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妹がいらないと言った婚約者は最高でした  作者: 朝山 みどり


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17/30

17 領地を楽しく

南の国から、戻って来たアレクとアーデリアは、南の国から一緒に来た庭師と相談して、温室は領地に作ると決めた。


 マーク・グリーンと言うこの庭師は、研究熱心でアレクとアーデリアの所なら、いろいろ試せると期待して自分から売り込んで来たのだ。


 温室が完成するまでは、南側の部屋に、大きな浴槽をいくつか持ち込んで、南から持ってきた苗を大切に植えた。


 やがて、温室が完成した。


 南から持って来た植物は、しっかり根付いて育っている。




 そして、アーデリアはこの屋敷のひと部屋を、鏡の部屋とした。何故壁を鏡にしたのか。





 話は、南への旅行中に遡る。旅行中のある日、夕食のワインを少し多めに飲んだアーデリアは、


「アレク、お顔がどんなになっているか聞いてもいい?」


「わたしは、自分でわからないのです。人から聞いただけなので」とアレクが答える。


「自分で見ないの?」


「見てもわからないのですね」とアレクが、気を持たせるように答えるのを、


「わからないって、どういうこと?」


「知りたいと思って、鏡を見るとですね」と言葉を切るアレクに少しいらついたアーデリアは、


「鏡を見ると」と繰り返した。


「鏡・・・・」と言うとアーデリアは、アレクの手を取ると鏡の前に連れて行った。


「アレク。仮面をとって」とアーデリアが鏡の中のアレクを見ながら言った。


「仰せのごとく」とアレクは仮面をはずした。


「はっ」とアーデリアが言った。


 鏡のなかには、いつも見る青い目と、まっすぐな鼻、口・・・・綺麗に整った顔があった。そしてその隣によく知っている自分の間抜け面が、あった。


 鏡のなかのアレクと目が合った。


「鏡にはこういうふうに写るから・・・・実物を見て」とアレクが固い声で言った。


 アーデリアは、その声の真剣さが、怖かったが、ゆっくり横を向いて、息を飲んだ。


 目と鼻から下だけが、そこにあった。



「た・た・確かに、醜いじゃなく、見にくいですね」とアーデリアが言うと、


「そこはもっと驚いて欲しいなぁ」とアレクが言った。口調は強がりだったが、ほっとしたようにも感じられた。


 アーデリアは、鏡のなかのアレクの目をじっと見た。


『これでも人妻。わたしから』とアーデリアは思うと、


 手をアレクの首にかけると、目をつぶって上を向いた。


「うぐ」っと声がして、腕が回されるのを感じた。それから、唇に柔らかいものが、当たった。





 鏡の部屋では、やさしく微笑むアレクと、少し引きつってあせった顔をするアーデリアが、くるくるとダンスを踊っていた。





 二人は、王都よりも領地で過ごす事を好んだ。領地の屋敷は大きく、アーデリアはこの屋敷全部をお店にするのはどうだとアレクに話した。


「広場に小さなお店が並ぶみたいに、部屋をお店にするのよ。王都から馬車で二時間。ちょっと遊びに来るのにいい距離だし、湖を見て、買い物して市場みたいにいろいろ食べるのはどう?それに・・・」


「温室もあるし」とアレクが締めくくった。


「そう、温室も」とアーデリアが言うと、


「それはいいかも知れないね」とアレクが答え、二人は計画を立てて行った。


 馬車が走りやすいように街道を整える。


 馬車も運行しましょう


 お店をやって貰う人を探して、南から買って来た布を形にしてくれる人を探して・・・・




 それから、しばらくして、勧誘した店主候補を連れて、領地の屋敷に向かった。


 湖をぐるっと回って屋敷に向かうと、誰もが景色の素晴らしさに感動したようだった。


 屋敷の中に案内すると、皆、恐る恐る歩いていた。


 だが、ある部屋に、入ったとき「おぉ」と皆がうなった。


 家具を少し片付けて、アーデリアがお店のように商品を並べた場所だ。


 並んでいる商品は、ここにいる候補者たちの店の品物だった。



「わたくしが、こんなお店があったらと思って並べて見ました。ご案内した部屋はどの部屋も使って頂ける部屋です。料金は先に提示した通りです。今から、軽くランチを食べて、もう一度自由にご覧になって下さい。家具はいらなければ片付けます。では、こちらにどうぞ」


 とアーデリアは候補者たちを食堂に案内した。





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