第0話 ある男の独白
ライフ イズ ア シリーズ オブ チューズ
人生は選択の連続である。
男は無人の交差点に朽ちた枝を立て、その倒れた方角へと歩き出しながら呟いた。
この言葉は、『デンマークの王子ハムレットの悲劇』に登場する名言として広く知られている。もっとも、これは実際はデマらしいが、それでも多くの人々がこの言葉に意味を見出し、共鳴するのだ。
しかし――いったいどれほどの人間が、その重みを真正面から受け止めることができるだろうか。
割れたガラスの破片が散乱するキャンパス――その荒れ果てた光景を前に、男は歩みを止め、再び語り出す。
ケンブリッジ大学の研究によれば、人は一日に最大3万5,000回もの決断を下すという。驚異的な数だが、その多くは無意識のうちに行われているらしい。
そんな無数の選択の渦の中で、果たして我々は常に「最良の選択」をできているのだろうか。おそらく、その問いに胸を張って「はい」と答えられる者は、ほんの一握りだ。
選択の失敗は時に、取り返しのつかない後悔となり――ときに、命すら奪いかねない。
「人生の選択」とは、すなわち――自分の人生を、いかに導くかということだ。
だが、人間とは皮肉なもので、自分自身の歩む道すら、正確に把握することは困難だ。ましてやそれを、自在に操るなど夢物語に近い。
だからこそ、我々は「運命」や「宿命」、あるいは「天啓」といった、どこか非人間的な言葉に救いを求めてしまうのだろう。
――……ん? 俺自身は、どうだったかって?
突如として、男の背後の空間に微細なヒビが走った。
最良の選択が、できていたか?
ヒビは音もなく広がり、やがて空間ごと崩壊し始める。
砕け散った空の向こうから、黒い闇がじわじわと這い寄ってきた。
ああ――その問いの答えは、決まっている。
断じてNOだ。振り返れば後悔ばかりで、思い出せば発狂しそうな黒歴史ばかりだ。
俺は、自分の人生ですら満足に選び取れなかった。結局のところ、運命に翻弄される一介の人間でしかなかったのさ。
それでも、男は冷静だった。
闇を真正面から見つめながら呟き、そしてこちらに振り返って、両手を広げる。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。」
これから語られるのは、一つの『運命』に抗い、そして敗北した、ある男のどうしようもないバッドエンドの物語だ。
もしも君が、この結末に少しでも興味があるのなら――耳を傾けてほしい。そして、できることなら最後まで見届けてほしい。
そうすれば、きっと君もこう思うはずだ。
――――ああ、なんて世界は。
――――くだらないんだって。