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ララの依頼 2


薄暗い森の中を進むにつれ、湿った土と葉の匂いが濃くなっていく。

アイアンディアーとの戦闘以降も、森の中で魔物との遭遇は続いた。


前に出るのは決まってカイルとリデルだ。


グレンはいつでも踏み込める位置を保ちながら、剣に手をかけることはなかった。

必要とあらば即座に割って入る──その構えだけを崩さず、二人の動きを見守っている。



二人は戦闘を重ね、連携して魔物を倒すようになっていた。


「リデル!こっちに誘導してくれ!」


「わかった……!」


リデルは短弓を引き絞り、狙いを定める。

放たれた矢は、猪型魔獣フレイムボアの耳元を正確に射抜いた。


怒号のような咆哮。

フレイムボアは標的をリデルに定め、地面を抉りながら突進してくる。


リデルは逃げない。

迫る巨体の直前で、伸びた枝を掴み、木の幹を蹴って一気に跳ね上がった。


突進の勢いのまま、目の前から獲物を失ったフレイムボア。


「完璧だっ!」


待ち構えていたカイルが踏み込む。

剣に体重を乗せた渾身の一撃が、魔獣の胴を真一文字に断ち切った。


真っ二つに分かれた巨体はそのまま崩れ落ち、

鈍い音と共に、土煙が舞う。



「あのフレイムボアを……一刀で……」


木の上からカイルの戦いを見下ろしていたリデルは、思わず息を呑んだ。


(……やっぱりまだ敵わない)


込み上げる悔しさを胸に押し込み、表情を整えて地面に降り立つ。



一方、カイルもまた、内心の動揺を隠せずにいた。


(あの身のこなし……判断の速さ……)


リデルの先ほどまでの戦闘が、偶然ではないことは分かる。


(……驚くほどの速さで、成長している)


拳を握り締め、やはり自分も負けてはいられないと、静かに闘志を燃やした。



「おお、成長してんなあ。若者は」


後方の位置から眺めていたグレンが、軽い調子で言う。



「いや……ていうか……強くない?」

ローディは引き気味に、倒れたフレイムボアへ視線を向けた。


フレイムボアは、本来複数人で役割分担し、綿密な戦術を組んで挑む魔物だ。

草木を焦がすほど熱を帯びた皮膚、突進の威力と速度。

誘導するだけでも難しく、一刀で両断できる相手ではない。


「君はさ、格別に強いのは知ってるけど。

 あの二人も相当強くないか? そこらのベテラン騎士より強いだろ」


戦闘に疎いローディだが、

その評価は、決して間違いではなかった。


グレンらが拠点とする都市ルイントンは、王都から離れた地方都市だ。

王都の者はしばしば、「精鋭は王都に集まり、田舎にはなまくらしかいない」などと嘲笑する。


しかし、実のところ遺跡やダンジョンが多くある土地柄からルイントンの冒険者の質は、相当高いのだ。

中でも、カイルはギルドのエース。リデルは頭角を現わす若手実力派。


その二人の戦闘能力は、他所の冒険者と比較しても格段に高い。


王都の冒険者しか見た事のないローディにとっては、先程からの戦闘は信じ難い光景だった。



「なんか……グレンを慕うだけのことはあるって感じだよ……」

乾いた笑いを浮かべて二人の背を追うローディ。


その背後で、グレンはローディを庇う位置を崩さず歩き続ける。


「……別に、慕われてはねぇさ。」


その足取りは、本人が自覚しないまま、どこか軽かった。





大木が空を覆う森の奥。

地表に露出した根が絡み合う獣道を、四人は慎重に進んでいた。


目的のダブルホーンブルの生息地は、もうすぐそこだ。

昨夜のうちに目的地付近まで辿り着き、夜露の下で野営をした。

今は夜明けとともに歩き出したばかりで、森の空気にはまだ冷たさが残っている。


「すごいですね、ローディさんのマジックバッグ」


歩きながら、カイルが感心したように声をかける。


昨夜の野営道具も食料も、すべてローディのマジックバッグから出てきた。

そのおかげで、三人の装備は日帰り任務と変わらないほど身軽だ。


「こんなの、初めて見ました……!」


リデルも興奮を隠しきれない様子で頷く。

食材の鮮度すら保たれる魔法の鞄は、冒険者でもなかなかお目にかかれない。


「触ってみるかい?」

ローディは腰からバッグを外し、気軽に差し出した。


「え……軽い……!」

「本当だ。普通の皮鞄より軽いですね」


二人は受け取り、中を覗き込む。

どれだけ見ても、空の鞄にしか見えない。

初めて触る高機能のマジックバッグに興味津々だ。


「でしょ?これ一つで館が買えるからね」


さらりと言うローディに、二人は固まった。


「……館」

「……館、ですか」


そっと、壊れ物を扱うように鞄を返す。


「気にすんな。思いきり触っとけ」

グレンが、気だるげに口を挟んだ。


「こいつにとっちゃ、大した金額じゃねぇ」


「いや、僕にとっても館は大金だからね!?触るのは全然構わないけど!」


ローディは笑いながら肩をすくめる。


やがて、道の先で森が途切れた。

木立の向こうには、朝日を受けた草原が広がっている。


「……そろそろ生息地だな。リデル、頼めるか」

グレンが足を止める。


「はい……!感知魔法で索敵します」


リデルは膝をつき、地面に片手を当てた。

魔力の扱い方を学ぶようになってから、感知魔法の精度は格段に上がっている。


目を閉じると、自身を高所から俯瞰するような感覚が広がり、魔力が地面を伝って網のように伸びていく。


──来た。


草原の先、複数の反応。

さらに一つ、わずかに離れた位置に、重い魔力の塊。


「いました。ここから十時方向。魔物の群れです」

一瞬、間を置いて続ける。

「……一頭、群れから離れています」


「上出来だ、リデル」

グレンが短く頷く。


「そいつを狙う。後は任せて、休んでろ」


「……はい」


魔力を使ったリデルは、わずかに顔色を落としている。


「カイル。二人を守るため、一緒に待機しててくれ」


「はい。グレンさんに何かあれば、すぐ向かいます」


「さて、道中は楽させてもらったからな」

グレンは肩を回し、剣の柄に手を置いた。


「牛くらい、俺一人で狩ってくる」


その声は軽い。


だが、纏う空気は確かに張り詰めていた。





【読まなくてよい設定】

ローディがカイルとリデルの戦闘に驚いてるのは、二人の強さが一番の理由ですが、王都出身というのも理由の一つです。


王都では戦闘能力が有望な者は騎士団を目指します。

騎士団の方が給金が良く、社会的地位も高いからです。


王都の騎士達の中には、冒険者のことを「騎士団に入れない落ちこぼれ」「騎士より強い冒険者はいない」と見下す者が一定数いるほどです。


二人の強さは王都の常識では予想できませんでした。


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