第2話 お引越し?
母は物知りだ。あの美味しいご飯をくれた、エルフというあちこちが長〜い生き物は、黒いのとも仲良くなれるらしい。
『エルフと仲良くなると、美味しいご飯が食べれるのよ』
あの日から母は色々教えてくれる。
『母〜。どうやったらエルフと仲良くなれるの?』
『エルフのご飯を食べないことね』
あんなに美味しいご飯を食べない……だって。いきなり難しいかもしれない。
『母〜。黒いの、またあのご飯食べたい』
『あの時食べたのは――確か、猪の肉ね』
母は物知りだ。あの時食べたのは猪の肉だったらしい!
『猪の肉か! 母! 黒いのは頑張って猪の肉見つける!』
黒いのは巣から顔を出してあちこちを見た。頑張って首をあっちこっち動かして探すけど猪の肉はどこにもいない。そして黒いのは気付いた。上かもしれない!
『黒い子。何してるの?』
『母! 黒いのは猪の肉を探してる!』
『……黒い子。上には猪の肉はないわ』
母は物知りだ。猪の肉は上じゃなかった。きっと下に隠れてるのだ。でも下には葉っぱと――ネズミしかいない。
『母〜。猪の肉は隠れるのが上手だね。下にはネズミしか――』
キラン。
母の目が輝いた。母は飛ぶのも早い。羽を広げて落ちるようにネズミ目掛けて一直線。あっという間に捕まえた。母は凄い!
『母早い! あ』
母は食べるのも早かった。見てたら黒いのもお腹が減った。
『母〜、黒いのにも――』
戻ってきた母は黒いのにネズミを分けてくれた! 尻尾だけど……。
『黒いの、尻尾だけじゃ足りないから猪の肉も探す……』
黒いのはネズミの尻尾を噛み噛み、猪の肉探しを続けた。でもやっぱりいない。下には葉っぱと――ヘビしかいない。
『母〜。ヘビはいるけど猪の肉は――』
キラン。
母の目が輝いた。母は飛ぶのが早い。羽を広げて落ちるようにヘビ目掛けて一直線。あっという間に捕まえた。母は凄い!
『母〜、今度こそ黒いのにも〜』
戻ってきた母は黒いのにヘビを分けてくれた! 尻尾だけど……違った! ヘビは全部尻尾だ!
『母〜。猪の肉は見つからなかったけど、ヘビも美味しいね』
『……黒い子。あなたが食べてるのはヘビの何かな?』
母が変なことを聞く。
『母、これはヘビの尻尾』
『尻尾じゃなくて、ヘビの尻尾の?』
『尻尾の……尻尾?』
気のせいか母の顔が怖い。
『黒い子、忘れちゃったかなー? もう一度聞くわね、ヘビの――何かなー?』
なんか、笑ってるけど母が怖い。黒いのは知ってる! これは間違うと何か良くないことが起こる。これはヘビの……ヘビの尻尾の……尻尾の……。はっ! ヘビの尻尾の肉だ!
『母! これはヘビの尻尾の肉!』
『そうね、黒い子。じゃあ――猪の肉は何の肉かなー?』
『猪! 黒いのは猪を探す!』
黒いのは猪を探すことにした。少し慌ててるって黒いのもわかってる。だって母が怖い! 目を逸らしたい!
『……黒い子。猪を探しても――』
母が呆れたような声を出したけど気にしてはダメだと何かが告げる! きっとこれが本能! ――あ、いた!
『母! 猪いた!』
『黒い子。あなた目と耳と鼻はいいのよねぇ。でも母は――あなたはちょっとこう……何か大事なモノが……残念な……気がするわ』
『母! 早く猪を!』
『黒い子。猪は母達だけでは――』
母が困っている! ここで黒いのが母を助ければきっと母の機嫌も! よーし、さっきの母を真似して――
『ちょっと! 黒い子!』
母が応援してくれている! 羽を広げて――スーって飛ぶイメージ。母もいつもイメージが大事だって言ってた! スーって飛んでパッと……。よし! やるなら今しかねぇ! やるなら今しか……って、あれ? 長〜いエルフだ。エルフがいる。
『母〜、エルフが来――』
シュバッ!
何か風が飛んでいった! あ、猪が!
シュバッ!
エルフ凄い! 猪倒れちゃった! 横で母もびっくりしてる。けど……。
『母〜。猪、エルフに取られたー。黒いのが先に見つけたのに……』
エルフのご飯を取ったらエルフのご飯になっちゃうのに、黒いののご飯をエルフが取っても黒いののご飯にはならない……。ずるい。
『母〜』
『……黒い子。仕方ないわ、私達だけじゃ猪は捕れないの。――どんなに黒い子が頑張ってもね』
黒いのは母と並んでエルフをじっと見ることしかできなかった。残念。――あれ? エルフがこっち見てる。何だろう?
『母〜。エルフ、どうしたんだろね?』
『もしかしたら……』
母もじっとエルフを見て、エルフに話しかけた。
『ねぇエルフのあなた、探してるんじゃないの?』
猪を捕ったのにまだ探してるのかな?
「――巣立ち前、ね。あなたの子、託す気はないかしら?」
エルフが母に話しかけてるけど――黒いのにはよくわからない。それより猪が気になるよ!
『きっとそうだわ……。黒い子!』
『母、どうしたの?』
『少し早いけど……黒い子、巣立ちなさい』
『巣立ち……? あ! お引越し?』
母は少し嬉しそうで、でも少し寂しそうで。お引越しか。もうすぐお引越しって聞いてたけど……。
『そうよ、黒い子。あなたをあのエルフに託すわ』
『母、黒いのをエルフにたくすの?』
『えぇ黒い子。エルフの近くなら安心だわ。母もあなたにすぐ会いに行ける』
ふぅん。母が安心ならエルフのとこにお引越ししてもいいかな。
『母! 黒いのはエルフと行く!』
『じゃあ黒い子、エルフが持ってる箱。あそこまで飛べる? 母にあなたが飛ぶ姿を見せて』
『いいよ! じゃあ母、見ててね!』
黒いのはやるよ! さっきの母を真似して羽を広げて、と。エルフが持つ箱もしっかり見て、少しお尻を振って……よし! 飛ぶよ! それ!
『母〜! 飛べたー!』
ほんのちょっとだけど、黒いのも飛べたよ、母!