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怨憎・会苦⑤ ver.1.00

各々が巨大狂い人の騒動をおさめるべく動く中で、美智子が経典を唱え終えた。


「やれることはやらせてもらうさ。コンプレックス・ナイト!」


緑の炎に包まれた木刀を地面に突き立てる美智子。


嵐のようにまとわりつく糸が巨大狂い人のまわりにみえはじめる。


まるで自然災害に出くわしたかのように美智子は驚きを隠せなかった。


「……何だこれは。因果の繋がりが異常だ……。いや、これは、もう呪いだ……」


巨大狂い人が悶える。


「エリナ!一旦退くぞ!これはもう狂い人ってレベルじゃない!エリナ!……くそ!」


美智子は巨大狂い人にからまる糸を切断しながらエリナの方へ向かっていった。


悶え狂う巨大狂い人に語りかけるエリナ。


「くそ!困ったことがあったらなんでも言えっていったろ!俺たち、友達じゃなかったのかよ!おい、早苗!なんとか言え!」


エリナは手をみつめ、因果絶ちの能力が反応しないことを感覚としてわかった。


「身近な人間も助けられないかよ」


燃えがる黒煙の中で、エリナは早苗の言葉を思い出した。


(えりちゃんも強いよ、誰かを助けようとする優しさって意味でね。甘々楽さんとこに引き取られる前からずーとだよ)


能力を超え、自らの劣等感を吹き飛ばしてくれた早苗の言葉にエリナは自信をみなぎらせた。


「ありがとうな教えてくれて。早苗、お前だって強えよ。お前はそんなんじゃねーだろ!」


拳を力強く握るエリナ。


「よっしゃゃ!コンプレックス全開だこの野郎!」


過去の記憶をたぐり寄せるエリナ。


力が弱く病弱だったこと。


母を亡くしたこと。


テロ事件時の戦火。


この世のすべてを恨んだこと。


感情が体中の内臓と呼応する。


しだいにエリナの額が縦に割れはじめる。


「あああああああぁ!」


エリナの眼、耳、鼻、口、割れた額から黒い液体が溢れ、全身を包み込みはじめた。


エリナの姿から何かを察した美智子。


「まさか……。エリナ!」


狂い人になりつつあるエリナ。


「これは、気が狂いそうだぜ」


足が沈み込みしだいに巨大狂い人と同化していくエリナ。


巨大狂い人の中でうつむく早苗に、エリナの声が響きはじめる。


「早苗!早苗!」


「えりちゃん、もういい……」


早苗の前に数本のほつれた糸があらわれた。


「これは……?」


ほつれた糸に触れる早苗。


霞んだ映像が早苗の目に映りだす。


「私は、サラリーマンの家に嫁いだの!安心した家庭で暮らしたいの!」


「これは、お母さんの記憶……?」


早苗の前に映りだした映像は加奈子の記憶だった。


「お母さん、遊んで!!」


「ごめんね、お母さんお仕事にいかなくちゃいけないから、お留守番してて」


一人ぼっちでとり残される加奈子。


「これは、おかあさんの子供の時の記憶……?」


次の瞬間、加奈子の記憶だけではなく、祖母、曽祖母、家系に連なる記憶の連鎖が早苗に流れ込んでくる。


早苗は涙が自然と溢れた。


「なにこれ?ずっと変わらないじゃない……。お母さんも、おばあちゃんも、そのまたおばあちゃんも。孤独で、ずっと疲れてて……。永遠に続く不幸の連鎖。……これが私。これが私の運命」


人の世は虚しく因縁だけが受け継がれていった。


次の世代へ、またその次の世代へと。


しかし、その因縁を変えようと、わずかばかりの決意もまたゆっくりと、確実に次の世代へと受け継がれていった。


絶望する早苗に、暖かく光るほつれた糸が目の前にあらわれる。


「……これは?」


光るほつれた糸を包み込む早苗。


その瞬間、加奈子に抱かれ、揺られてた赤子の時の記憶が蘇る。


早苗はいい子だねぇ。

世界で一番かわいい子。

私がいっぱい、いっぱい愛しますからねぇ。

寂しい思いなんかさせないからねぇ。

私のかわいい子。


「お母さん……」


早苗を呼ぶエリナの声が響き渡る。


(いいや、お前は強いよ!誰かのために戦える優しさって意味でな)


「えりちゃん……」


エリナの言葉を思い出し、早苗は力強く拳を握った。


「みんなただただ一所懸命生きてるだけだった。不幸なんかじゃない!ごめんね、お母さん……。全部親のせいにしてた。お母さんも辛かったよね。わたしが終わらせるから!わたしが惨めな思いなんてさせないから!」


早苗が力強く顔をあげると、そこにはエリナの姿があらわれた。


「早苗!」


「えりちゃん!」


早苗に手を伸ばすエリナ。


すると嵐のような黒い糸から数体の骸が早苗の行く手を阻んだ。


「お前もわたしたちと同じだ!親から子へ、子から孫へ!誰も止めることはできない!」


「自分だけは違うと誰もが思う」


「その決意もすぐに消える」


「親の影響は消せない、消えない!!」


「孤独で寂しい、飢えの連鎖!」


「この親殺しが!!!」


呪いのように自らの因縁とともに早苗に巻きつく骸たち。


「娘にさわるな!」


突如、早苗の母・加奈子があらわれた。


早苗にまとわりつく骸たちの腕を払いのける加奈子。


「お母さん!」


「早苗!ごめんね。母さん弱くて。ほんといっぱいいっぱいで……」


うつむく加奈子。


「ううん、私こそごめん……」


加奈子は、これが最後とばかりに早苗の顔を暖かく包み込んだ。


「わたしが世界で一番愛したかわいい子」


加奈子は赤子のころの早苗の面影を重ねながら早苗を撫でた。


親も人だったということを思いながら、早苗も母親を愛おしい眼差しでみつめた。


「ほら、行きなさい!あなたは私とは違う。自分で幸せになれる子。これからが大変だからしっかりね!」


「……うん!」


早苗がエリナの手を取った。


加奈子は骸たちに引き込まれていった。


「早苗、生まれてきてくれてありがとう。……本当に幸せでした」


エリナが巨大狂い人から浮き上がる。


「ぷはっ!うおー!」


早苗も顔が浮き上がる。


「えりちゃん!」


「コンプレックス・ストロング!」


エリナの鼻、目、口から血が溢れる。


「くそったれー!」


エリナが早苗を引き上げようとするが、再び巨大狂人の中に足が沈み込んでいく。


体が限界をむかえていたエリナ。


もうだめかと思われたその瞬間。


「気合いれな!!」


美智子が早苗の腕を掴み、助けに入った。


「美智子!」


エリナの体を支えな、早苗の腕を引っ張る美智子。


渾身の力を振り絞るエリナと美智子。


「せーの!!!」


巨大狂い人から早苗の体が剥がれはじめ、しだいに巨大な芋虫様の体も消滅しはじめた。


すべての状況が終息しかけたその時。


一発の銃声が鳴り響いた。


「コンプレックス・アクセサリー」


左目に眼帯をした女子高生ギャルがライフル銃で早苗の胸を貫いた。


「いっちょあがり〜!」


早苗が倒れ込み、巨大狂い人の体が崩れはじめた。


「早苗ーーー!!」

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