表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/25

◆ある少年の話

プロローグだけ淡々とした書き方で書いてます。

本編は、なるべく読後感が優しい気持ちになる話を目指してます。

よろしくお願いします。




王国騎士団は三つの翼を持つ大組織である。

白翼は「国民の盾」。

金翼は「王家の栄光」。

黒翼は「闇に潜む刃」。


三つの翼がそれぞれ役割を果たすことで、王都は静かな安定を保っていた。

表の街路には灯りが絶えず、商人の声が明るく響き、人々は何の疑いもなく平穏を享受する。


──だが、その繁栄の影には、庇護の届かない土地もあった。

貧困と病が蔓延し、治療院にも辿りつけず、路地裏で倒れたまま数日で姿を消す者も珍しくない。

そこは王都の最下層、スラム街。


ここに、一人の少年がいた。




少年はスラムで産まれた。

親の記憶はない。気づいた時には一人で、腹を満たすためにごみを漁っていた。


幼い頃は拾い食い。

少し大きくなると、盗みやスリを覚えた。

“やらなければ死ぬ”というだけの理由だった。


少年にとって、人間は獣と同じだった。

近付いてくるのは奪う者か、痛めつける者だけ。

怪我をしても治療院など行けない。

殴られれば、そこから先は自分で治すしかない。

骨が折れれば、死ぬか治るかの二択だった。


ある時、少年は親切にしたせいで殺された男を見た。

「善意を見せると死ぬ」

「弱みを晒すと潰される」


そんな場面をいくつも見た。

人が死ぬ音と匂いの中で、少年は早い段階で理解した。


 ──人間性は持ってはいけない。


それは悲しみではなく、生存のための“結論”だった。




十二歳のある日。

少年は、いつも通りパンを盗みに入った市場でスリを見咎められた。


逃げたが、運が悪かった。

近くに白翼騎士がいた。


追手は三人。

逃げ場はなかった。


少年は反射のまま戦った。

殴られれば、死角に滑り込み殴り返す。

掴まれれば、噛みつき、膝を折り、腕を砕いた。


結果として三人とも倒した。

だが、駆けつけた別の騎士によって、少年は拘束された。


正面から戦って勝てる相手ではなかった。




「……名は?」


訊ねられても答えなかった。

名前がないからだ。


「身寄りは?」


それにも答えなかった。

必要性を感じなかった。


騎士たちは少年をどう扱うか迷っていた。

スラムの孤児が騎士を三人倒した。

処罰か、保護か、その境界線に立っていた。


その時、ある騎士がぼそりと呟いた。


「……この戦闘能力、黒翼向きだな」


次いで、別の騎士が言った。


「見習いにしてはどうだ? どうせ孤児だ、身寄りもない。扱いやすい」


扱いやすい。

その言葉には温度がなかったが、少年にとってはどうでもよかった。


その日、初めて“人に必要とされる”感覚を知ったのだ。


奪って奪われるだけの日々から、抜け出せるかもしれない。

そんな考えが少年に浮かんだのは、生まれて初めてだった。


少年は少し迷った末、うなずいた。

それは“死なないための選択”であると同時に、

自分の存在を正当化できる場所を求めた、初めての決断だった。




騎士団での生活は、少年にとって未知の連続だった。


 規律を守れば殴られない。

 命令を遂行すれば食べられる。

 寝床があり、寒さに震えずに済む。


“尊厳”という言葉の意味はわからなかったが、

自分が人として扱われているらしい、というのだけは理解した。


仲間――

感謝――

絆――


そういった言葉は、少年には遠すぎた。

だが、規律を守ればいい。

命令に従えばいい。

それだけで衣食住が手に入り、居場所が壊されない。


それは少年にとって、何よりも確かな拠り所だった。




少年はあっという間に頭角を現した。

路地裏で培った反射と体術は、本物の戦闘訓練に触れることでさらに研ぎ澄まされた。


十四歳で白翼騎士団へ。


白翼騎士団は三団の中で最大、一般兵・下級騎士の大半が所属している。王都の治安維持、討伐任務など実働部隊の中心を担う「国民の盾」だ。

少年はいつも一番危険な役割を任された。


十六歳で黒翼騎士団へ抜擢。


黒翼騎士団は、「闇に潜む刃」──機密任務専門の少数精鋭だ。


黒翼の任務は、諜報・潜入・暗殺。

人が目を背ける仕事ばかりだったが、少年は一度も躊躇しなかった。

感情を殺し、必要な動作だけを残した。


殺す必要があれば殺す。

拐う必要があれば拐う。

躊躇という概念がなかった。


次第に、敵国でも国内の裏社会でも、

黒翼騎士団の若い騎士の噂が広まった。


 “闇に潜む刃の象徴”

 “沈黙の灰刃”


そして二十歳。

歴代最年少で黒翼騎士団副団長に任命された。




路地裏の弱肉強食をくぐり抜け、

人として扱われ、

地位まで手に入れた少年は、今や誰もが恐れる存在になった。


だが、彼の瞳の奥に宿る暗い影だけは、

あの頃と変わらなかった。


奪われるか奪うかだけで世界を捉えていた少年は、

秩序の中で生きる術を得てもなお、心のどこかでずっと思っていた。


──自分は、ここでようやく“死なずに済むだけ”なのだ、と。


それでも彼は、居場所を守るために働き続けた。

命令に従い、規律に縛られ、沈黙のまま刃を振るう。


その生き方こそが、

少年が初めて手にした“人間としての形”だった。





______


【読まなくてよい設定】


●金翼騎士団だけは貴族と同等の扱いを受けます。この国では騎士爵位や騎士領土は無いです。

●白翼騎士団は1番大所帯なので平民出身から貴族出身など幅広く所属しており、強さも品格も個人差がかなりあります。

●黒翼騎士団は、強さと能力のみで集められてます。金翼からは見下されがちで、白翼からは見下し+畏怖の目で見られてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ