表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/25

リリアン誘拐事件(?)


夕暮れの書店兼喫茶「深緑の古書店」。

カウンター奥では、本に囲まれて静かな空気が流れている。


そこに座っているのは――

きらめく金髪に深緑の瞳、細い指先。

その外見に似合わず、リュカは街で最も古い住人のひとりだった。


七十年ものあいだ“少年の姿のまま”店を営んでいて、住民は不思議がりつつも詮索しない。

彼自身も、自分の正体ハイエルフを悟られぬよう、耳をそっと幻で覆っていた。


リュカは本を読みながら紅茶を口に運び、静かな息をついた。


そのカウンターの向こうでは、壮年の男グレンが椅子にだらしなく寄りかかり、安酒をあおっている。


外見こそかけ離れているが、"自分について多くを語らない"彼らの間には、居心地のよい空気が流れていた。




……と、その時。


扉が勢いよく開いた。


「店主くーん!! ボク大変なの!!助けてぇ!」


艶やかな濃茶の長い髪、美しい紫の瞳、小柄で華奢な体躯、外見は儚い美少女──性別は男。


"男の娘"のリリアンが両手をばたつかせて飛び込んできた。

顔は怯えたふり、声は甘えた感じ、でも歩き方は落ち着いている。


店主のリュカは本を閉じ、深くため息をついた。


「……はい、まず落ち着こうか。で、何があった」


リリアンは長いまつ毛を伏せ、美しい桃色がかった紫の瞳を潤ませて答える。


「街外れでね! 変な連中に囲まれて、魔物もいて……怖くて……♡

ボク、店主くんに助けてもらいたかったの……♡」


「いやだよ」


即答。


リリアンが固まった。


「え? なんで!? ボクさらわれかけてるんだよ!?

ここは“おしゃかわ姫を助けに行く王子様”の流れでしょ!?!?」


「君は自力で倒せる。そもそも別にさらわれてもいないだろう」


リュカは紅茶をひとくち。

「……グレン連れて行け。はい、以上」


「ちょっ!! やだぁ!! オジサンはやだ!!

 店主くんがいいの!!」


「俺に失礼だろそれ」

グレンは椅子を蹴って立ち上がり、めんどくさそうに頭をかいた。


「何だよまた。お前強いじゃねぇか。俺いらねぇだろ……」


「ボクは“店主くんに”助けてもらいたかったの!

抱き上げられて“もう大丈夫だよ”って! なのに!」


「はいはい。俺で我慢しろ」


リュカが本から目線を上げないまま、いってらっしゃいの形で軽く手を振る。


「店主くんひどぉい!!」


「……行くぞリリ。んで、すぐ終わらせんぞ」

グレンは面倒くささしかない表情で出入り口へ向かった。


「オジサンの面倒くさそうな顔〜〜〜……

リュカくんが来てくれたら良かったのにぃ!」


「黙れ」

リュカが本のページをめくりながら会話を終了させた。





街外れの林道。

盗賊団十数人と魔物使いが焚き火を囲み、リリアンを取り囲んでいた。


リリアンは腕を組み、困ったふうにため息をついている。


「ねぇ、寄ってこないでよ。服が汚れるじゃん」


「おっほ、まだ余裕ぶっこいてんのか嬢ちゃん!!

やっぱさらっちまうかぁ!?」


「……ボクは男だよ」


盗賊が硬直する中、林の影からゆるい声。


「……はぁ。ほんとに囲まれてるじゃねぇか」


グレンが姿を現す。

相変わらずの気の抜けた歩き方。


リリアンがぱぁっと笑う。


「オジサン来たぁ。……っていうか遅いよ!」


「お前みたいな怪物、誰がさらうんだよ……。

てか、お前一人で殲滅できんだろうが」


「“できる”けど……オジサンの見せ場を作ってあげようと思って♡」


「いらねぇよそんな配慮」


盗賊たちが一斉に襲いかかる。


……と同時に、

リリアンは一歩下がり、口元に手を当ててにこにこ観戦モード。


「ほら、オジサン、がんば♡」


「絶対わざとだろテメェ…………」





盗賊数人が瞬時に倒れた。

グレンはだらしない姿のまま、打撃も蹴りもすべて最小動作。

酔っているように見えるが一切ブレない。


「な、なんだコイツ……!?」


魔物使いが焦り、杖を高く掲げる。


「来いッ――《咆え狂う三つ首のケルノス》!!」


裂け目のような魔法陣が地面に走り、黒く巨大な三つ首獣が姿を現した。

凶暴な咆哮が夜の林に響く。


盗賊団は恐怖で後退。

リリアンでさえ眉をひそめた。


「うわぁ……これ結構ヤバいやつじゃん。ボク行く?」


「……ちょっと待て」

グレンは剣をゆっくり抜いた。

顔の笑みだけが消えている。


その瞬間、空気が変わる。


酔いも惰性も消え、研ぎ澄まされた気迫だけが立ち上がった。


「このでかいの……街道に出たら面倒だ」

低く呟く。

「急所は……そこだな」


三つ首獣が咆哮し、突進してくる。


刹那。


グレンの姿が揺れ、

次の瞬間には獣の懐に潜り込んでいた。


一閃。


たった一撃。

しかしその軌跡は、獣の三つ首の連結部、魔力核の位置を正確に断ち切った。


巨体がドウッと崩れ落ちる。

森が静まった。


グレンは剣を収めながら、


「はー……肩痛ぇ。こんなでかいの相手すんのやだなぁ……」

と、またいつもの気の抜けた顔に戻った。


「オジサンすご〜〜〜い! やっぱ強いねぇ!

ボクもひとりで行けたけど、この見せ場はオジサンの方が絵になるよねぇ♡」


「……お前絶対楽しんでるだろ」


「もちろん♡」


グレンはまったく照れず、ただ心底疲れた顔で剣を収める。


「はぁ……今日も酒がうまくなるわ」






そこへ、木々をかき分けながら冒険者の青年カイルが到着。


「グレンさん!! 無事ですか!?

 ……って、もう全部終わってる……」


「おー、お疲れ。こいつが勝手に騒ぐからさ」


「リリアンさん……」

カイルは眉をひそめる。

「グレンさんに無茶をさせるの、やめてください」


「過保護〜〜。オジサン強いんだからちょっとくらい平気でしょ?」

リリアンは笑う。


「平気じゃねぇよ」

グレンは肩を回し、「はー疲れた」と大きく伸びた。


「俺は明日、絶対寝坊する」


「それはいつもでしょう」

カイルが苦笑する。


カイルはほっと息をつき、グレンの腕や肩を軽く確認する。

「本当に怪我はありませんか?」


「まぁな」


リリアンが腕を組み、わざとらしく頬を膨らませる。


「リュカくんは来てくれないし、カイルは怒るし……

オジサンだけが頼りよねぇ、ほんと♡」


「お前は俺を頼らなくても1人で対処できるだろ......」


「えへへ♡」


三人のやり取りが夜の林に消えていった。


グレンはぼやきながら街へ戻る。



「……だから俺いらないだろって言ったのに……」




リリアンは冒険者ギルドに所属していませんが、強いです。

グレンは愛称の"リリ"呼びをしてます。(非難する時や真面目な時は愛称呼びしません)

_____

評価ポイント、リアクションいただけたら励みになります(ง ˙ω˙)ว

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ