秋編最終話 くんれんは楽しい!
んふふ。
エルフのでっかいでっかい巣箱から外に出れるようになって、もう結構経った。クーの巣が入った箱も、あるじが机って呼ぶ四角いやつの上になった!
んふふ。
美味しいご飯もいいけど、毎日はやっぱり飽きる。そして目の前には――んふふ。トカゲだ! ……たぶん。ペタペタ歩くのはきっと全部トカゲ。
クーも母みたいにスーって飛べるようになったし、あるじの翼の革に掴まるようになって、脚ももっと強くギュッてできるようになった! 爪も硬くなったもんね! ということで! トカゲをご飯に!
翼をゆっくり広げて、スーって飛ぶ。脚で掴んで……掴んで? ま、いっか。掴んで戻る! そして食べる!
よし! イメージは完璧! 行くぞ!
スィーー
イメージ通り! ……じゃない! 足りない! 一回羽ばたいて――あ、気付かれた! むう。逃さないぞ――って壁が!
ドン
ぐえ。あ、落ち――
ドン
ぐえ。痛たた……。あ! あぁ……トカゲが……ご飯が逃げていく……。クーは二回も痛かったのに……。悲しい。
「クー? 何やってんの?」
『あるじー。クーのご飯が……別腹のご飯がー』
「あ〜。これか――よっと」
あるじ! きょろきょろって見ただけでパッと捕まえた! 凄い! けど……ずるい。あるじの腕には便利な羽根が付いてる……。あるじ、動きも速い。クーのご飯になるはずのトカゲが――トカゲはあるじの手の中……。
「よし、クー。もう一回飛んでみて」
ん? 飛べって言った? じゃあまた机に乗って……。この椅子ってやつがあるとぴょんぴょーんって登れるから楽だね。
『あるじー! 登れたー!』
「じゃあボクが頭押さえとくから……よし、来い!」
おぉ! あるじ! そのトカゲをくれ――はっ! 練習だな? 母ともやったよ! 母とは虫だったけど……。よーし、クーはやるよ! 羽を広げて、お尻を振って――それ! って! また足りない! でもあるじが押さえてるから羽ばたいても平気! ここでガッと! んっふー! やった、やったぞ! では早速……うん、まぁまぁの味。だけど頑張ったから美味しい! ……気がする。
『あるじー! まぁまぁ美味しい気がする!』
「なんか脚が滑って――そっか。踏み切りか。やっぱ留り木いるねぇ」
おー! あるじが頭を掻いてくれる! そこは気持ちいいね。まだ脚が届かないし。もっと掻いて! んふ。そこはくすぐったい。もっとこっち――こっちってどっちだ? ……仕方ない、クーがそっちに合わせよう。やっぱりあるじの手は便利だ! ……けど、あの腕じゃ飛べないしなぁ。クーは飛べたほうが良いや。気持ちいいし。
次の日。あるじが朝から外に連れてってくれたよ。また長くないのと一緒だ。いっぱい長いエルフがいるのに長くないのは一人しかいないな。ま、いいか。クーもひとりだ。なんか色々やってるね。枝なんか持ってる。よくわかんないから退屈だね。
……ん? 変な匂い。食べたらお腹痛くなるやつの匂――あそこか。あ、臭い虫。臭い虫はお腹痛くなる肉を食べるのか。! まぁまぁの味のトカゲだ! 今はお腹いっぱいだからいいか、食べなくて――! トカゲが臭い虫食べた! 口から脚が出てるよ! そっか、お腹痛くなる肉を食べた臭い虫を食べるからトカゲもまぁまぁの味だったのか。お、あれは鳥だね。ちっちゃい。クーと一緒――ううん、クーよりちっちゃいはず! 茶色いし。クーは黒いもんね。だからクーの勝ち! そっかそっか。キミもトカゲを食べるのか。それはまぁまぁの味だ。キミに丁度いい。――あそこの葉っぱは揺れてるね。何かいるぞ。あ、ヘビだ。母と食べたヘビ! あのヘビは結構美味しく――って! ちっちゃい鳥食べた! ヘビ、ちっちゃい鳥食べたよ! うわぁ丸呑み。
『あるじー! 結構美味しいヘビが――』
「クー、もうすぐ出来るからちょっと待ってて」
うん。いつも通りわかってないね。いいけど。ヘビ向こう行っちゃった。でもそっかー。誰かのご飯は誰かのご飯になるのか。あれ? クーも誰かのご飯に……はっ! やっぱりエルフのご飯に――まだなってないね。でも……貰うだけだと……クーもエルフのご飯食べるからエルフのご飯が減っていつかクーも……。あ! そっか! クーもエルフにご飯をわけてあげればいいのか! そうだそうしよう。よし! あるじにご飯をわけてあげよう! まずは――あの臭い虫でいっか。狙いを定めて――それ!
バイーン
あ、紐が! また落ち――
ポテッ
ぐえ。
「クー、何やってんの?」
『あるじー! 紐がばいーんって! 紐がー』
「アッシュ! 出来たよー。吊り枝と潜り輪と滑り板! ツルツルにしたやつと樹皮を付けたままにしたやつとで何種類か作ってみた!」
「ボクのも出来たよ! 留り木をいくつかと組み枝! 嵌め込み式にしたんだ〜。クー、今日から部屋で訓練だよ! く・ん・れ・ん!」
くんれんってなんだ? それからあるじの部屋に戻って、あるじと長くないのが――頑張ってた。ほんとはよくわからない。なんか色々増えた。机と椅子が無くなって、クーの巣がもっと高いとこになったのは嬉しい! 高いのは正義だってさ。……せいぎってなんだ?
「クー、これが留り木だよ。乗ってみて」
枝だね……。森にいっぱいあったから珍しくは――お、向こうにもある。向こうはちょっと高いね。あ、あっちにもある。あっちのは長い……長い……ええっと……蔓だ! 蔓が付いてるね。
「クー、あっちに飛んでみて」
飛ぶのか。飛んでもいいけどまた足りない気が……ん? しっくりくるぞ? お? 脚に力が入るね。これなら――それ! おー! 素敵。スィーっていける! あ、スイスイスーだねこれ! スラスラスイスイスーイだ!
「やっぱ踏み切りだったかぁ〜。じゃあクー。今度はこっち」
今度は蔓の付いた枝ね。――それ! 揺れる! 揺れる揺れる! 楽しい! くんれんって楽しい!
それから色々あるじとくんれんしたよ! 潜り輪を通ったり滑る板を登ったり! 組み枝はぴょんぴょんできるし楽しかった!
……ご飯になる臭い虫をあるじにあげたけど、それはいらないって言われたけどね。
お読み頂きありがとうございました。
秋編はこのエピソードで完結となります。
こちらの物語は「ガランとアッシュの旅路」に登場する架空の鳥、ケンジャフクロウのクーが主人公の物語です。
本編でも活躍しております。
是非そちらもご覧頂ければ嬉しいです。