第1話 美味しいやつ
『母〜。お腹減った。お腹減った〜』
最近母はちょっとしかご飯をくれない。不満だ。もっと食べたい。
『黒い子。ご飯はそろそろ自分で探しましょうね。母といつまでも一緒には居られないのよ?』
母はそう言って自分だけご飯を食べる。ずるい。黒いのはまだご飯がよくわからないのに。ずるい。ずるいずるい。
『ずるい――』
あ、心の声が漏れた……。やばい。上から視線を感じる。これはたぶん母を見てはいけないやつだ。こういう時は壁を見て――
『今、ずるいって言った? 黒い子、こっちを見なさい。言ったわよね、ええ、そう聞こえたわ。そんなこと言う黒い子は――』
やっぱり聞かれてた! しかもしっかり目に!
ガシッ
ぐえ。母の大きい脚に掴まれた! 爪は立ってないけど苦しい。
『は、母、くるし……』
あ、風を感じるぞ。母……もしかしてこのまま飛ぶ気じゃ――ぴええええ! やっぱり飛んだ!
『はーはーー! ごめーんなさーい』
取り敢えず謝る! けど……返事してくれない。もしかして捨てられるんじゃ――でも飛ぶって気持ちいいな。お腹減ってるから練習したくないけど。
お、あれはいつも家から見える木だな。ん? なんかでっかい気が……する!
母、母! 枝が近いよ? 母? 母〜! 枝が近い近い! あっあっ危――
ポイ
あ、投げられた。やばい、落ちる。ぴええええ! あ、羽! そう、黒いのも羽があるから飛べる! はず! ……あれ? おかしいぞ? 頑張っても上には……あぁ! 落ちる落ちる! ……うん、死んだかな。短い鳥生だったけど悔いは――って! 悔いしか無い! せめてお腹いっぱい食べてから――
バサッ
ぐえ。――なんだ、ちゃんと葉っぱがいっぱいあるとこだった。母もちゃんと考え――はっ! 母?
『母ー! 母どこー?』
『はぁ、黒い子。母は不安しかないわ。もう少し練習を――いえ、今はいいわ』
母いた! って、母! その勢いで枝に留まると――!
バイーン
あっぶな! 今浮いたよ、浮いた! 母、留まる時はもっとゆっくり枝に……ま、いっか。
『母ー、黒いの、ちゃんと練習するから捨てないで』
『捨てはしないけど、黒い子は母達と一緒より……。それよりほら、こっち来て、あっち見て』
母が見てるのはでっかい……何?
『母、あのでっかくて長ーいのは、ご飯?』
『あれはエルフっていう生き物よ、ご飯じゃないわ。たまにご飯をくれるの。あのエルフの巣には美味しいご飯がいっぱいよ』
『ご飯!』
そうかご飯をくれるのか。よく見とこう。あ、あの鳥! なんか良い匂いのするやつ持っていった!
『母! あの良い匂いがするやつ、ご飯じゃない?』
『あれはあのエルフ達が育ててるやつだから――』
なんか風がぶわっとした! あ、あの良い匂いのを食べようとした鳥が……落ちちゃった。
『勝手に食べようとしたら、ああなっちゃう』
『エルフのご飯を食べようとしたらエルフのご飯になっちゃう!』
『そうよ〜。でもね、見てて』
母? 危ないよ! 風がぶわーってしたらまた――あれ? あ、エルフのご飯を採りにきたのをご飯にするのか。母がんばれー! そいつを捕まえてご飯に……おぉ、母早い! けど、追いかけるだけじゃ……いや、だから捕まえてご飯に――
『母! あっちにもいるよ!』
おー、さすが母! 今度はあっちに――ん? なんか変な匂い……あ、エルフ増えた! あいつが持ってるの臭い。
『母〜。臭〜い。なんか嫌だ〜』
『あの臭いのを撒くのがあのエルフの役目なのよ』
変な役目。あ、さっきの風をぶわーってしたエルフ! 母、危ない! 風が――え? それ、ご飯? ご飯だよね? ご飯だ! 母、それ黒いのも欲しい!
『母! 黒いのも欲し――』
ぬあ! こっち見てる! エルフこっち見てる! 黒いのご飯にされちゃ――あ、ご飯出した! いや、黒いのまだ飛べない――投げてくれた! 黒いのにもご飯キター! では遠慮なく……って! 美味っ! このご飯美味っ!
『母! このご飯美味っ!』
『そう。良かったわね。じゃあ帰るわよ』
ガシッ
え? またこれ――ぐえ。
『母……黒いの、飛ぶ練習頑張っ――うぷ』
美味しいやつを無駄にしないように黒いのは頑張ったよ。