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怨憎・会苦② ver1.01

実践形式で稽古をつける愛子。


攻撃をかわし木製の銃剣を軸に愛子はエリナの腕を締めた。


「イッて!投げ有りかよ」


「攻めはいいが、相変わらず守りが疎かだな。まあ、それがよさでもあるがな」


エリナの身をほどく愛子。エリナは起き上がり、その場であぐらを組んで座った。


「マジいてぇ……。で、話ってなんだよ?」


愛子は道場の上座に座り、手の甲にあごをのせ、エリナに語りかけた。


「エリナ、おまえ、最近、〈因果断ち〉が鈍いらしいな」


「うん、まあ……」


「さっきも言ったが、もうそれに頼るのは辞めな」


「はっ!?だからなんでだよ!」


夕日が差し込み、道場が薄暗くなりはじめた。


「因果断ちはな、その効果から察するに、この世の理から外れている……。それが存在する理由、使い方、使ったことによる反動、そのすべてが謎だ……。それに、なぜ、お前がそれを使えるのかもだ」


道場のろうそくに火を灯す愛子。


「過度なストレスによって生じる超人的な能力、コンプレックス。それは、欲望・憤怒・無知を根源とし、一人の人間に対して一種類だけ発現するといわれている。しかし、それが、どうだ。お前の場合、憤怒を源流とし、体の一部を極端に強化する能力〈コンプレックス・ストロング〉と、どの源流にも属さず、狂い人になった者をもとの姿に戻す〈因果断ちの拳〉、この2つを持ち合わせてる。いまだそのような例は聞いたことがない。しかも、因果断ちの方はその効果が薄れてきていると聞く。狂い人相手に、効果が薄い因果断ちに頼るのは危険だからな」


「……。ああ」


「12年前、狂い人を利用し、テロ事件を起こしたカルト集団の手がかりがあるかもしれない。だから、たまたま得た能力で、狂い人を殺さずに、もとの姿に戻したい。その気持はわからんでもない……。」


12年前の事件を思い出す二人。


愛子は差し込む夕日をみつめ、エリナは拳をぐっと握りしめた。


「〈因果の業〉を積み重ねて発現する狂い人。本来、それらは理性で時間をかけて癒やしていくものさ。しかし、〈因果断ちの拳〉は、その積み重ねた業を消し去ってしまう……。昔の西洋でいうところの魔法みたいなもんだな。どうもその気味の悪さが引っかかる。……まあ、気をつけな。」


するどい目つきでエリナを見つめる愛子。


「それとは別に、先日の戦いで、能力を使い過ぎただろ?」


急に虚をつかれたエリナ。


(美智子の野郎チクリっやがって…)


「何度も言っているが、お前の場合、出力をあげた能力の使用は、せいぜい一日に3度が限界だ。忘れたわけじゃあるまいな?」


「ああ」


「エリナ……。能力者と狂い人は紙一重の存在だ。過度に能力を使い続ければ、人の姿を保つことはできず、能力者は狂い人になる。わたしたちは、たまたま狂い人にならなかっただけなんだよ。分かってるな?」


「……。分かってるよ」


「美智子にお前を殺させるのか?」


「……」


ロウソクの煤が暗闇の中に溶け込んでいった。


同時刻、早苗が帰宅する。


「ただいま……」


リビングからは、いつものように早苗の父・石井俊光と母・石井加奈子の喧嘩する声が聞こえた。


早苗は、親に顔を合わせることなく階段を登り、喧嘩でタイミングが悪いときは、存在を消して自分の部屋へ向かった。


喧嘩が家中に響き渡るので、早苗はいつものように部屋を暗くしてイヤホンで音楽を聞いた。


「なんで私ばっかり!」


「俺もやっているだろう!」


「そうやっていっつも私のせい!」


皿の割れる音が響き渡る。


「やめろ!」


早苗はイヤホン越しに聞こえる騒音をかき消すように音量をあげた。


昔は、いわゆるどこにでもあるような普通の家庭だった。


父・俊光は会社員で定時に帰宅し、母・加奈子は専業主婦をしていた。


しかし、ある日、会社員を窮屈に思っていた俊光は、自営業をはじめたが、それは加奈子が望んでいた家庭の姿ではなかった。


案の定、加奈子は俊光の仕事を手伝うようになり、二人とも朝から晩まで仕事をしていた。


仕事の疲れもあってか、次第に二人の関係は悪くなり、毎晩のように家で喧嘩をしていた。


もともと神経質だった加奈子は寝込みがちになり、家は散らかり、床には割れたガラスの破片が散乱していた。


俊光の洋服が切り刻まれていることも珍しくなかった。


幼少期の時に貧しくて苦労した加奈子にとって、安定したサラリーマン家庭というのは結婚するうえでなによりも絶対だった。


仕事の疲れと幼少期のトラウマ、子供への責任は加奈子のヒステリックを加速させた。


次第に喧嘩は早苗のことでも揉めるようになり、やつあたりの矛先となっていった。


早苗は、両親の機嫌を床の歩く音でわかるようになっていった。


フローリングが強く軋むときは、部屋にこもり、寝てるふりをした。


声を殺し、息を殺し、きずかれないように。


幼少期から今に至るまで何年もこの緊張した家庭環境は続いていた。


私は生まれてきて良かったのだろうか。

私がいったいなにをしたのだろうか。

不幸の原因はわたしなのだろうか。

そう思うと、心臓が苦しくなった。

そう思うと、心臓が痛くなった。

脳が萎縮していくのがわかった。


胸を押さえながら、早苗の瞳から涙が流れた。


「だれか……助けて」


しかし、その涙は、もうすでに黒くにじみはじめていた。

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