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怨憎・会苦① ver1.00

狂い人をもとの人間の姿に戻す能力「因果断ち」に違和感を感じていたエリナ。


美智子の告げ口もあり、養母である甘々楽愛子から学校帰りに道場への呼び出しがかかった。


「美智子のやつ…」


渋りながらも愛子のいる道場へ向かうため、近道である歓楽街の路地裏を通ることにした。


すると、制服姿の1人の少女が3人の不良ギャルたちにからまれていた。


「いいから、出せよ!」


「すいません……。これは……。」


「はあ?聞こえねーよ!」


人助けをするつもりはなかったが、派手目のギャルたちの姿が鼻についたのか、喧嘩腰に近づくエリナ。


「おい。そこどけ」


「あッ?」


「聞こえねぇのかよ。そこどけって言ってんだよ売女野郎。」


「はあ?お前がどけよ!貧乳チビがよ」


エリナの沸点に油を注ぐように、やせ細ったギャルがさらに煽った。


「てか何、その格好?制服はおって、ダブついた白いパンツ。だっさ!ファッションセンスゼロかよ」


制服を着崩したエリナをせせら笑うギャルたちだったが、後ろにいた太めのギャルがなにかを思い出したように口を開いた。


「うん…?ちょ、ちょっと待て。巴学園の制服に白のだぶついたパンツ。そして、チビでロングの黒髪ストレート……。こいつ、もしかしてエリナ・アングレーじゃないか……」


しだいに青ざめるギャルたち。


「アングレー……。わたしもなんか聞いたことあるよ。なんでも、背丈に合わない〈トッコウ服〉っての着て、有名不良校に単身乗り込んで50人を撲殺したっていう。しかも、わけのわからないバイク乗り回して、着物みたいな服着た女の背後霊と夜な夜な街を徘徊してるって……」


自分の噂に虚をつかれ白目越しに睨むエリナ。


そんな様子を知ってか知らずか、リーダー格のギャルがダメ押しを叩き込む。


「強さ、ダサさ、不気味さの三拍子があわさったあの伝説のエリナ・アングレーか!」


「おい! そんだけ知ってりゃ覚悟できてんだよなぁ!」


拳を握りしめ、エリナの沸点はとうに超えていた。


「冗談、冗談!ねえ、みんな?」


「う、うん!冗談だよ」


「あ、そうだ!これからわたしたち買い物あるから。もういかなくっちゃ!」


身の危険を感じたギャルたちはそそくさとその場を去っていった。


「待ちやがれ!」


追いかけようとするエリナに、ギャルたちにからまれていた少女が一礼する。


「あ、ありがとうございます!」


「うん?ああ、きぃつけろよ。なんか言われ損な……」


少女に振り向きもせずにその場を去ろうとするエリナ。


震えた声で、少女が話しかける。


「あ、あの……。えりちゃん……?」


突如、懐かしさを感じるあだ名で呼ばれたエリナは、目を凝らして少女の顔を覗き込んだ。


「……うん?……早苗か!!おお、おお!こんなところでなにやってんだよ!久しぶりだなぁー!何年ぶりだよ!お前、第3市川区に住んでなかったっけ?」


「うん、少し前にこっちに引っ越して」


「なんだよ、連絡ぐらいしろよなー」


旧友に再会した二人にほっと穏やかな空気が流れた。


「それにしても相変わらずだな」


「あっ……うん。ごめん」


「……まあいいや!なんか困ったことあったらいつでも連絡しろよ。連絡先はわかんだろ?」


携帯の時間をみて、慌てるエリナ。


「おっいそがねぇと。ほんじゃな!」


その場を立ち去ろうとするエリナに、目を輝かせながら早苗が呼び止める。


「えりちゃん!」


「うん?」


「……ありがとう!」


旧友とのなんともいえない沈黙と間は、二人だけが知っている暗号のようだった。


「……おう!」


立ち去るエリナの背中をみつめて、早苗は初めて出会ったころを思い出した。



河川敷でいつものように動物図鑑を読んでいた早苗。


秘密のページをめくるように世界に触れることが好きだった。


そんなある時、ガキ大将とその子分が早苗にからんできた。


「かえしてよ!」


「気持ち悪いもの読んでんじゃねーよ」


すると、土手の向こうから声高らかにヒーローが登場する。


「おらぁーー!なにやってんだクソども!」


白の特攻服をマントにように身に着けたエリナだった。


ずば抜けた身体能力で、瞬く間にガキ大将たちを追い払う。


「ざけてんじゃねーぞ!かかってこいよ!」


泣きじゃくる早苗にエリナは優しく寄り添った。


「大丈夫か?」


「う、うん」


涙を拭うぬぐう早苗。


「なんか困ったことがあったら、このエリナ・アングレーをいつでも呼べよ!」


「……。あの……。あ、あり」


「ほんじゃな!」


礼もきかずにその場を立ち去るエリナの背中に、早苗は胸を高鳴らせながらみつめていた。


よぎる過去の思い出と比べても色褪せないエリナの姿に、どこか罪悪感を早苗は感じていた。




太陽が沈みかけてたころに道場に到着したエリナ。


「いち!」


「はい!


「に!」


「はい!」


道場からは、活気のある声が響き渡っていた。


「それでは、やめい!本日の稽古を終える!礼!」


「ありがとうございました!」


帰る道場生とすれ違いで入るエリナ。


「先生ー。きたぜー」


「おお、きたか、エリナ」


稽古終わりの汗を拭う愛子。


「最近、因果断ちの調子が悪いんだってな」


「ああ…」


「おまえ、もうそれ使うのやめな」


「…はあ!?」


単刀直入の言い方に動揺が隠せないエリナ。


愛子は、上座に掛けかけてある木製の銃剣を手に取った。


「コンプレックス……」


木製の銃剣が緑色の炎に包まれる。


エリナに銃口を向ける愛子。


「なっ!なんだよ!まじかよ!」


戸惑うエリナにおくびもせずに銃声が鳴り響いた。

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