17 領地を楽しく
南の国から、戻って来たアレクとアーデリアは、南の国から一緒に来た庭師と相談して、温室は領地に作ると決めた。
マーク・グリーンと言うこの庭師は、研究熱心でアレクとアーデリアの所なら、いろいろ試せると期待して自分から売り込んで来たのだ。
温室が完成するまでは、南側の部屋に、大きな浴槽をいくつか持ち込んで、南から持ってきた苗を大切に植えた。
やがて、温室が完成した。
南から持って来た植物は、しっかり根付いて育っている。
そして、アーデリアはこの屋敷のひと部屋を、鏡の部屋とした。何故壁を鏡にしたのか。
話は、南への旅行中に遡る。旅行中のある日、夕食のワインを少し多めに飲んだアーデリアは、
「アレク、お顔がどんなになっているか聞いてもいい?」
「わたしは、自分でわからないのです。人から聞いただけなので」とアレクが答える。
「自分で見ないの?」
「見てもわからないのですね」とアレクが、気を持たせるように答えるのを、
「わからないって、どういうこと?」
「知りたいと思って、鏡を見るとですね」と言葉を切るアレクに少しいらついたアーデリアは、
「鏡を見ると」と繰り返した。
「鏡・・・・」と言うとアーデリアは、アレクの手を取ると鏡の前に連れて行った。
「アレク。仮面をとって」とアーデリアが鏡の中のアレクを見ながら言った。
「仰せのごとく」とアレクは仮面をはずした。
「はっ」とアーデリアが言った。
鏡のなかには、いつも見る青い目と、まっすぐな鼻、口・・・・綺麗に整った顔があった。そしてその隣によく知っている自分の間抜け面が、あった。
鏡のなかのアレクと目が合った。
「鏡にはこういうふうに写るから・・・・実物を見て」とアレクが固い声で言った。
アーデリアは、その声の真剣さが、怖かったが、ゆっくり横を向いて、息を飲んだ。
目と鼻から下だけが、そこにあった。
「た・た・確かに、醜いじゃなく、見にくいですね」とアーデリアが言うと、
「そこはもっと驚いて欲しいなぁ」とアレクが言った。口調は強がりだったが、ほっとしたようにも感じられた。
アーデリアは、鏡のなかのアレクの目をじっと見た。
『これでも人妻。わたしから』とアーデリアは思うと、
手をアレクの首にかけると、目をつぶって上を向いた。
「うぐ」っと声がして、腕が回されるのを感じた。それから、唇に柔らかいものが、当たった。
鏡の部屋では、やさしく微笑むアレクと、少し引きつってあせった顔をするアーデリアが、くるくるとダンスを踊っていた。
二人は、王都よりも領地で過ごす事を好んだ。領地の屋敷は大きく、アーデリアはこの屋敷全部をお店にするのはどうだとアレクに話した。
「広場に小さなお店が並ぶみたいに、部屋をお店にするのよ。王都から馬車で二時間。ちょっと遊びに来るのにいい距離だし、湖を見て、買い物して市場みたいにいろいろ食べるのはどう?それに・・・」
「温室もあるし」とアレクが締めくくった。
「そう、温室も」とアーデリアが言うと、
「それはいいかも知れないね」とアレクが答え、二人は計画を立てて行った。
馬車が走りやすいように街道を整える。
馬車も運行しましょう
お店をやって貰う人を探して、南から買って来た布を形にしてくれる人を探して・・・・
それから、しばらくして、勧誘した店主候補を連れて、領地の屋敷に向かった。
湖をぐるっと回って屋敷に向かうと、誰もが景色の素晴らしさに感動したようだった。
屋敷の中に案内すると、皆、恐る恐る歩いていた。
だが、ある部屋に、入ったとき「おぉ」と皆がうなった。
家具を少し片付けて、アーデリアがお店のように商品を並べた場所だ。
並んでいる商品は、ここにいる候補者たちの店の品物だった。
「わたくしが、こんなお店があったらと思って並べて見ました。ご案内した部屋はどの部屋も使って頂ける部屋です。料金は先に提示した通りです。今から、軽くランチを食べて、もう一度自由にご覧になって下さい。家具はいらなければ片付けます。では、こちらにどうぞ」
とアーデリアは候補者たちを食堂に案内した。




