこよかったわよ」


「渋いオッサンの魅力、わかっちゃった? ところで今夜あたり──」


女は笑顔のまま、ひと言。


「床板の修理代、請求するからね?」


「ちょっ、あれはあいつらが──……しまった!もう帰ったか!?」


慌てて辺りを見るも、騎士たちはとっくに姿を消していた。

場はどっと笑いに包まれ、酒場は再びいつもの夜に戻っていった。



カイルは、沈んだ床板を見つめながら呟いた。


「グレンさん......あの男達を見ただけで、どうして騎士だとわかったんだろう」


カイルも男達が帯剣している事や、

容姿と重心の置き方から騎士だとは推測できた。

しかし、グレンはどこの領地の騎士団かまでわかっている様子だった。


そして制止した時の、あのただならぬ気配。


カイルの疑問は、静かに胸に残ったままだった。




カイルとリデルも実力はあるので、この騎士達相手に2対5でも勝利できる強さです。多少の怪我はします。


_______

評価ポイント、リアクションいただけたら励みになります


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ