02 勇者という名の生贄
魔王が復活したのが、三年前。すぐに五人の勇者が神託で選ばれた。
彼らは報奨として一代限り公爵の爵位と年金。子孫は侯爵を約束されて旅立った。
封印する為に勇者はそれぞれが捧げものをした。
右手を捧げた者。右足を捧げた者。両目を捧げた者。記憶を捧げた者。顔を捧げた者。
勇者たちは失った物はあったが、生きて帰り家族や婚約者に迎えられた。だが、顔を失ったニック侯爵令息の婚約者は逃げ出した。
勇者に対してそのようなことはあってはならないと、王室と貴族は話し合い、高位貴族で婚約者のいない令嬢を探した。
すると第五王子の婚約者の妹である、リリベル・デステが候補にあがった。
令嬢の人となりを聞かれた、第五王子のレイモンドはあたりさわりなく答えた。
「婚約者の妹です。同じように素晴らしい人です」
「ニック殿はその・・・・顔を失いというか醜くなって仮面を外せないが、大丈夫だろうか?」
「リリベルは、まだ子供です。その点アーデリアはわかってくれるかも・・・・」とレイモンドは考えながら答えた。
「アーデリア嬢は殿下の婚約者であるな?」
「はい、その・・・・わかってくれる人だと言っただけです」と無表情で言った殿下に
「なるほど・・・・・そう言う事か。答えにくい事を感謝します」と頭が下げられた。
「いえ・・・・」と言うレイモンドの呟きに答えはなかった。
デステ家は王室からの呼び出しというので、家族四人揃ってやって来た。
「お姉様、多分わたしの婚約の話しですよね。レイモンはお姉様よりわたしの方が可愛いと思ってらっしゃいますよ。お姉様残念でしたね」
「そうね、デステ家を継いで執務に励む覚悟があればそれもいいでしょうね」
「なによ、レイモンがやるわ。サイン位出来ます」
「ほんと、リリベルの言うとおりよ。ちょっと手伝ってるからってね」とサインもしない侯爵である夫人が笑って言った。
爵位は夫人が持っているが、夫人は侯爵夫人と呼ばれている。
『ちょっとではありませんが・・・その衣装代を捻出するのが大変だってわかってないわね』とアーデリアは思ったが、黙って笑いかえしただけだった。
「あの、勇者の一人のニック公爵とリリベルとの婚姻ですか?」と侯爵が戸惑って言うと
「まぁ勇者様との結婚ですか?」とリリベルがいきなり口を出した。
「リリベル、黙りなさい。あなたは・・・」とアーデリアが注意すると
「良い、アーデリア。許す。リリベル・・・・・受けてくれるか?」と国王が言った。
「はい、出発のときに見た勇者様たちは皆様素敵でした。わたしうれしいです」
「そう言ってくれるか・・・・だが、ニック殿が捧げたのは・・・顔だ」
「顔?」と侯爵夫人
「顔って」とリリベルは呟くとすぐに
「いやです。顔が醜いとかいやです」と泣き出した。
リリベルが泣き出した瞬間、アーデリアは花嫁交換ねと思った。でも悪くないかも・・・・顔が醜いと言っても仮面で隠しているでしょうし・・・・位は公爵、子供世代は侯爵。お金は充分。執務の必要はない。家族はいない。
じっと下を向いて誰が最初に口を聞くかなと待った。
「だってレイモンはお姉様よりわたしを愛してます。わたしがその勇者様と結婚するとレイモンが可哀想です」
とリリベルが、泣きながら言うと侯爵夫人が、リリベルに駆け寄り抱きしめた。
『そう来たか』とアーデリアは、ふいに湧き上がって来た嬉しさを隠す為に下を向いた。
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