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プロ編11

 大学の入学式までは本当にやることがない。自主練ももうする必要がない。みんなから、走り続けた分、少し休んでいいんじゃない? と言われたが、いざ休んでみても、ボールが蹴りたくなる。膝がまだ完全じゃないので蹴れないのが辛かった。


 光莉も職場に復帰し、頑張っている。僕は本当に日中やることがなく、車の免許を取りに行った。ほぼ毎日行っていたので、2ヶ月くらい取れた。即行で車も買った。軽自動車だが。


 実は僕は物欲がほとんどない。

 車も興味がないし、別にブランド物の何かがほしいわけでもない。何かを一回使うと、愛着が湧いてしまい、ボロボロになるまで使い続けてしまうほど物持ちもいい。パチンコなどのギャンブルをするわけでもないし、お金のかかる趣味があるわけでもない。

 なので、現役時代からお金はほとんど使ってないのだ。強いて言えば、友達などと遊びに行ったり、飲みに行ったりする時に使うくらいだ。しかし、意識を高く持ち始めてからは飲みに行く回数も減り、ますます使わなくなった。

 そんなわけなので、プロ生活でかなりの貯金ができていた。シンガポールでなんて、住むところも、食事も準備されていたし、着るものは全てチームから支給されるので、給料にほとんど手を付けない月もあったくらいだ。

 なので、大学の学費や自動車学校代や車を買うのには十分な貯えがあった。それでもまだ余っている。

 まあ、大学の学費に関しては、親が半分出してくれたが。いらないと断ったのに、元々僕が大学行くために貯めていたものだからと、強引に受け取らせられた。



 年明けから少し経った頃、光莉が、


「りょうの誕生日どうするー?」


 と聞いてきた。


「任せるよ(笑)それ聞くもんなの?」

「だってそうゆうのよく分からないんだもん(笑)」

「じゃあ、うちに来る? たぶんその日オレ一人だから」

「いいの? やったー!」


 そう言って、喜んでくれた。

 光莉に何かしてあげたくて、その日は僕が晩ご飯を作ることにした。ちなみに料理は「やればできる」と思っていた。当然習慣的に自炊をした経験はない。ただ、シンガポールで日本のカレーが食べたくなって、良太と作ったことはある。なので、得意料理はカレーなのだ。この日も特製カレーを作ろうとした。光莉が昼過ぎに来て、今日のご飯は僕が準備すると伝えた。

 光莉は、


「誕生日なのにいいよー」


 と言ったが、僕は強引に作った。

 そして、食べさせた。

 光莉は、


「本当においしいね。言うだけあるわ」


 と、一応喜んでくれた。

 カレーを食べ終わった後、光莉がケーキを出してきた。


「22歳の誕生日おめでとう。これからも一緒にいてね」


 と言われた。


「22歳から大学生だよ。同級生は卒業する歳なのに恥ずかしいな」


 そう言うと、隣に座っていた光莉は僕の手を握り、真剣な顔をしてこっちを見て言った。


「りょうは人よりいっぱいいろんな経験してるんだから恥ずかしがることないよ。最短の時間を最短距離で歩いても、そこはみんなが通る道だから、歩きやすいかもしれないけど、貴重なものは拾われていて、落ちてないの。遠回りをして、誰も歩かないような道は、歩きにくいかもしれないけど、誰も通らない分、いっぱい貴重なものがまだ落ちていて、それを見つけられているはずだよ」


 僕はその光莉の言葉に感動した。

 浪人中、大学行くのを辞めてプロを目指したのに、結局大学に行くのかよ……と少し思っていたからだ。


「ありがとう。なんかスッとした」


 とお礼を言った。そしたら光莉が笑顔になった。この笑顔が本当に好きだなと思った。

 光莉はその後、プレゼントと言って、GUCCIのキーケースをくれた。

 その日はうちに泊まっていった。

 僕の布団に入り、


「この匂い落ち着くー」


 と言ってはしゃいでいた。僕も光莉の少し香水の混じった匂いが好きだった。

 一緒に布団に入り、


「大好きだよ。今日はありがとう」


 と言った。

 光莉も、


「私も大好き」


 そう言って一緒に寝た。

 ここ数年、自分の誕生日にはもう既にチームが始動していたため、久しぶりに良い誕生日だったと思う。

 次の日、一人で寝た時、光莉の匂いが枕に残っていて、幸せな気持ちになった。



 その後も、光莉はちょくちょく僕の家に来るようになった。僕は両親に光莉のことを紹介した。

 バレンタインの日も家に来た。光莉は仕事が溜まっていると言い、僕の部屋で幼稚園の仕事を始めた。邪魔しないように本を読んでいたら、チョコレートを投げられた。


「はい、バレンタイン」

「どんな渡し方だよ(笑)」

「ごめんごめん(笑)」


 そんな何気ないやり取りも楽しかった。

 僕はホワイトデーに、光莉に幼稚園で使うエプロンを買った。光莉がたまに僕のことを、


「セサミストリートのエルモに似てる(笑)」


 と、いじってくるので、エルモの顔がでっかく書いてあるエプロンを買って、投げて渡した。



 僕は光莉の家にも行くようになった。就職して県外にいるお兄ちゃんには会ったことはなかったが、両親と弟には挨拶をし、話せるようになった。一番初めに家に行く前光莉が、


「うちのお母さんぶっとんでるけど気にしないでね?」


 と言っていた。

 僕がお母さんに挨拶すると永遠にしゃべり続けられた。何でも、長男がサッカーを好きらしく、お母さんも好きになったらしい、家でサッカーの話ばかりするものだから、光莉はうっとうしくて逆にサッカーに興味がなくなったなど、マシンガンのようにしゃべり続けた。

 僕が選手だったのは光莉から聞いて知っているらしい。Jリーグ名鑑を取り出して、僕の写真と僕を比べて、


「本物だー!」


 と言っていた。

 そして、新潟の日本代表選手のサインが欲しいと言われ、


「今度もらってきますね」


 と言ったらテンションがめちゃくちゃ上がっていた。そして、名鑑を僕に見せ、


「じゃあ、この選手とこの選手のも……」


 と言い始めたところで光莉が、


「もう辞めて! 私の部屋行こう」


 とお母さんを止めた。

 僕はその日、光莉にシンガポールで使っていたユニフォームをあげた。光莉は喜んで、すぐに部屋に飾り始めた。


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