中学編6
合唱コンクールも無事終わり、いよいよ夏休みがやってくる。とりあえず部活は夏休み中も毎日あるが、夏休みの計画としては、クラス全体のイベントとして、テストのカンニング事件の際に勝ち取ったバーベキューパーティー(合唱コンクールの打ち上げも兼ねて)がある。
あとは小学生の時から毎年恒例となっている、地元の祭りと花火大会に行かなければならない。例年、剛、遥香、祐佳の4人で行くことになっている。遥香とは表面上は今までと変わらないが、僕の方は日に日に気持ちが大きくなっていっている気がする。
一学期の終業式が終わり、いよいよ夏休みだ。
何かいいことあればいいな。
僕は漠然とそう思ったのだった。
ちなみに、僕の地元は仙台で、8月6、7、8日は仙台では有名な七夕祭りがある。
この七夕祭りは、仙台の街中が装飾されるくらいで、僕らにとってはそんな面白くはない。ただ、8月5日に前夜祭として1万発以上の花火が上がる。僕らは毎年それを見に行っていたのだ。
僕らの最寄り駅から電車で15分で仙台駅に着く。毎年昼頃、駅が一番近い僕の家に集合し、早めに仙台駅に行き、ブラブラと街中を歩いて花火の見える仙台西公園に行く。西公園では出店も多く出ている。花火大会の前の日、剛の家に電話をかける。当時はまだ家電だ。
「もしもし、涼真です。剛いますか?」
「はいはい、ちょっと待ってね。剛―、涼真から電話!」
という、昔はよくあったパターンだ。
「明日昼飯食ったら、家集合」
「了解」
「じゃ」
淡白な感じで終わる。
祐佳の家と遥香の家にも同じことをする。翌日、剛が12時前に来た。
「早くね?」
「風見家で昼を食おうと思って」
「あっそう。母さん! 剛来た! 昼食いたいんだって!」
「ラーメンでいい?」
うちの母親が答える。
「おばさん、最高です」
剛が答える。昼食を食った後、僕の部屋で漫画を読んでると、
「オレ、今日祐佳に告ろうと思ってる」
「ハイハイ、どうせできないだろ」
「今回はマジだ。やっぱりオレはもう我慢できない」
「……なんかあったのか?」
「最近祐佳が他のクラスの男子に告られたみたいで、その話を祐佳からされた流れで、オレには好きな人いないのかって聞かれた。オレ何も答えられなくて、祐佳に『剛はサッカー一筋だもんね』って言われたからさ。オレらってぶっちゃけ、お互いの気持ちをうすうす分かってるくせにビビッて告らないだけじゃん。お前らもそうだろ?」
ずいぶん熱くなってる。普段はクールぶってるくせに……花火大会というイベントがこうさせるのだろうか……
「だからお前も告れ」
「は?」
何言ってんだこいつ……とマジで思った。
「いやいや、お前は覚悟決めてきたからいいけど、オレは何も決めてないから。どさくさに紛れて巻き添えにしようとしてんじゃねーよ」
「覚悟は今決めろ。3秒で決めろ。ゴール前でFWがためらったら、点は取れない」
サッカーで例えるのやめろや……
「オレがパスを出して、お前が決める。涼真はオレのおぜん立てが必要なんだよ」
「待て待て待て」
「待たない。だいたいあの合唱コンクールからの流れで今告んないでいつ告るつもりや?」
「確かに……勝負するか……」
僕も腹をくくった。何より、剛一人だけ行かせるわけにもいかないし、正直遥香と付き合いたい。もたもたして遥香が他の人と付き合うなんて嫌だ。
「じゃあ決定な。とりあえずいつも通り花火見て、フィナーレ直前にお互い連れ出そう。そんで花火のフィナーレと共に告って、元の場所に合流。OK?」
かなりざっくりだがまあいいだろう。
「分かった。どっちかだけ上手くいったら気まずくね?」
「それは考えるな」
そうこう話しているうちに、遥香と祐佳が来た。何と今年は浴衣だった。遥香は黄色系の祐佳は水色系の浴衣だった。
「遥香の家で遥香のお母さんにやってもらった~。どう?」
祐佳が嬉しそうに言った。
「いいんじゃね」
僕と剛の声が揃った。
「何そのやる気のない言い方。つまんなー」
遥香が言う。かわいいと思ったが、今から告白を考えている女の人にそれを言えるほどまだ大人ではない。
かわりにうちの母親が、
「あら、遥香ちゃん祐佳ちゃん2人共似合ってるわよ」
と言っていた。
いざ、電車に乗り出発。僕も剛も緊張して無口になる。もちろん2人に「何か悪いものでも食ったの?(笑)」と突っ込まれるが、特に何も気の利いたことは返せず、「今年は何食べるー?」とか「〇〇達も行くって行ってたよー」とかのたわいもない話にも相づちを打つくらいしかできてなかった。祐佳と遥香はヒソヒソと2人で話してはゲラゲラ笑っていた。絶対うちらのことバカにしているな。と雰囲気で分かった。
公園に着き、場所を確保した。花火が始まり、
「綺麗だねー」
と言われるが、それどころではない。30分以上過ぎ、そろそろフィナーレが近づいていたころ、僕の心臓はピークを迎えていた。剛が僕を呼ぶが気づかない。隣にいた遥香に、
「剛が呼んでるけど」
と言われ初めて気が付いた。剛は僕の方を見てアイコンタクトをしてくる。こいつ余裕あんなー。と感心していたら、
「祐佳ちょっと来て」
と祐佳を連れて行った。計画では僕も遥香を連れ出す予定だったが、2人がいなくなったんだから、ここで良くないか。と、いろいろ考えてテンパった。そしたら遥香が、
「剛どうしたの?」
と言うもんだから、
「さぁ?」
としらばっくれた。が、遥香は勘が良い。
「もしかしてついに? ついに?」
と1人でテンションが上がっていた。
僕も言うしかないと、決めた。
「遥香……オレも遥香に話がある」
「……何?」
遥香の表情が真剣な顔になった。
「オレ、ずっと遥香のことが好きだった。昔から当たり前すぎて言えなかったけど、本当に好きだ。オレと付き合って」
「いつから?」
「え?」
「いつから好きだったの?」
「なんで?」
「いいから答えなさいよ」
「小5の時かな。きっかけは特にないけど、気が付いたら好きだった」
「へ~、その告白却下。聞かなかったことにする」
「なんで? オレじゃあだめなわけ?」
よく分からない答えに、僕は戸惑った。
「私は小3の時から好きだったのに……。私の方が好きな期間長いから私から言わせて。涼真、ずっと好きでした。いつ気持ち伝えようかずっと迷ってたけど、私もなかなか言えなくて。危なっかしいけど頑張ってる涼真が好き。私と付き合って」
「お前ずるいよ……」
「まあいいからいいから(笑)びっくりした?」
「めっちゃビビった」
「返事をどうぞ」
「もちろんOKです」
「ありがとう」
「よろしくな」
「なんか改まってだと恥ずかしいね」
「そうだな。剛はどうなっただろう」
「やっぱり2人で企んでたのね。今日ずっと変だと思ってたんだよ。祐佳は大丈夫。祐佳だって待ってたんだから」
剛と祐佳が帰ってきた。剛とアイコンタクトをとる。ダルダルに緩み切った表情を見れば結果は聞かなくても分かる。たぶん僕も同じだったんだろうが。
剛は片手を上げ僕の方に来る。こうゆう時はハイタッチだ。
パーン!
「やったな」
「お前こそ」
遥香と祐佳も両手を繋いで喜んでいる。ここらへんでちょうど花火が終わった。
「今年も夏の恒例行事が終わったな。これ4人で来るの何年目だっけ?」
帰り道、僕が口を開く
「4人は祐佳が転校してきてからだから4回目じゃない?」
遥香が言った。
「でも3人はもっと前から来てるんでしょ~?」
祐佳が若干嫌味っぽく言った。
「でも、4年生までは親も一緒に来てたよな。5年生で初めてオレらだけで行ったんじゃん」
剛が答える。
「そうそう。初めてみんなで来た時なんて、わたあめの袋にキティちゃんがなくて遥香が泣いてたからね(笑)小学生にもなって」
「余計なことは覚えてるんだから……」
行きとは違い、帰りは全員テンション高くずっとしゃべりながら帰ってた。この時はこれが毎年続いていくと思っていた……。
その日、帰ってからは嬉しさのあまり、寝ていた弟を起こし、ゲームに付き合わせ、寝る前に布団で暴れていた。
次の日からは。基本的にはいつもと変わらない毎日が続いた。部活の時間が合えば一緒に下校するし、お互いの家にも行く。でも、僕も中2の男子なので、付き合って次に「すること」で頭がいっぱいになっていた。しかし、タイミングが分からない。こればっかりは剛に相談するようなことでもない気がする。
そんなこんなで夏休みも終盤を迎え、これも恒例行事となっている、「夏休みの宿題終わらせるの会」が開かれた。
今年の会場は遥香の家。遥香は一人っ子で家はでかい。ピアノも置いてある。遥香のお父さんは一流企業に勤めているバリバリのサラリーマンらしい。お母さんは音楽の先生だ。お父さんは昔野球をやっていたらしく、男の子ができたら野球をやらせたかったらしいが、遥香が生まれ断念したらしい。元々体育会系の人間だからか、僕が家に遊びに行くと喜んでくれる。そしてサッカーの話を聞いてくれる。うちの親とも仲が良く、自分の息子でもないのに予定が合えば僕のサッカーの試合も見に来てくれたりした。さすがに付き合ったことは僕も遥香も言っていない……。
この会は基本、剛の為にやっているようなものだ。遥香と祐佳はコツコツやるタイプ。僕は最後まで残しておくタイプだが、容量が良いので、すぐ終わらせることができる。剛は普通にやらないで夏休みを終えようとする。
小5の時に怖い男の先生が担任になって、やらなきゃ殺されると思ってから、この行事は毎年続いている。殺されるというのは冗談ではない。当時はギリギリ生徒を殴っても平気だった時代だ。僕も騒ぎすぎて顔面を殴られて鼻血を出したことがある。
部活が全員午前で終わり、昼から遥香の家で宿題が始まった。それが3日くらい続くのだが、僕は2日目の夕方に全て終わらせた。遥香と祐佳も似たようなものかちょっと早く終わらせていた。そうなると残りは剛だ。僕はめんどうなので、遥香の部屋で漫画を読む。今遥香の部屋にある漫画でハマっているのは「花より男子」だ。F4かっけーと思いながら全巻読破を目指していた。夏休み終わったら僕、剛、翔平、俊一でF4になろうかな。そしたら花沢類のポジションがかっこいいかなーなんて思っていたら、
「あんたも手伝いなさいよ!」
遥香がキレた。剛の宿題の終わりが見えないらしい。
「えー、やだよ。2人いれば十分だろ」
「これは私たちじゃ無理。そもそものやる気の問題」
祐佳が嘆いた。
ポイッ。
僕は机の上に自分のテキストを投げた。
「これ写せ」
「さすが涼真」
剛が僕のテキストを手に取ろうとした瞬間……
バチン!
祐佳が僕のテキストを机から叩き落した。
「いい加減にしろよ」
やばい、祐佳がキレそうだ。普段は穏やかで優しいのだが、キレるとマジでやばい。バスケの試合中もキレるとプレーが豹変する。剛も気が強いし、この2人はケンカしたら大変だった。
「何すんだよ!」
「自分でやれ! 涼真もめんどくさいからって適当なことしない!」
「はい……」
しょうがないから3人で剛に真面目に取り組ませた。その結果、3日目の晩御飯前には全員無事宿題が終わった。
遥香のお母さんがご馳走を作ってくれ、みんなで食べた後、外に出て近くの公園で花火をやった。ロケット花火をやる前に、剛と祐佳に水を汲んできてもらうように頼んだ。広い公園だったので、2人は自転車2ケツで行った。幸せそうだったので、帰りに2人に向かってロケット花火を打ち込んでやった。剛が慌てて避けていた。遥香も、
「やめなよ」
と言いながら笑っていた。
2人には殴られたけど、楽しかった。残りが線香花火しかなくなり、自然と僕と遥香、剛と祐佳で離れてそれをやることになった。僕らは、定番の線香花火をどっちが長く続くかの勝負をした。
「何賭ける?」
遥香が言う。僕はこの日、もの凄く楽しく、テンションもおかしかったからか、
「オレが勝ったらキスしていい?」
と聞いてしまった。
「は? やめてよ恥ずかしい」
と言われ肩を叩かれた。
下を向いてしまったので、僕が冗談だよ。と声をかけようとした時、
「じゃあ私が勝ったら、涼真からしてね」
と下を向いたまま言われた。
「それどんな賭け?」
「いいからやるよ。よーいスタート」
パチパチパチ……どんどん火花が大きくなり、先が膨らんでいく。遥香の線香花火が最後大きく光り、ポタ……その数秒後、僕のも光って落ちた。
「この場合って……」
と僕が言い終わる前に、
「目つむって、早く!」
「え?」
僕はドキドキしながら言われるがまま目をつむった。その瞬間、遥香の唇が僕の
唇に重なった。たぶん数秒のことなのだが、僕にとっては一瞬だった。もうちょっと心の準備がほしかった……それが僕のファーストキスだった。
レモンの味とかではなく、花火の匂いだったのが印象的であった。
僕は遥香の手を握った。
「ファーストキスだね」
遥香が言った。
「よくそんな恥ずかしいこと言えるな」
「あんたにだからね」
2人で笑い合った。
そうやって僕の中2の夏休みは終わっていった。遥香と付き合うことが決まってからは、前みたいに何も手に着かなくなる状況はなくなった。逆に何事にもやる気が出始めて怖いくらいである。結局僕は好きな人にカッコいいところを見せたいだけなのだと思った。
剛たちもうまくやっているみたいだ。中2の夏休み後なんて、夏休み中に誰と誰が付き合ったとか、そんな話でもちきりだ。このくらいの年の人間は基本的には付き合っていることを隠そうとする。けど、態度だったり、目撃情報で大抵バレるのだ。中学生の行動範囲なんてたかが知れている。
でも、僕らは元々仲が良かったこともあり、剛と祐佳以外には知られていない。あえて自分達から言うこともないので、余計に知られることはない。うちのクラスでは翔平が麻美と付き合うことになったらしい。翔平はバカすぎるからすぐバレる。
「うかれすぎててうざい」
僕は翔平に言った。翔平はいつも通りに落ち込む。
付き合ったことが分かられてないことの問題とすれば、お互いに告白をされるということだ。遥香はモテる。同級生にも先輩にも2ヶ月に一回くらいのペースで告白される。僕も遥香ほどではないが、中学に入ってから何人かに告白されていた。もちろんお互いに全部話してはいたのだが、付き合い始めてからは、若干不安になる。だから、周りに言うか言わないかでちょっと揉めたことがある。結局言わないで、自然に任せることにした。