22 こんなことって
「役立たずの二人は起きなさい」とカールの声で二人は目を覚ました。
「食べたらすぐに薪を運んでくださいね」と言うとパンを二人に手渡した。
「なんてことなの。わたしを誰だと」とセーラが言ってると
「お母様、さっさと食べた方がいいですよ」とリリベルはパンを齧った。
「わたしは薪なんか運ばないわよ」とセーラは言うと昨日と同じように薪に座った。
リリベルは、黙って薪を運んだ。
「あなたたちがリリベルさんとセーラさんね」と明るい声がした。見ると、気軽なワンピースを着た若い女が立っていた。
リリベルはその服は、いい生地を使い細部のレースは質のいい物だと見てとった。
「あなたは?」
「わたしは、ルイーズ・グールド。孤児でしたが引き取られました」と答えた。
「なんですって」と言ったのはセーラだった。
「父は優しいから、あなたがたは贅沢に暮らしたでしょ・・・・・まぁわたくしもそれなりの暮らしでしたが」とルイーズが言うと手入れの行き届いた髪がさらっと動いた。
「と言うことはあなたは、これからわたくしに尽くしなさい」とセーラが言うと、
「いやよ。愚か者を見に来ただけですもの。縁が切れたって聞いたでしょ?もう忘れたのかしら」とルイーズはくすくす笑った。
「ルイーズ、一人ではダメだと言っただろう」
この声!とリリベルがそちらを見ると、果たしてそこに立っていたのは、サイラス・ブールだった。
「お兄様、出てくるのが早いわ」とルイーズが言うと、
「早くないよ、心配じゃないか。久しぶりだね、リリベル。下手うったんだね。大抵のやつらは儲けたのに・・・・」
反応のない二人に向かって
「もう、忘れちゃったの?ショックだな」とサイラス・ブールはお手上げと両手をあげた。
「お前も・・・・あの人の・・・・」とセーラが言うと
「あぁ、このルイーズのお兄様だよ。血はつながってないけど。同じく孤児だったんだ。本名はレイシスって言うんだ」
「お父様はいつも疲れて帰って来るから、どんなろくでなし母娘だろうと思っていたけど想像以上だわ」とルイーズが笑うと
「ルイーズ、もう戻りなさい。こんなところに長くいるのは良くないよ」とレイシスは言うと軽くルイーズの背中を押した。
「わかったわ。それではお兄様、また後でね」とルイーズは去って行った。
「おまえは恥知らずな生まれじゃないか」とセーラが言うと、
「ひどいなぁ、そんな言い方。両親が死んでしまっただけだよ」とレイシスが言うと、
「卑しい女が生んだ卑しい息子じゃないか」とセーラが言うと、
「ほんとうにそうだわ」とリリベルも一緒になって言った。
「まぁ、お好きに言っていいですが」とレイシスは肩をすくめると、
「さて、あなた方にはっきり言いますね。働きが悪いと食事はないですよ。それともすぐに娼館に行きますか?少なくとも食事は出るかもですね。骨が浮き出た女は、娼館向きじゃないですからね」とレイシスが言うと、
「リリベル、お母さまの為に娼館へ行きなさい」とセーラが言った。
「なんですって・・・・よくもそんな事を」とリリベルが、セーラに掴みかかった。
「娘らしく親に尽くしなさい」と言いながらセーラも負けずに、リリベルの髪を掴んだ。
「自分で仕向けた事とは言いながら・・・・怖い」とレイシスは呟いた。
唸りながら地面を転げまわっていた二人が、動かなくなるとレイシスは二人に近づいた。
「あらら」と二人をそのままにして、人手を借りるためにそこを離れた。
「あらこれはひどいね、薪でなぐり合うなんて。見てたなら止めてよ」と笑いながら言う男に、レイシスは、
「怖くてさ。近寄れなかったんだ。歯が飛んだ時は肝がつぶれたよ」とレイシスが言うと
「歯がなくて、片目が・・・・・うーーん、もしかして両方とも・・・・こっちのお嬢さんもひどいね。随分憎み合ってる同士なのかい?」
「違うよ、母娘だよ」
「なるほどな。まぁ引き取るよ。このまま連れていく」と男が言った。
走り去る馬車を見送るレイシスに声がかけられた。
「予想より早かったな」
「そうですね。父上」
「あの方たちに報告するんですか?」
「いや、ご存知だろうから・・・・」
「そうですね」とレイシスは言った。父の顔を見ないようレイシスは振り向かなかった。
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