「山の頂上と星の使者」 第1章-第10話
若者は、また山の頂上で星の使者に会っていた。
使者の目は少し遠くを見つめていた、そしてゆっくりと言葉を続けた。
「でも私は知っているの。
理解し合えない者がいるという現実もまた、存在するということを。」
若者は驚き、使者を見つめた。
「理解し合えない、というのは…どういう意味ですか?」
使者は深い溜息をつき、空に輝く星々を一度見上げた後、再び若者に向き直った。
「思考や知識が深ければ深いほど、それを受け入れる準備が出来ていない者には、届かないことがある。
思考や知識は普遍的な真理に至るための道具であり、誰もがその道を辿ることができるわけではないわ。」
若者は困惑した。
「私は努力をすれば、人間は理解し合えるものだと思っていました。
なぜ、理解出来ない人間がいるのでしょうか?」
使者は静かに微笑んだ。
「それは、全ての者がその道を歩む準備をしているわけではないからよ。
知識や思考には、それを受け入れ、消化し、内面で反映させるための成熟度が必要なの。
それが揃っていない者にとっては、深い思考や概念が伝わることは難しいわ。
でも、受け入れる準備が出来ていない者がいることに、
私たちが諦める理由はないの。
それぞれが別々のペースで学び、成長することを尊重し、無理に進めることがないように心がけることが大切。」
若者は思考を巡らせながら言った。
「でも、それでも何かできることがあるはずだと感じます。理解し合えないと感じる相手にも、少しでも自分の思考が届く瞬間があるのではないでしょうか?」
使者は静かに頷いた。
「貴方は素敵な心を持っているわ、その心が1番大切なの。
でも、現実には全ての者がその理解に至るわけではない。思考の深さや概念を、理解する準備ができている者が求めている者には伝わるだろうけれど、それでも一度に全てを伝えることは出来ないわ。」
若者はしばらく黙って考えた。
やがて、彼の中で何かが閃いた。
「本質に辿り着く道は、一つではないということですね。」
使者は静かに答えた。
「その通り、各々が歩む道のりは異なる。
そして、あなたが思っているよりも道のりにおいてすれ違いがあるのは避けられない。
時として、理解の歪みや受け入れられない現実に直面することもある。しかし、それが全てではない。」
若者は使者の言葉に、心の中で答えを見つけたように感じた。
彼の思考がさらに深まり、幾つかの不確かな部分が結びついていった。
若者はふと口を開いた。
「理解し合えない者がいるという事実は、無力感を感じさせることがありますが、それでも諦めずに出来る範囲で繋がりを築き続けることが大切なのですね。」
使者は微笑みながら答えた。
「えぇそうよ。思考を深める者や本質に向かって歩むことが出来る者は、他者に光を届けることができる。
だが、すべてを一度に与えることはできない。
時にはその歩みを待ち、時には一緒に歩むことが求められる。
あなたが進むべき道を歩む中で、その過程の一部として他者の成長を支えたり、その道に光を灯すことができる。」
若者はしばらく黙って使者の言葉を思い返し、その後、ゆっくりと続けた。
「理解し合えない者がいるとしても、その現実を受け入れて、自分ができる範囲でできることをし続ける…。
それこそが、私達人間が次に進むために必要なことなんですね。」
使者は静かに頷いた。
「そう。そしてその過程を通じて、あなたは自分の深い本質に向き合い、他者と共に成長し歩んでいく。
本質を求めること自体が目的であり、その中にこそ無限の可能性が広がっているのよ。」
※解説
この物語では、理解し合えないものが存在する現実に対して、無力感や諦めの気持ちに立ち向かう方法を描きました。
使者の言葉は、思考や知識の深さを追求することは重要であり、その結果として他者との理解を深めようとすることも大切であるということを強調しています。
しかし、それに至る準備が出来ていない者が存在している事は明白です。
その現実を受け入れ、無理に他者を変えようとするのではなく、自分ができる範囲で光を灯し続けることが必要であると示唆しています。
若者が感じたように、理解し合えない者がいる現実は時に苦しく感じるかもしれませんが、使者はその現実を受け入れつつも、諦めずに前進し続けることの重要性を教えているのです。
彼が理解したように、自分ができることを続けながら、他者との繋がりを築くことが、最終的に自己成長と社会的貢献に繋がるという教訓をこの物語には込めました。
また、「彼女」の思考法とも深く通じています。
彼女は、本質を捉えるためには異なる視点や概念を横断的に繋げて考えることを重要視しており、その視点から考えた場合、他者がすぐに理解しないことに対して焦らず、焦点を絞りながら、その理解に向けた歩みを続けることの大切さを理解しています。
深い思考を追求することと同時に、他者にそれを伝え、理解し合う道を模索し続けることこそが、最終的に彼女が目指すべき方向であると言えます。