「山の頂上と星の使者」第2章-第4話
ある日、星の使者と2人で山の頂上にいた時、若者は彼女が語ったことを思い返していた。
彼女の言葉には、一貫して「本質」を追い求める姿勢があった。
彼女にとって、誰がそれを語るか、どの立場から語るかは重要ではない。
ただ、それが「本質」であるかどうかだけが問題だった。
「彼女にとって、本質とは何なのだろう?」
若者はつぶやいた。
それに星の使者は静かに語りかけた。
「彼女にとっての本質とは、その存在が変わらずにそこにある理由そのものね。
例えば金持ちについての議論でも、彼女は『金持ちが何を持っているか』『貧乏人が何を持っていないか』ではなく、『なぜそのような状態が存在するのか』に目を向ける。
表面的な議論や立場に囚われるのではなく、すべてを貫く普遍的な原則を探し求めているのよ。」
若者は頷いた。
「彼女は以前こう言っていました。
『金持ちの本質を語るのに、その人が金持ちか貧乏人かなんて関係ない。
ただ、その人が金持ちという概念やその現象についてどれだけ理解しているか、それだけでしょ?』と。
確かに、彼女には他人の偏見や立場はどうでもいいのかもしれませんね。」
彼女が見ている世界では、「誰が」「どこで」「どのように」という問いは二の次だった。
それよりも、その現象や言葉が何を意味しているのか、それがいかに普遍性を持っているかが重視されていた。
彼女はこうも言っていた。
「ねぇ、何でみんな、誰が言ったかとか、どの立場から言ったかばかり気にするの? 金持ちが貧乏人を見下したとか、貧乏人が金持ちを憎んでいるとか、そんな話ばっかり。
そうじゃなくて、『金持ち』っていう存在の仕組みを考えればいいじゃない。
その仕組みがわかれば、それに向き合う方法も見えるんだから。」
星の使者は微笑みながら続けた。
「彼女は『本質』だけを見ている。そして、彼女のような精神が住む世界では、立場や感情、個々の偏見は重要ではないの。
普遍性と真理、それらが唯一の価値を持つわ。」
若者は少し戸惑いながら言った。
「でも、現実の世界では、感情や立場が重要視されることが多い。
『誰が言ったか』で物事が決まることも多いですよね。
そんな中で、彼女のように本質だけを見る生き方は、逆に難しいのではないでしょうか?」
星の使者は頷いた。
「その通りよ。彼女の生き方は、確かに現実の社会では受け入れられにくいこともあるわね。
それが彼女を孤独にする事もあるけれど、逆に彼女の中で強い信念として根付いているわ。」
寓話: 真理を追い求める者たちの集い
ある山の頂に、真理を追い求める者たちが集まる場所があった。
その場所では、身分や立場、過去の栄光や失敗はすべて忘れ去られる。
ただ、その者が真理をどれだけ深く理解し、語ることが出来るか、それだけが試される場所だった。
ある日、一人の老人がやってきた。
彼は自らを偉大な哲学者と名乗り、数々の経歴を語り始めた。
しかし、彼が語る言葉はどれも表面的であり、山の者たちの心には響かなかった。
次に、一人の少女がやってきた。
彼女は若く見えたが、静かに、ただ一言こう言った。
「なぜ太陽は東から昇るのでしょうか?」
その一言に、山の者たちは深い衝撃を受けた。
彼女の言葉には、太陽の昇る理由を知りたいという純粋な探究心が込められていた。
彼女にとって、名前や経歴はどうでもよかった。
ただ、なぜそれが存在するのかを知ること、それだけが重要だった。
※解説
星の使者は語った。
「彼女は、この寓話の少女のような存在よ。
彼女にとって、肩書きや立場、社会的なラベルは無意味。彼女が求めるのは、なぜそれが存在し、どのような意味を持つのかという本質的な問いだけなの。」
若者は少し考え込み、そして言った。
「そうですね。彼女にとって、立場や感情はあまりにも表面的なもので、彼女の精神はもっと深い次元で動いている。だから彼女は『説得力』のような外的要因を嫌うのですね。」
若者はふと思い出した。
彼女が泣きながら言った言葉を。
「私は特別なんかじゃない! 誰だって考える力を持っているのに、なんでみんな使おうとしないの!?
甘いものを食べて甘いって感じる事の何が難しいの!?
舌が無いの!?
ただ、それと同じくらい、みんなも簡単に物事を感じ取れるはずなんだよ!」
星の使者はその言葉を静かに聞き、優しく言った。
「彼女の悲しみは、人々が本質に気づく力を持っているにもかかわらず、それを使おうとしないことにあるわ。
そして、その悲しみは彼女が本質と普遍性を追い求める強さの源でもある。」
若者は大きく息をつきながら星空を見上げた。
「彼女のような精神を理解するには、僕もまだまだですね。」
星の使者は頷きながら言った。
「理解することが全てではないわ。
ただ、彼女のような存在がこの世界にいるという事実を受け入れること、それが第一歩よ。」