30 掴み取った幸せ
馬車が曲がり終わると、湖と可愛い家々が見えた。その瞬間、乗客は歓声をあげた。
辛口の評論家は、様々なスタイルの家が好き勝手に、建っているここを、ゴタ混ぜ文化の村と呼ぶ。だがこの猥雑さを愛する者が多いのも確かだ。
この猥雑さの始まりは北の領地の建物だ。最初、その建物が完成したとき、アーデリアは内心、しまったと思った。
光が穏やかな湖のそばに立つ重厚な建物は違和感だらけだったのだ。
だが、観光気分でやって来た客との商談はうまく行くようだった。その評判でいろいろな領地が、独自の建物を建てたのだ。
数が増えると違和感は奇妙な調和となり、ますますの人気を博していった。
そして、十年が過ぎた。二人の間には男の子が二人、女の子が一人生まれた。
アーデリアは子供を愛せるだろうかと、妊娠がわかった時、二人は子供を愛せるだろうかと悩んだが、先に親になっていた勇者たちが言った。ダメだったら乳母に任せればいいんだよ。
「愛とかなんだか言う暇がないけどな。追っかけるのに忙しくて」「あぁ子供の動きは速いぞ。考えてたら追いつけない。気配を読んで行動だ」「おとなしいと油断できないぞ」「尻にノリつけて椅子にくっつけたい」などと言われて気が楽になった。
そして、生まれたら可愛くて可愛くて、勇者の言ったことは嘘だ。慰めようとしてくれたんだ。と二人は言い合ったが、すぐに彼らは正しいとわかった。
そうやって子供を授かった子供を追いかけまわす日が過ぎていった。
今日は、王家主催の園遊会だ。王太子の三番目の子供が女の子だったお祝いと言う事で、なんとなく華やいだ雰囲気だ。
アレクとアーデリアは、しばらく前から王都の屋敷に滞在して、久しぶりの王都を楽しんだ。
今日の園遊会は、子供は子供だけの会があるというので、二人は、長男と次男、長女を連れて城へ行った。
子供の会場に行くと、三人は上機嫌で中に走って行ってしまい、アーデリアは嬉しい反面、寂しさを感じた。
会場では、園遊会に珍しくダンスもできるようで、広場のそばのテントでは楽団が楽しい音楽を流していた。
二人は、勇者仲間を見つけるとちょっと挨拶をして、後日の訪問を約束して、また会場を回った。
そこに控えめに名を呼ばれた。聞くと辺境伯の侍従だった。誘われるままについていくと、先代の辺境伯と辺境伯が揃っていた。
「お呼び立てして申し訳ありません」と二人はきちんと礼をとって挨拶をして来た。
「お詫びと感謝を申し上げたくて、失礼とは承知しておりますが・・・」と切り出してきた辺境伯に、覚えのない二人は戸惑ったが、
「前にわたくしの妻が無礼を」と言いかけたのを受けて、
「そうらしいですね。わたしは混乱していてよくわからなかったのですよ」とアレクが答えると、
「ありがとうございます。辺境伯家はニック公爵家への恩は忘れません」と二人は頭を下げた。
「・・・そう言っていただけるのは、とても名誉ですね。ありがとうございます」とアレクは答えると、
「それでは、失礼します」とその場を離れた。辺境伯二人は頭を下げて見送った。
声が聞こえないくらい離れると、
「きちんと正しいことをなさる方たちなんでしょうけど、昔のことですよね」とアーデリアが言うと、
「そうだね・・・・」とアレクが答えた。
「メアリーさんは、あの時、錯乱なさったみたいで・・・・・アレクのことを愛して」
「そこまで、それ以上はいやだな」とアレクは止めて、
「今の僕たちの幸せは、自分たちで掴み取ったものだ。誰かに譲って貰ったものでなく、奪い取ったものでもない。だから、遠慮なく、幸せを楽しむんだ」
「そうね。アレク」
「では」と言うとアレクは、アーデリアの腰を抱くと、踊りの輪に入って行った。
アレクのリードに任せて、アーデリアは落ち着いて踊った。
しっかりと地に足をつけて、
『相変わらず、素敵なお顔だわ。わたしの旦那様は。こんな最高の婚約者をもらっちゃたわ』とアーデリアは、笑った。
二人がくるくる回ると、アーデリアの微笑みもくるくる回った。
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