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「山の頂上と星の使者」 第1章-第12話




数日後、若者は再び星の使者に会う為、山の頂上に向かっていた。

山頂に差し掛かると、使者と若者はゆっくりと足を止め、空を見上げた。

星々が夜空に広がり、その輝きはまるで遠い時代からの記憶を呼び覚ますようだった。

使者はしばらく無言で空を見つめ、そして口を開いた。


「君は彼女が何を求めているのか、少しずつ見えてきたようね。」


若者は静かにうなずいた。

「はい、ですが星の使者よ、私はまだ彼女の思考を完全に理解したわけではありません。

彼女があのメモに書いていたこと、そしてそのシンプルさの中にこそ深い意味があるということ…それを感じ取ることが出来たとしても、まだ全てを把握したわけではない気がします。」


使者は微笑み、静かに語り始めた。

「それは当然だ。

彼女のような存在は、常に一歩先を行っている。

彼女が見ている世界、考えていることは、簡単には理解できるものではない。

しかし、君が気づいたようにシンプルで直感的な形から彼女の思考を辿っていくことが理解への鍵となる。

その過程を大切にしなければならない。」


若者は深く考え込みながら言った。

「はい、彼女が言っていた言葉を思い出します。

彼女は、難しいことを簡単にするのが良いわけではない、と言っていました。

簡略化しすぎると本質が歪んでしまうとも。

だからこそ、彼女はあんなメモを持ち歩いている。

難しい問題を簡単に解決しようとしているわけではなく、その本質的な部分をシンプルに見極めようとしているのですね。」


使者は目を細めて若者を見つめた。

「その通りよ、難解な問題をシンプルにすることは必ずしも本質に到達するための方法ではない。

むしろ、本質を見極めるためにはその問題をより深く、より多角的に見ることが重要だ。

彼女のメモ帳もその過程の一部だろう。

あの簡単な言葉や数字が、実は彼女の思考の中で無駄を省き、最も純粋な形に近づこうとしている証拠なのだ。」


若者は再び思考を巡らせながら言った。

「でも、そのメモを他の人が見ても、それがどうしてそんなに深い意味を持っているのか理解出来ないのではないですか?

彼女が見ている世界、彼女が見つけようとしている本質…それを他の人に説明することは難しいと思うのです。」


使者は若者に静かに答えた。

「そうね。彼女が見ている世界と他の人の世界は、必ずしも一致しないわ。

それに、彼女の思考を他の人に伝えることは難しいもの。

でも、彼女が考えている事は決して複雑なものではない。簡単な言葉やメモの中に、その本質が込められている。

けれど、それを理解するためには他者もその深い思考を追う覚悟が必要なのよ。」


若者は彼女のメモ帳を再び思い出し、深くうなずいた。

「つまり、本質を捉えた思考は他の誰にも理解されるわけではない。

でも、それは自分が正しいと信じているからこそ成り立つのですね。」


使者はさらに深い意味を込めて言った。

「えぇ。彼女が持っているその自信は、思考の深さと一致しているわ。

本当に深い思考を持つ者は、他者からの理解を求めるのではなく、自分の中でその正当性を感じ取ることができる。それが彼女が持つ力の一つなのよ。」


若者はそれを胸に刻み込みながら、再び星空を見上げた。

星々が彼に語りかけるように輝き、夜の静寂がその思考を包み込んでいった。

星の使者の言葉が心に響き、彼は思った。

「本質を理解する力、それをどれだけ深く追い求めるかが、結局は重要なのですね。」


使者は静かに歩き続け、最後に言った。

「忘れてはならないのは、理解するための道が一つだけではないということ。

彼女が選んだ道を尊重し、その上で自分の道を歩んでいくことが大切なの。

そして「簡単」であることが、必ずしも浅いわけではないということを、覚えておかなければならないわ。」








※解説


この物語では、シンプルさと複雑さ、そして本質を見極めるための深い思考がテーマとなっています。

若者は、彼女のメモ帳に込められた意味を理解しようとし、その過程で「シンプルで直感的な形こそが最も深い意味を含んでいる」ことを学びます。

この理解は他者には伝わりにくいものであり、彼女の様な存在は、しかし自分の中でその正当性を感じ取ることが出来るという点が強調されています。


星の使者は、他者に理解されることを求めず、自分の信念に従って思考を深めることが重要であることを教えています。

若者にとって、この理解はまだ完全には腑に落ちていないものの、彼女の思考とその背後にある力を少しずつ理解し始めています。


また、彼女の思考法においてシンプルな言葉や数字の断片が持つ意味は、彼女が自らの思考を深め、抽象的な理解に向かうための出発点であり、その中に秘められた本質を見抜く力こそが、彼女の思考の核心であることが示されています。

この物語を通じて、簡単であることが必ずしも浅いわけではないという点が再認識され、深い思考を持つ者は、その本質を直感的に捉えることができるという事を共有出来たら嬉しいです。

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