25 メアリー・リード 1
メアリー・リード伯爵令嬢は、学院の交流会で兄と話しているアレクサンダー・ニックを見かけた。
兄のそばに行くと紹介して貰った。ライバルは多かったが兄の助けを借りて、親しくなった。
アレクサンダーも明るく無邪気なメアリーに好意を持ったようで、彼から誘われて人気のカフェに行った時は、自分を睨みつける視線を感じて、優越感を味わった。
やがて、父に頼んで婚約の打診をして貰い、無事に婚約者となった。
アレクサンダーが自分に熱い気持ちを向けていないのは、わかったが、少なくとも好意を持ってくれているのは感じていた。
メアリーは幸福だった。そして、アレクサンダーが自分の家族に向ける冷たい気持ちを自分が溶かしてみせると意気込んだ。
婚約時の顔合わせ。両家のお茶会、食事会を企画した。アレクサンダー一家はぎこちないながら、楽しんでくれた。
そして、あの神託が降りた。メアリーは、自分ほど不幸なものはいないと思った。友人が慰める為に家にやってくるし、招待もされた。
出発の時、
「待っています」と泣くメアリーをアレクサンダーは抱きしめて、額と、手に優しくキスをして笑顔で去って行った。
無事に帰って来たと言う知らせを受けて、会いに行ったが、アレクサンダーは顔全体を覆う仮面をつけていた。
「ただいま、戻りました」とリード伯爵に礼を取り、メアリーを見下ろして、
「戻りました」と言った。
メアリーは仮面のなかを想像すると、その胸に飛び込めなかった。
「アレク。仮面をとってくれないか?」とリード伯爵が言うと
「メアリー、君は席を外すかい?」とアレクサンダーが言った。
「わたくしもここにいます。気持ちは変わりません」とメアリーが答えると
「皆さんは外していただけますか?」とアレクサンダーは母と兄を見て言った。
三人になると、アレクサンダーは黙って、静かに仮面を取った。
それを見たとき伯爵は、
「それはなんだ」と叫んだ。メアリーは息をのみ、ついで悲鳴を上げた。
「いやーーー」
そして父親の胸に飛び込んだ。リード伯爵はメアリーを抱きしめながら、
「なんだ。そんなのって・・・・それは・・・・それは化物じゃないか」と叫び
「いや。無理。いや。絶対いやーーー」とメアリーも叫んだ。
静かに仮面をつけたアレクサンダーは落ち着いた声で、
「婚約は破棄でよろしいですか?」
「あたりまえだ。娘をなんと思っている」と伯爵は答え、娘をかかえて部屋を出た。
その後、王宮をはさんで婚約は正式に解消された。
メアリーは友だちに、婚約を解消した経緯を話して、慰めて貰った。
そして、メアリーがあれこれ喋っているのに気づいた兄からそれを咎められたが、気にしなかった。
自慢の美形の婚約者の顔が醜くなったのだ、友達に愚痴るくらい当たり前だと思っていた。
それが、ある日自分のことをうわさしているのを耳にしてしまった。
「顔がどうのこうのって仮面をつけてるし、なんといっても公爵様になるんだから、それくらい・・・」
「そうよね、気にしないわ。でも黙っていればいいのに、ああ喋って回るのはね・・・・」
「ほんと感じわるい・・・・・」
「だけどね、お母様が夜会で二人を見たんですって。なんでもお揃いの仮面をつけて素敵にしてて・・・そしてね。ダンスの時、奥様が慣れてなくて・・・ゴチゴチだったんですって。それをアレク様が、かかえて踊ってらしたって・・・・」
「抱えて?」
「うん、比喩じゃなくて、本当に抱えてね。涼しい顔で踊ったそうよ。もちろんお顔は仮面で隠れていたそうだけど、涼しい顔だったってお母様が・・・」
「そう、今度の園遊会にはわたしたちも出席できるから、二人を見ましょう」
二人の会話は続いていたが、メアリーはその場を立ち去った。
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