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休暇の三重奏


珍しく冒険者ギルドに、

「街の護衛隊が頑張ってるから、今日は冒険者はほぼ休み!」

という太っ腹な通達が出た。


グレンはというと、

街外れの書店兼喫茶《深緑の古書店》でコーヒーを飲んでいた。


だらしなく椅子にもたれ、

グレイッシュの髪をかき上げながら欠伸を噛み殺す。


「休みの日くらい、静かにさせてほしいんだけどな……」


そう呟いた瞬間、勢いよく扉が開く。


「グレーーンさーんっ!」


碧い瞳の爽やか青年が走り込んできた。

期待のエース、カイル。


「今日は休暇ですし、せっかくなので街を案内しようかと……!」


「いや、俺に案内はいらねぇよ。十年以上住んでんだから」


そこへ本棚の影から

遠慮がちに、でも明らかに後をつけてきた少年が顔を出す。

グレンのことを密かに尊敬し、お近づきになりたいと奮闘している内気少年、リデルだ。


「……グレンさん。オレも……別に、その……暇で……」


「お前ら、本当に俺の休暇潰す気か……?」


本の整理をしていた店主はため息をついた。


「……やっぱり君、妙に好かれるよね。自覚ある?」


「ねぇよ」


三者三様の思惑のまま、休暇が始まった。




三人で街を歩き始めたが──


カイルは街の人々に挨拶されまくり、

リデルはその人気ぶりをジト目で眺め、

グレンは二人の後ろで煙草に火をつける。


「カイルくん、今日も頼りにしてるよ!」

「はは、いえ、今日は休暇ですから」


リデルは無意識に口を尖らせる。


(……なんでアイツ、あんなに愛想よく返せるんだよ……)


リデルは冒険者としての腕はそれなりに立つが、内向的な性格ゆえに会話が苦手で友人も少ない。


カイルは冒険者ギルド期待のエースであり、リデルは強さでも市民からの人望でも敵わない。

さらにカイルは憧れのグレンともぐいぐい距離を縮めており、自分に出来ないことを事もなげにやってのける彼を、リデルは「リア充爆発しろ」とでも言いたげな目で眺めていた。


隣の陰気な空気など露知らず、カイルは明るく振り返る。


「グレンさん!ここのパン店、新作出たらしいですよ」

「……お前、食い物の話ばっかだな」


ふと、パン屋の前で事件が起きた。


大きな犬が暴走し、

カイルめがけて飛びついた。


「うおっ?!」


カイルは反射的に受け止め、犬は嬉しそうにじゃれつく。美人な飼い主が駆け寄ってくる。爽やかな一場面だ。


リデルはその姿を見て

(……イラァ……)

と嫉妬の針が一本増えた。


その横でグレンは、肩を(すく)める。


「……お前、犬にもモテるんだな」


それを聞いたカイルは照れながら応える。


「い、いや……そういうわけでは……!」


その様子をリデルは死んだ魚の目で見ている。


グレンは二人の温度差を見て

「……めんどくせぇな、この構図……」

と深いため息をついた。





三人が広場を抜けようとしたとき。


露店で魔道具のデモをやっていた老人が、

誤って魔力石を落とした。


ボンッ!


煙があがり、

周囲の子どもたちが泣き始める。


カイルがすぐさま駆け寄る。


「大丈夫ですか?怪我は──」


リデルも負けじと動く。


「オレも手伝います!」


煙の中心にいた老人は無事。

問題だったのは魔力石の暴走による魔力煙だけ。


グレンがいつの間にか老人の手から魔力石を抜き取っていた。


「はいはい、こういうのは魔力抜けば止まるんだよ」


石を軽く指で弾くと、

煙が霧散して収まっていく。


カイルは感嘆する。


「……すごい。いつの間に……」

「見えてりゃ誰でもできるだろ」


煙が晴れ、視界を取り戻した人々から喝采が贈られる。

リデルは人々の中心で輝く2人から数歩離れたところでその様子を見ていた。


(グレンさんすごい……また......何も出来なかった......)


その後、3人は老人や居合わせた市民たちからお礼を言われ、広場を後にした。


リデルは自分の拳を軽く握り1人沈んだ顔をしている。


(おれは......お礼を言われる資格はあったのかな......)





夕方になり、また《深緑の古書店》へ戻ってきた三人。


店主のリュカがコーヒーを出しながら言った。


「……で、どうだった?休暇」


カイルは晴れやかな笑顔。


「すごく充実してました!」

(訳:グレンと歩けたから)


リデルはそっぽを向く。


「……べ、別に普通……でした」

(訳:内心は楽しかったけど'悔しい"でいっぱい)


グレンは椅子に沈み込んでぼやく。


「……俺の休暇はどこいったんだよ……」


だがその声には、

不思議とほんの少しだけ、温度があった。


カイルとリデルが

なんとなくグレンの隣に座る。


店主は呆れた笑顔で言う。


「……結局、君ら三人でいると楽しそうだね」


グレンは顔をそむけて、

しかし否定しなかった。



カイルが先に帰宅し、

リデルはグレンと2人で──実際は店主もいるが──話す機会に恵まれ、どう話しかけたものかソワソワしているとグレンが先に口を開いた。


「お前は、不器用だけどよくやってると思うぞ」


予想していなかった言葉をもらい、返す言葉が浮かばない。


グレンはコーヒーを飲みながら、どうでも良さそうな軽い調子で続ける。


「周りもよく観察してるし、役に立とうと動いてる。

 だから、あんまり焦んなよ。まだ若ぇんだから」


思わぬ優しい言葉をもらい言葉に詰まる。



「......っあり!ありがとうございます!オレは......ぐ、ぐ......っ!」



グレンさんみたいになりたくて、と


続けたかったが言葉にならず、代金を置いて店から飛び出した。


グレンは、えぇ......と引き気味で、勢いよく閉まった木製ドアを振り返っている。


「──なんか、すっごい目がキラキラしてたね。言葉にはなってなかったけど、"憧れてます!"ってうるさいくらい伝わってきた。

 こんなオジサンのどこがいいのさ」


「......ほんとにな」


店主がティーカップをかき混ぜながら朝と同じ軽口をこぼす。



「やっぱり君、妙に好かれるよね。自覚ある?」


「ねぇよ」



グレンは悪くない休日だったな、と内心思いながらコーヒーカップを傾けた。


こうして、怒涛の休暇は静かに終わった。







_________

リデルはグレンには強い憧れ、カイルには複雑な気持ち(羨ましいけどちょっと嫌い)を持ってます。

カイルの方が年上なので、実力差は仕方ないのですが。


_______

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